人権デューデリジェンスとは?進め方・プロセスや実施している企業の事例を解説

「人権デューデリジェンスとは何か」「人権デューデリジェンスはどのように進めるのか」「どのような企業が人権デューデリジェンスを実施しているのか」など、疑問に感じている方もいらっしゃるのではないでしょうか?

本記事では、人権デューデリジェンスの概要から進め方・プロセス、実施している企業の事例を解説します。

 

1. 人権デューデリジェンスとは

人権デューデリジェンス(Due Diligence)とは、人権に関するリスク管理を実施し、実施状況を外部に対して公開することです。

due diligenceの頭文字を取って、人権DDと表記される場合もあります。


企業における人権侵害にあたるリスクには以下のようなものがあります。

  • 過酷な労働条件・環境
  • 強制労働
  • 児童労働
  • 長時間労働
  • 各種ハラスメント

 

自社が上記のような人権リスクの要因となっていないことだけでなく、子会社や関連会社、グループ会社、取引先、委託先などについても、人権リスクを抱えていないかをチェックします。

欧州では人権デューデリジェンスの義務化が進んでいることから、海外との取引が多い企業では人権デューデリジェンスを重視することが多くなっています。


分かりやすく言えば人権に特化したリスク管理と言えますが、具体的に何を実施したのか、どのような基準で実施しているのかなど、情報公開することも人権デューデリジェンスでは求められています。

 

 

■ガイドライン

経済産業省や国際経済連携推進センターは、人権デューデリジェンスのガイドラインを策定・公開しています。


参考資料:

責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン「経済産業省」

責任あるサプライチェーン等における人権尊重のための実務参照資料「経済産業省」

中小企業のための人権デュー・ディリジェンス・ガイドライン「国際経済連携推進センター」

 

 

2. 人権デューデリジェンスが必要な理由とメリット

人権デューデリジェンスが重視されるようになったのは、2011年に国連で「ビジネスと人権に関する指導原則」が承認され、国だけでなく企業も人権を尊重する必要があるという考え方が広まったからです。

また、自社が適切に人権デューデリジェンスを実施できていなければ、以下のような問題が発生する可能性があります。

  • 罰金を課される
  • 訴訟を提起される
  • 損害賠償を請求される
  • 不買運動に発展する
  • 従業員が退職する
  • 取引を停止される
  • 優秀な人材の確保が困難になる
  • 自社ブランドイメージが低下する
  • 自社の株価が下落する

 

一方で、人権デューデリジェンスに取り組むことで下記のようなメリットを得られる可能性があります。

  • 人権リスクの低減
  • ブランドイメージの向上
  • 投資家からの信頼性向上
  • 優秀な人材の獲得

 

■人権リスクの低減

人権デューデリジェンスに取り組むことで、企業活動が人権に悪影響を及ぼす可能性を未然に防ぐことが可能です。例えば、サプライチェーンにおける労働環境の改善や、差別のない職場づくりが挙げられます。具体的なリスクを特定し、適切な対応策を講じることで、法的トラブルを回避し、企業の社会的責任を果たすことができます。

 

■ブランドイメージの向上

ブランドイメージの向上は、人権デューデリジェンスに取り組むことで得られる大きなメリットの一つです。企業が人権を尊重し、適切な対応を行っていることを示すことで、消費者や社会からの信頼を得ることができます。消費者は倫理的な企業を支持する傾向が強まっており、透明性のある情報公開を行うことで、企業の信頼性が高まり、ブランド価値が向上します。

 

■投資家からの信頼性向上

企業が人権に配慮した経営を行うことは、長期的な視点でのリスク管理や持続可能な成長を示す重要な指標となります。投資家は本当に信頼できる企業なのだろうかと考えることがあるかもしれませんが、人権デューデリジェンスを通じて透明性を高めることで、その疑念を払拭できます。具体的には、企業が人権侵害のリスクを特定し、予防策を講じることで、投資先としての魅力が増します。また、社会的責任を果たす企業としての評価が高まり、投資家の信頼を得ることが可能です。

 

■優秀な人材の獲得

企業が人権を尊重し、働きやすい環境を提供することで、求職者にとって魅力的な職場となります。企業が人権デューデリジェンスを徹底することで、従業員の満足度が向上し、結果として離職率の低下や人材の定着につながるわけです。また、企業の評判が高まることで、他社と差別化でき、優秀な人材が自然と集まりやすくなります。

 

3. 人権デューデリジェンスのプロセス

人権デューデリジェンスのプロセスは以下の通りです。

 

  1. 人権デューデリジェンスに関する方針を策定する
  2. 人権リスクが発生しているかをチェックする
  3. 人権リスクが発生しないように予防する
  4. 人権リスクが発生した場合の対応を策定する
  5. 人権デューデリジェンスを継続的に実施する
  6. 人権デューデリジェンスに関する情報を外部へ公開する
  7. 人権リスクに関する通報・相談を受け付ける

