企業活動において、委託先のリスク管理、情報セキュリティの重要性は年々増しています。

 

本記事では、2024年のサイバー攻撃の事例を振り返るとともに、2025年に企業が直面する委託先リスクの脅威とその対策について解説します。

 

1. 情報漏えいの大規模化が企業に与える影響とは?

近年、サイバー攻撃がますます巧妙化し、その影響は企業の規模や業界を問わず広がっています。特に、2024年に起きた複数の事例では、委託先がサイバー攻撃を受けたことで、委託元企業にも波及的な被害が生じました。

たとえば、大手印刷業者のイセトーが受けたランサムウェア攻撃では、3,000社以上の顧客企業に影響が及び、自治体や銀行、企業の情報が大規模に漏えいしました。これにより、委託先リスク管理の重要性が改めて浮き彫りとなりました。

さらに、IPA(情報処理推進機構)は、ランサムウェアと並びサプライチェーン攻撃を2024年の主要な脅威として挙げています。

 

【参考】

IPA「情報セキュリティ10大脅威 2024

 

 

2. 委託先リスクが引き起こす影響も多面的に

委託先リスクが引き起こす影響は、単なる金銭的損失にとどまりません。以下のような多面的な影響があります。

 

  • ブランドイメージの低下:顧客情報が漏えいすれば、企業への信頼の喪失は避けられず、失われた信頼を取り戻すのも困難です。
  • 規制違反による罰則:個人情報保護法への違反により、刑事罰や罰金などの罰則が科される可能性があります。民事上の法的責任(損害賠償義務)も生じ、個人情報が漏えいした被害者から損害賠償が請求される場合もあります。
  • 業務停止・業務遅延:サイバー攻撃により、業務が一時的に停止し、事業継続に深刻な影響を及ぼします。

実際、2024年に株式会社KADOKAWAが受けた攻撃では、ランサムウェアにより複数のサービスが停止し、復旧までに約2カ月を要しました。この間の損失や影響は計り知れません。

 

【参考】

KADOKAWA「ランサムウェア攻撃による情報漏洩に関するお知らせ

 

 

3. 『危機管理白書2025』にも登場した委託先リスク

危機管理とBCPの専門メディア「リスク対策.com」が発行している「危機管理白書2025年版」でも、2024年を10のキーワードで振り返り2025年に必要な対策を考える「危機管理キーワード2024」として、「脆弱性の露呈」、「二重被災」、「気候変動の脅威」などと並んで「委託先リスク」がサイバー攻撃の新たな盲点として選出されています。

 

【参考】

リスク対策.com「危機管理白書2025年版 防災・BCPの年間分析レポート

 

 

4. 2025年に企業が注意すべき委託先リスクの重要ポイント

企業が委託先リスクを適切に管理するためには、以下のポイントに留意する必要があります。

 

1.サプライチェーン全体でのセキュリティ強化

自社だけではなく、委託先を含めたサプライチェーン全体のセキュリティを向上させることが必要です。

セキュリティ強化の具体例:

  • 委託先選定基準の厳格化:セキュリティ要件を満たす企業と契約する
  • 定期的な監査:委託先のセキュリティ状況を継続的に評価する
  • 包括的な監視体制の構築:ランサムウェア攻撃を防ぐための予防策を講じる

 

2.データ暗号化やバックアップ体制の強化

情報漏えいリスクを最小化するためには、データそのものを守る取り組みも必要です。

  • データ暗号化:機密情報を暗号化し、不正アクセス時の被害を軽減させる
  • 定期的なバックアップ:重要なデータを定期的にバックアップし、復旧体制を整備する

 

3.被害拡大防止と迅速な対応体制の構築

万が一の攻撃に備えて、以下のような対策が重要です。

  • 早期発見の体制整備:異常を検知する仕組みを導入する
  • シミュレーション訓練:事前訓練により、実際の対応力を向上させる
  • 迅速な情報共有:被害が拡大しないよう、関連部門と即座に連携する

 

4.ID管理やソフトウェア更新など、セキュリティ基本対策の徹底

サイバーセキュリティの基本を全社で徹底することも忘れてはいけません。

  • アクセス権限の厳格化:定期的に権限をチェックし、不要な権限を排除することでリスクを軽減する
  • ソフトウェア更新の徹底:ファームウェアやOSを常に最新状態に保つ
  • パスワード管理:使い回しを禁止し、不正ログイン被害の波及を防ぐ

 

5.教育・訓練の強化

セキュリティ対策を徹底するには、従業員や関連パートナーへの教育も不可欠です。

  • セキュリティ研修の実施:全社員に基本的なセキュリティ教育を実施する
  • 啓発キャンペーン:リスク認識を高めるための社内イベントや資料配布を行う

 

6.新たなテクノロジーの活用

場合によっては、AIやブロックチェーンなどの技術を活用し、セキュリティ対策を強化することも検討できるかもしれません。

    • AIによる異常検知:ネットワーク上の異常を迅速に検知する
  • ブロックチェーン技術:データの改ざん防止や安全なトランザクションを実現する

 

 

5. 未来を見据えた委託先リスク管理の必要性

業務委託については、単なるコスト削減ではなく、セキュリティを含む総合的な価値を追求することが求められています。今後、委託先リスク管理を中長期的な戦略の一環として位置づける必要性もますます増加するのではないかと考えられます。従業員やパートナー企業を対象にした教育・訓練を通じて、リスク意識を全体的に向上させることも不可欠です。

 

これからの時代、委託先リスクの適切な管理こそが、企業の競争力を左右する重要な要素となるでしょう。適切な対策を講じ、未来を見据えたリスク管理に取り組んでいきましょう。

 

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