グローバルサプライチェーンとは?メリット・デメリットや企業事例を解説

日本企業が国際的な競争力を高めるためには、グローバルサプライチェーンが欠かせません。一方、日本とは法律や文化、風習が異なる国や地域と取引するため、日本国内だけで完結する従来のサプライチェーンと比べると、注意して取り組むことが重要です。

 

本記事では、グローバルサプライチェーンの意味・定義からメリット・デメリット、企業事例まで詳しく解説します。

 

1. グローバルサプライチェーンとは

グローバルサプライチェーンとは、原材料の調達から製品の提供に至るまでの一連のプロセスを、日本国内だけでなく海外も含めて行う仕組みです。

 

例えば、自動車業界のグローバルサプライチェーンでは、部品を世界各地から調達し、最終組立を特定の国で行うことでコストを抑えています。

 

世界中のリソースを活用するグローバルサプライチェーンは、最適なコストと品質で製品を提供するための重要な手段です。特に、製造業や小売業においては、競争力を維持するために欠かせない要素となっています。また、海外との技術や知識の共有を通じて、イノベーションを促進する役割も果たしています

 

■グローバルサプライチェーンの歴史

グローバルサプライチェーンの歴史は産業革命に始まり、20世紀の国際貿易の発展とともに進化しました。特に、1980年代以降のグローバリゼーションは、企業が国境を越えて調達や生産を行うことを可能にしています。これにより、製品はより迅速かつ効率的に世界中に供給されるようになりました。近年では、デジタル技術の進化によりサプライチェーンの透明性と効率性がさらに向上し、企業は市場の変化に迅速に対応できるようになっています。

 

 

2. グローバルサプライチェーンのメリット

グローバルサプライチェーンのメリットは以下の4つです。

  • 製造コスト削減
  • 市場拡大と競争力の向上
  • 技術と知識の共有
  • 供給リスク分散

それぞれのメリットについて詳しく解説します。

 

■製造コスト削減

グローバルサプライチェーンの1つ目のメリットは、製造コストを削減できることです。

 

生産拠点を世界中に分散することにより、労働力や原材料を確保するコストを大幅に削減できます。例えば、日本と比べて人件費が低い地域で生産を行うことで人件費を抑えることができ、日本国内での製造では実現が難しい低コストでの生産が可能になるわけです。

 

さらに、物流ネットワークの最適化も製造コスト削減の重要なポイントです。グローバルサプライチェーンを活用することで各地域の輸送ルートを効率的に組み合わせ、輸送費を削減することができます。

 

また、技術力が高い地域では先進的な製品の開発を行い、労働力が豊富な地域では大量生産を行うといったように、それぞれの地域の特徴を活かした生産を行うことで、品質を維持しながら製造コストを抑えることが可能です。

 

 

■市場拡大と競争力の向上

グローバルサプライチェーンの2つ目のメリットは、市場拡大と競争力の向上に繋がることです。

 

グローバルサプライチェーンを活用することで、日本企業は市場の枠を超えて、世界中の消費者にアクセスする機会を得ることができます。製品やサービスの提供範囲が広がることで、企業は競争優位性を維持し続けることが可能です。特に、アジアをはじめとする新興市場への進出は、日本企業にとって大きなビジネスチャンスを提供します。

 

新興市場では、経済成長が著しく、新たな消費者層が形成されています。これにより、日本企業はこれまでにない顧客を獲得し、売上を大幅に増やすことが可能です。さらに、新興市場に特化した製品やサービスを提供することで、競争力を強化することができます。

 

 

■技術と知識の共有

グローバルサプライチェーンの3つ目のメリットは、技術と知識を共有できることです。

 

技術と知識の共有は、迅速な問題解決や革新を促進し、企業の成長を支える重要な要因となります。異なる国や地域の企業が協力することで、最新技術やノウハウを互いに学び合い、製品やサービスの質を向上させることが可能です。例えば、トヨタやアマゾンは世界中のパートナーと技術を共有し、効率的な生産体制を築いています。

 

 

■供給リスク分散

グローバルサプライチェーンの4つ目のメリットは、供給リスクを分散できることです。

 

原材料の供給を国内だけに依存していると、自然災害など不測の事態が発生した際に原材料が確保できなくなる恐れがあります。グローバルサプライチェーンであれば、海外を含めた複数のサプライヤーと契約することができ、供給停止のリスクを分散することが可能です。

 

 

3. グローバルサプライチェーンのデメリット

グローバルサプライチェーンのデメリットは以下の3つです。

  • 物流コストの増加
  • 日本とは異なる法律や文化、風習
  • 地政学的リスク

それぞれのデメリットについて詳しく解説します。

 

■物流コストの増加

グローバルサプライチェーンの1つ目のデメリットは、物流コストの増加です。

輸送距離が長くなることで、燃料費や人件費が増大し、企業にとって大きな負担となります。また、環境への影響も無視できません。長距離輸送はCO2排出量を増加させ、地球温暖化の一因となるため、サステナビリティの観点からも環境への配慮が求められます。

 

グローバルサプライチェーンでは効率的な輸送手段を選び、環境負荷を軽減するための努力を続けることが重要です。

具体的には、鉄道や船舶などのエネルギー効率の高い輸送手段の利用が考えられます。これらの手段はトラック輸送に比べてCO2排出量が少ないため、環境負荷を大幅に軽減できます。また、物流の最適化を図るために、IT技術を活用した在庫管理や輸送ルートの最適化も重要です。これにより、無駄な輸送を減らし、コスト削減と環境負荷の軽減を同時に実現できます。

 

 

■日本とは異なる法律や文化、風習

グローバルサプライチェーンの2つ目のデメリットは、日本とは異なる法律や文化、風習です。

 

