CSRとは、企業が利益を追求するだけでなく、社会や環境への配慮を行う責任を指します。企業の信頼性向上やブランド価値の向上に寄与し、企業の長期的な成長を支える要素となっています。
本記事では、CSRの概要やCSR活動のメリット・デメリットについて解説します。
1. CSRとは
CSRとは、企業が社会や環境に対して果たすべき責任を指します。単なる法令遵守を超え、持続可能な社会の実現を目指す活動です。企業が経済的利益だけでなく、社会や環境に対しても責任を持つべきであるという考え方に基づいています。
CSRが重視されているのは、環境問題や社会的課題が顕在化し、企業活動がこれらに与える影響が無視できなくなっているからです。消費者や投資家の意識も変化し、企業の社会的責任を評価する視点が強まっています。そのため、企業はCSR活動を通じて社会的価値を創出し、ステークホルダーとの信頼関係を築くことが求められています。
■CSRの背景
日本におけるCSRの背景には、1990年代以降、企業の不祥事や環境問題が社会的に注目され始めたことが挙げられます。この時期に、多くの企業がステークホルダーの期待に応える形でCSR活動を強化しました。さらに、グローバル化の進展に伴い、日本企業も国際的な基準に合わせたCSR活動を求められるようになりました。ISO26000などの国際規格が登場したことで、企業は具体的な指針に基づいて活動を展開することが可能になりました。CSRは単なる企業のイメージ戦略を超え、持続可能な社会の実現に向けた重要な要素として位置付けられています。
■ISO26000と7つの原則
ISO26000とは、企業が社会的責任を果たすための指針を提供している国際規格です。ISO26000では、以下の7つの原則と7つの中核課題が提示されています。
7つの原則 |
7つの中核課題 |
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2. CSRと類似した用語との関係性・違い
■サステナビリティとの関係性・違い
CSRとサステナビリティはどちらも企業活動において重要なコンセプトですが、異なる側面を持っています。
CSRは企業が社会や環境に対して責任を持ち、倫理的に事業を行うことを重視します。具体的な活動には、法令遵守や労働環境の改善、地域社会への貢献などが含まれます。一方、サステナビリティは、企業が長期的に持続可能な方法で成長し、地球環境や社会に配慮したビジネスモデルを構築することを目指します。具体的な活動には、資源の効率的な利用や再生可能エネルギーの導入など、地球規模の課題に対応する取り組みが含まれます。
CSRは企業の社会的責任を果たすための具体的な行動であるのに対し、サステナビリティはその行動が持続可能であることを確保するための広範な視点を提供します。両者は相互補完的であり、企業が持続可能な発展を遂げるためには、両方の視点を統合することが求められます。
■SDGsとの関係性・違い
SDGsとCSRはどちらも持続可能な社会を目指す取り組みを重視していますが、そのアプローチには違いがあります。CSRは企業が社会的責任を果たすための活動を指し、環境保護や労働条件の改善などを通じて、社会に貢献することを目的としています。一方、SDGsは貧困や教育、気候変動など、地球規模の課題に取り組むための指針です。企業はCSR活動を通じて、SDGsの達成に貢献することが期待されています。日本ではSDGsの達成を視野に入れたCSR活動が増加しており、企業の競争力を高める要因ともなっています。
■コンプライアンスとの関係性・違い
コンプライアンスとCSRは企業活動において重要な役割を果たしていますが、その目的や内容に違いがあります。コンプライアンスとは、法令や規則を遵守することを指し、企業が法的リスクを避けるための基本的な枠組みです。これに対して、CSRは企業が社会や環境に対して責任を持ち、持続可能な社会の実現に貢献することを目指します。CSRは倫理的な観点からの企業活動を含み、法令遵守以上の取り組みを求められることが多いです。例えば、環境保護や地域社会への貢献などが挙げられます。両者は相互に関連しており、コンプライアンスがCSR活動の基盤となる一方、CSRの実践が企業のコンプライアンス意識を高めることにもつながります。
■CSVとの関係性・違い
CSVは、企業が社会的価値と経済的価値を同時に創出することを目指す概念です。これはCSRとしばしば混同されますが、両者には明確な違いがあります。CSRは企業が社会的責任を果たすための活動であり、倫理的な観点からの取り組みが重視されます。一方、CSVは企業の競争力を高めるために社会問題をビジネスチャンスと捉え、利益と社会貢献を両立させることを目指します。例えば、ある食品企業が栄養価の高い製品を提供しつつ、地域農家の収入向上を図ることがCSVの実践例です。CSRが企業の社会的責任を果たすための活動であるのに対し、CSVはビジネス戦略として社会課題の解決を追求します。
■ボランティア活動との関係性・違い
CSRとボランティア活動は社会貢献を目指す点で共通していますが、その性質には明確な違いがあります。CSRは企業が社会や環境に対する責任を果たすための包括的な戦略を指し、利益追求と社会貢献の両立を目指します。具体的には、持続可能なビジネスモデルの構築や、労働環境の改善などが含まれます。一方、ボランティア活動は個人や団体が自発的に行う社会貢献活動で、直接的な利益を求めずに行われることが多いです。企業がCSRの一環として、従業員による地域社会への貢献活動といったボランティア活動を支援することもあります。