 

■人権デューデリジェンスに関する方針を策定する

企業は自社の業務を評価し、どのようなリスクが存在するかを明確に理解する必要があります。この評価を基に、具体的な方針を策定することが重要です。方針には、企業のビジョンや使命と一致した人権尊重の姿勢を示し、従業員や取引先に対する期待を明示することが求められます。また、方針は社内外に広く共有され、実行可能な形で運用されることが重要です。

 

■人権リスクが発生しているかをチェックする

企業は自社の業務やサプライチェーンにおける人権リスクを特定するための評価を行います。具体的には、労働環境、労働条件、差別の有無、地域社会への影響などを詳細に調査します。このプロセスでは、従業員や取引先との対話を通じて、潜在的なリスクを明らかにし、優先順位をつけて対応策を考えることが求められます。

 

■人権リスクが発生しないように予防する

人権リスクが発生しないように予防するためには、まず企業の全体的な業務プロセスを見直し、潜在的なリスクを特定することが重要です。これには、サプライチェーンの各段階での労働環境や取引先の人権状況を確認することが含まれます。定期的な監査や現地訪問を行い、現場の状況を直接確認することが効果的です。また、従業員への人権教育を通じて、全社的に人権意識を高めることも予防策として有効です。

 

■人権リスクが発生した場合の対応を策定する

企業が人権リスクに直面した際、迅速かつ適切に対応するための計画を事前に整備しておくことで、被害の拡大を防ぎます。具体的には、リスク発生時の対応フローを明確にし、関係者への情報伝達や被害者へのサポート体制を整えることが求められます。また、従業員に対する教育や訓練を通じて、全社的な意識向上を図ることも重要です。

 

■人権デューデリジェンスを継続的に実施する

定期的なリスク評価を行い、企業活動が人権に与える影響を常に把握することが重要です。次に、社内外のステークホルダーとの対話を通じて、新たなリスクや改善点を見つけ出します。そして、これらの情報を基に、適切な対応策を講じ、実行することが求められます。

 

■人権デューデリジェンスに関する情報を外部へ公開する

人権デューデリジェンスに関する情報を外部へ公開することは、企業の透明性を高め、ステークホルダーとの信頼関係を築くために不可欠です。具体的には、企業がどのような人権リスクを特定し、どのように対策を講じているかを公表することで、消費者や投資家に対する安心感を提供できます。情報を公開することで、批判を受けるのではないかと心配になる方もいるかもしれませんが、情報を隠すよりも積極的に公開し、改善に向けた取り組みを示すことが、長期的な信頼を得るための鍵となります。

 

■人権リスクに関する通報・相談を受け付ける

人権リスクに関する通報や相談を受け付けることは、企業が人権デューデリジェンスを効果的に実施するための重要なステップです。通報窓口を設けることで、従業員や取引先が人権侵害の可能性を早期に報告できる環境を整えます。これにより、問題が深刻化する前に対策を講じることが可能となります。通さらに、通報後の対応プロセスを明確にし、フィードバックを行うことで、通報者の信頼を得ることができます。

 

4. 人権デューデリジェンスを実施している企業の事例

人権デューデリジェンスを実施している企業の事例をご紹介します。

 

 

■キリンホールディングス株式会社

キリンホールディングス株式会社は、2017年4月から人権方針の策定に着手、外部からも助言を受け2018 年 2 月に方針を策定しました。


取引先へのリスク評価を実施した結果、リスクが高いと判明した国や地域には本社担当者が現地へ直接出向き、現地の会社と一緒に行動計画を作成しています。


参考資料:「ビジネスと人権」に関する取組事例集「外務省」

 

 

■清水建設株式会社


清水建設株式会社は、2018年12月に「シミズグループ人権基本方針」を策定しました。


国内建設事業を中心としているため、技能実習生をはじめとした外国人労働者に関する人権リスクを課題としています。


取引先に対して実態調査を実施した結果、悪質な人権侵害が発生していないことを確認しました。


参考資料:「ビジネスと人権」に関する取組事例集「外務省」

 

 

■株式会社アシックス


株式会社アシックスは、2022年6月に包括的な人権方針を制定し、全社横断的な体制を構築しました。


参考資料:アシックス、人権対応へ部門横断的な協力体制を構築「日本貿易振興機構」

 

 

5. まとめ

今回は、人権デューデリジェンスの概要から進め方・プロセス、実施している企業の事例を解説しました。

日本では人権デューデリジェンスに関する法的な規制はありませんが、欧州では義務化が進んでおり、海外との取引がある企業においては人権デューデリジェンスの実施が欠かせません。

 

 

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