インシデントレポートの書き方や注意点、記載例を解説

インシデントレポートは、医療や福祉などの現場で発生した問題や事故を記録する重要な文書です。潜在的なリスクを早期に発見し、再発防止に役立てることができます。

 

本記事では、インシデントレポートの概要や目的、書き方、記載例について解説します。

 

1. インシデントレポートとは

インシデントレポートとは、医療や介護の現場で発生する予期せぬ事象を記録し、改善策を講じるための重要な文書です。インシデントレポートを作成することにより、現場での問題点を洗い出し、組織全体で共有することができ、患者や利用者の安全を確保することができます。例えば、薬の投与ミスや機器の操作ミスなど、日常的に起こり得るインシデントを記録することで、原因分析ができるようになるわけです。

 

■インシデントレポートの目的

インシデントレポートの目的は、医療や福祉などの現場で発生するヒヤリ・ハットや小さなミスを記録し、再発防止に役立てることです。潜在的なリスクを早期に発見し、組織全体で安全文化を醸成することができます。インシデントレポートを通じて個々のインシデントがもたらす影響を分析し、適切な対応策を講じることで、患者や利用者の安全を確保します。また、インシデントレポートは、職員の教育や研修の素材としても活用され、組織の成長に寄与します。データを蓄積し、傾向を分析することで、より効果的な対策を講じることが可能です。

 

 

2. インシデントレポートの効果的な書き方

インシデントレポートの効果的な書き方は以下の通りです。

  • 現場の状況を正確に記録する
  • インシデントのレベルと影響度を判断する
  • 発生要因と背景を見極める
  • 再発防止のための具体的な対策を盛り込む
  • 5W2Hのフレームワークを活用する
  • 事実に基づいた客観的な記述を心がける
  • 具体的なデータを正確に記載する

それぞれの書き方について解説します。

 

■現場の状況を正確に記録する

現場の状況を正確に把握するためには、具体的な時間、場所、関係者の行動を詳細に記載することが求められます。例えば、事故が発生した時間やその際に使用されていた機器の状態、周囲の環境などを明確に記録します。後から状況を再現しやすくなり、原因分析がしやすくなります。また、記録する際には、主観を排除し、客観的な視点で事実を述べることが重要です。主観的な表現や推測は避け、実際に見聞きしたことのみを記録します。さらに、関係者からのヒアリングを行い、異なる視点からの情報を集めることで、より総合的な記録が可能となります。

 

■インシデントのレベルと影響度を把握する

インシデントのレベルは事象の重大さや緊急度を示し、例えばレベル1は軽微な事象を指し、レベル5は重大な影響を伴う事象を指します。影響度の評価は、患者の安全や業務の継続にどの程度の影響を及ぼすかを判断するために不可欠です。例えば、患者の生命に直接関わる場合は高い影響度とされます。

 

■発生要因と背景を見極める

具体的な事象の流れを追跡し、どのような要因が重なって問題が発生したのかを分析します。関係者の証言や現場の環境、使用していた医療機器やシステムの状態も考慮に入れ、全体像を明確にします。インシデントが発生した背景には組織の文化やコミュニケーションの課題が潜んでいることも多いため、これらの要素も見逃さずに記述することが求められます。

 

■再発防止のための具体的な対策を盛り込む

発生したインシデントの原因を徹底的に分析し、同様の状況が再び起こらないようにするための対策を立案します。PDCAサイクルを活用することで、効果的な改善を図ることができます。また、対策は具体的で現実的なものでなければなりません。たとえば、医療現場でのインシデントであれば、スタッフの教育や手順の見直し、設備の改善など具体的なアクションプランを設定します。さらに、対策の実施後も定期的に評価を行い、必要に応じて修正を加えることで、持続的な改善が可能となります。

 

■5W2Hのフレームワークを活用する

5W2Hのフレームワークを用いることで、インシデントレポートはより効果的に作成できます。まず、「Who(誰が)」においては、関与した人物やチームを特定します。「What(何が)」では、具体的な出来事や問題を明確に記述します。次に、「When(いつ)」は、インシデントが発生した正確な日時を記録します。「Where(どこで)」では、発生場所を詳細に記載します。「Why(なぜ)」は、発生した原因や背景を探る重要な要素です。「How(どのように)」では、インシデントの進行や影響を説明します。そして、「How much(どれくらい)」は、被害の範囲や程度を把握します。

 

■事実に基づいた客観的な記述を心がける

インシデントレポートを作成する際には、事実に基づいた客観的な記述が求められます。感情や主観を排除し、観察した内容を正確に記録することが重要です。例えば、医療現場でのインシデントでは、患者の状態やその場の状況を詳細に記載することが求められます。「いつ」「どこで」「何が」「どのように」起きたのかを具体的に記述することで、他の関係者が状況を正確に把握できるようになります。また、インシデントの原因を明確にするためには、背景や経緯を丁寧に分析し、報告書に反映させることが大切です。

 

■具体的なデータを正確に記載する

具体的なデータを正確に記載することは、インシデントレポートの信頼性を高めるために不可欠です。まず、日時や場所、関係者の名前などの基本情報を漏れなく記載します。次に、インシデントの詳細を具体的に説明し、どのような状況で発生したのかを明確にします。例えば、食前薬の与薬ミスが発生した場合、どの薬がどの患者に誤って与えられたのか、またその結果としてどのような影響があったのかを具体的に書きます。さらに、数値データや統計を用いて、インシデントの発生頻度や影響度を示すことも重要です。

 

 

3. インシデントレポートの記載例

インシデントレポートを記載する場合には、厚生労働省の「重要事例集計結果」が参考になります。「重要事例集計結果」に記載されているインシデントレポートの中から一部を抜粋してご紹介します。

 

参考資料:重要事例集計結果「厚生労働省」

 

例1: 与薬ミス

具体的な内容

食事後の与薬で他の患者の配薬容器と取り間違い与薬してしまった。

インシデントが発生した要因

配薬容器をまとめて置いていた。忙しくて患者から声を掛けられた時、確認が不十分で間違った。

実施した、もしくは考えられる改善案

配薬容器を患者の側に置く。まとめて置かない。名前を十分に確認する。

 

例2: 点滴の取り違え

具体的な内容

78歳の男性に点滴を施行しようとしたところ、同室の同姓の患者さんの点滴であった。

インシデントが発生した要因

観察不足。カルテを確認したが、見間違えた。

実施した、もしくは考えられる改善案

確認を十分行う。グループ間の声かけを行う。

 

例3: 転倒事故

具体的な内容

早朝、特室入院中の患者さんが入浴後、浴室から出て転倒し、自力でナースコールをしてきた。

インシデントが発生した要因

病室と浴室に段差があり、高齢者には転倒しやすい構造になっていると思われる。早朝の出来事で、看護師の数も少なく、目が届きにくい。

実施した、もしくは考えられる改善案

浴室への入り口の段差をなくす。早朝の入浴許可を考慮する。

 

 

4. まとめ

今回は、インシデントレポートの概要や目的、書き方、記載例について解説しました。

インシデントレポートは、組織内での問題を明確にし、再発防止に役立つ重要な文書です。正確な情報を集め、適切に分析することで、組織全体の安全性と効率を向上させることができます。インシデントレポートの作成は初めての方には難しく感じるかもしれませんが、その価値を理解することで、取り組む意欲が湧くでしょう。

 

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