このように、CSRは企業の長期的な戦略の一部として位置づけられることが多く、ボランティア活動はその実践手段の一つとして活用されます。どちらも社会に対するポジティブな影響を与えることを目的としていますが、CSRはより組織的で計画的なアプローチを取る点で異なるわけです。
3. CSR活動のメリット
CSR活動のメリットは以下の3つです。
- 企業イメージと信頼の向上
- 人材採用と従業員の定着率向上
- 法令違反リスクの軽減
それぞれのメリットについて解説します。
■企業イメージと信頼性の向上
CSR活動の1つ目のメリットは、企業イメージと信頼性が向上することです。
企業がISO26000などの国際基準に基づいてCSR活動を行うことで社会的な評価が高まり、ブランド価値が向上します。特に日本では企業の社会的責任に対する関心が高まっており、CSR活動を積極的に行う企業は、消費者からの支持を得やすくなります。
■人材採用と従業員の定着率向上
CSR活動の2つ目のメリットは、人材採用と従業員の定着率向上に繋がることです。
企業が社会的責任を果たす姿勢は、求職者にとって魅力的な要素となります。たとえば、環境への配慮や地域社会への貢献を重視する企業は、同様の価値観を持つ人材を引き寄せることが可能ですさらに、既存の従業員にとっても、企業がCSRを通じて社会に貢献していると感じることは、モチベーションの向上につながります。
■法令違反リスクの軽減
CSR活動の3つ目のメリットは、法令違反リスクを軽減できることです。
企業が労働法や環境法などの関連法規を遵守する体制を整えることで、罰則や訴訟のリスクを避けることができます。また、ISO26000の7つの原則に基づく取り組みは企業の倫理的行動を促進し、法令遵守の文化を社内に浸透させることができます。従業員の意識が向上することで、無意識のうちに法令違反を犯す可能性を減少させることが可能です。
4. CSR活動のデメリット
CSR活動のデメリットは以下の3つです。
- コスト増加の懸念
- 人手不足のリスク
- 業務効率の低下
それぞれのデメリットについて解説します。
■コスト増加の懸念
CSR活動の1つ目のデメリットは、コストが増加する恐れがあることです。
日本国内の企業はCSR活動を通じて社会的責任を果たすことが求められていますが、そのためには新たな投資が必要となる場合があります。例えば、環境に配慮した製品の開発や、地域社会への貢献活動は、短期的にはコストがかかることが多いです。また、ISO26000のような国際基準に準拠するための取り組みも、追加の経費が発生する要因となります。しかし、これらのコストは長期的には企業の信頼向上や市場競争力の強化につながる可能性があるため、慎重なコストとリターンの分析が必要です。企業は、CSR活動がもたらす社会的価値と経済的利益のバランスを見極め、適切な資源配分を行うことが求められます。
■人手不足のリスク
CSR活動の2つ目のデメリットは、人手不足に陥る恐れがあることです。
中小企業では限られた人材でCSR活動を進めることが負担となり、通常業務に支障をきたす可能性があります。CSR活動は社会貢献や環境保護などの重要な役割を担いますが、その一方で人材が不足すると、プロジェクトの進行が滞る危険性があります。加えて、CSR活動に必要なスキルセットを持つ人材の確保が難しい場合、活動の質が低下する恐れもあります。このため、企業は人材育成や外部パートナーの活用を検討し、効率的かつ効果的なCSR活動を実施することが求められます。CSR活動を成功させるためには、計画的な人材配置と業務の優先順位を明確にすることが重要です。
■業務効率の低下
CSR活動の3つ目のデメリットは、業務効率が低下する恐れがあることです。
CSRは企業が社会的責任を果たすために行う活動であり、持続可能な社会の実現に寄与します。しかし、これらの活動はしばしば通常業務と並行して行われるため、従業員にとって負担となることがあります。特に、CSR活動が新たな業務として追加される場合、従業員の業務量が増加し、効率が低下するリスクが高まります。また、CSRの取り組みが不明確な場合、従業員は目的意識を持てず、モチベーションが低下する可能性もあります。さらに、CSR活動に必要なスキルや知識が不足している場合、業務の進行が遅れ、結果として全体の効率が下がることもあるでしょう。このような状況を避けるためには、CSR活動の目的を明確にし、従業員に適切な教育やサポートを提供することが重要です。
5. まとめ
今回は、CSRの概要やCSR活動のメリット・デメリットについて解説しました。
CSRは、企業が利益追求だけでなく、社会や環境に対して責任を持つことを指します。この考え方は、企業の持続可能な成長を支える重要な要素です。多くの企業がCSR活動を通じて、社会への貢献を目指しています。CSR活動により企業のイメージ向上や従業員のモチベーション向上といったメリットが得られる一方で、コストやリソースの負担が増えるというデメリットも存在します。
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