海外の企業と取引する際には、言語や商習慣の違い、文化的背景が障害となることがあります。たとえば、日本では礼儀や時間厳守が重視されますが、他の国では異なるビジネスエチケットを重視しているかもしれません。現地の文化を理解せずに日本企業が海外市場に進出すると、ニーズを正確に読み取れなかったり、消費者とのコミュニケーションに問題が生じてしまったりすることになるでしょう。

 

また、日本企業が海外で事業を展開する際には、現地の労働法や知的財産権に関する法律を遵守することが求められます。これらの法律を無視すると、法的なトラブルに発展し、企業の信頼性やブランドイメージに悪影響を及ぼす可能性があります。

 

さらに、法的な規制はサプライチェーンの柔軟性にも影響を及ぼします。例えば、特定の国での輸出入規制が厳しい場合、サプライチェーンの再構築が必要となるかもしれません。

 

 

■地政学的リスク

グローバルサプライチェーンの3つ目のデメリットは、地政学的リスクです。

 

特にアジアの近隣諸国との貿易関係においては、政治的な緊張が商品流通に大きな影響を与えることがあります。例えば、中国や韓国との関係が悪化した場合、輸出入に制限がかかり、商品の供給が滞ることになるでしょう。

 

また、国際的な紛争状態にある国や政治的に不安定な国と取引する場合、物流が停滞し、生産の中断を余儀なくされる場合があります。

たとえば、米国のような消費大国が、特定の国からの輸入品に対して関税を引き上げることもあります。

メキシコではトヨタ自動車やホンダ、日産自動車など日系自動車大手が工場を保有、米国向けに輸出しています。米国がメキシコからの輸入品に対して関税を引き上げた場合、日本が関税引き上げの直接の対象国となっていなくても、日本企業が大きな影響を受ける恐れがあります。

参考:https://www.jiji.com/jc/article?k=2024112600991&g=eco

 

グローバルサプライチェーンは地理的に広範囲にわたるため、特定の地域での問題がサプライチェーン全体に波及するかもしれません。

さらに、地震や津波といった自然災害は、国内外のサプライチェーンに大きな影響を与える可能性があります。例えば、東日本大震災の際には、多くの製造業が部品供給の途絶に直面し、製品の生産が大幅に遅れる事態が発生しました。

 

地政学的リスクに対応するためには、リスクマネジメントの強化や供給源の多様化が求められます。

 

 

4.  グローバルサプライチェーンの企業事例

 

■成功事例:トヨタのジャストインタイム戦略

トヨタのジャストインタイム戦略は、グローバルサプライチェーンにおける効率化とコスト削減の成功事例として広く知られています。この戦略の核心は、必要な部品を必要な時に必要な量だけ生産するというシンプルな手法です。

 

ジャストインタイム戦略により、トヨタは在庫を最小限に抑えることができ、生産の柔軟性を大幅に向上、保管コストや余剰在庫に伴うリスクを軽減し、資金の効率的な運用を可能にしました。

 

さらに、ジャストインタイム戦略はサプライチェーン全体の連携を強化する役割も果たしています。サプライヤーとの緊密なコミュニケーションと協力体制を築くことで、供給の安定性を確保し、製造プロセスの中断を防ぎます。これにより、トヨタはグローバルサプライチェーンの中での競争力を高め、迅速かつ柔軟に市場の変化に対応できるようになったわけです。

 

トヨタのジャストインタイム戦略は、単なる生産手法にとどまらず、企業全体の運営効率を向上させるための包括的なアプローチとして評価されています。

 

 

■成功事例:アマゾンの物流ネットワーク

アマゾンの物流ネットワークは、日本国内でもグローバルサプライチェーンの成功実例として広く認識されています。

 

アマゾンは、AIやビッグデータを活用した在庫管理システムを駆使し、商品の需要を正確に予測して供給を最適化しています。例えば、顧客の購買履歴や季節ごとのトレンドを分析することで、どの地域でどの商品が必要とされるかを予測し、適切な量の在庫を配置しています。

 

また、配送のラストマイルにおいても、アマゾンは革新的な技術を導入しています。日本国内では、都市部を中心にドローンや自動運転ロボットの実験を行い、配送の効率化を図っています。

 

アマゾンの迅速で正確な配送は、顧客の信頼を獲得する重要な要素であり、他社との差別化を図るための強力な武器となっています。

 

 

■失敗事例:ナイキの労働問題

1997年に発生したナイキの労働問題は、グローバルサプライチェーンにおける失敗事例のひとつです。

 

製品の多くを低賃金で労働力が豊富な国々で生産していたナイキは、長時間労働や児童労働、危険な作業環境などが指摘され、国際的に問題視されるようになりました。

ナイキはこの批判を受けて、労働環境の改善に向けた取り組みを開始しました。サプライチェーンの透明性を高めるために、工場の監査や労働条件の改善に努め、持続可能なサプライチェーンの構築を目指しています。具体的には、労働者の権利を尊重し、公正な賃金を提供すること、そして環境への配慮を重視した生産プロセスを導入することに注力しています。

 

上記のように、ナイキの労働問題は、グローバルサプライチェーンで責任ある調達がいかに重要であるかを示すケーススタディとして広く知られるようになったわけです。

 

 

5.  まとめ

本記事では、グローバルサプライチェーンについて解説しました。

グローバルサプライチェーンには、製造コスト削減や市場拡大と競争力の向上、技術と知識の共有、供給リスク分散といったメリットがあります。

一方、物流コストの増加や日本とは異なる法律や文化、風習への対応、地政学的リスクへの備えといった課題に対して意識しておく必要があります。

 

 

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