内部統制とは?内部監査・ガバナンスとの違いや目的について解説

内部統制という言葉を耳にすることはあっても、その具体的な目的やメリットを正確に理解できていないのではないでしょうか?企業を効率的かつ安全に運営するための仕組みや手続きである内部統制は、企業活動において非常に重要な役割を果たします。

 

本記事では、内部統制の概要や内部監査・ガバナンスとの違い、目的について解説します。

1.内部統制とは

内部統制とは、企業の業務を適切に管理し、効率的かつ安全に運営するための仕組みや手続きです。企業の健全な成長と持続可能性を支える重要な要素であり、特に大企業や上場企業においては欠かせないものとなっています。内部統制を進めることで、リスクを最小限に抑え、自社の透明性や信頼性を高めることが可能です。

内部統制の重要性は、不正行為の防止や業務プロセスの効率化、法令遵守の確保といった、企業が直面するさまざまなリスクや課題に対処するための基盤を提供することにあります。内部統制に対する取り組みは、企業の評判を守り、投資家や顧客からの信頼を獲得するために欠かせません。また、内部統制は企業の経営陣が戦略的な意思決定を行う際の判断材料としても機能します。

 

■内部監査との違い

内部監査と内部統制は企業の健全な運営を支える重要な要素ですが、それぞれの役割や目的が異なります。内部統制は、企業の業務全般にわたるルールや手続きの整備を通じて、リスクの軽減や業務の効率化を図ることを目的としています。

一方、内部監査の目的は、内部統制が適切に機能しているかをチェックし、改善点を見つけることです。内部監査では、経営陣が設定した方針や手続きが現場で正しく実行されているかを確認します。また、内部統制の仕組みが効果的に機能しているかを評価し、必要に応じて改善提案を行います。

このように、内部監査は内部統制の効果を最大化するための重要な手段であり、両者は相互に補完し合う関係にあります。

 

■ガバナンスとの違い

ガバナンスと内部統制は企業の管理体制において重要な役割を果たしますが、それぞれの目的が異なります。

ガバナンスの目的は、企業全体の方向性や意思決定の枠組みを定め、株主やその他の利害関係者に対する責任を果たすことです。具体的には、取締役会や経営陣が企業の戦略を策定し、長期的な視点で企業価値の向上を目指します。

一方、内部統制は、企業の業務プロセスや財務報告の信頼性を確保するための仕組みです。業務の効率化や法令遵守、資産の保全を目的とし、具体的な手続きやルールを設けてリスクを管理します。内部統制はガバナンスの一部として機能し、ガバナンスの枠組みの中で具体的なリスク管理や業務の適正化を実現するための手段と言えるでしょう。

このように、ガバナンスと内部統制は互いに補完し合う関係にあり、企業の持続的な成長と信頼性の確保に寄与します。

 

■内部統制が必要な企業の特徴

内部統制が必要な企業の特徴として、第一に規模が大きい企業が挙げられます。大企業は多くの部門や拠点を持ち、業務が複雑化しやすいため、組織全体の統制が必要です。業務が複雑で管理が大変だと感じる企業ほど、内部統制の導入が効果を発揮します。

また、上場企業も内部統制が欠かせません。上場企業は、金融商品取引法に基づき内部統制報告書の提出が義務付けられています。

さらに、業界特有の規制が厳しい企業も内部統制の導入が重要です。例えば、金融業や医療業界では法令遵守が求められるため、内部統制を通じてリスク管理を徹底する必要があります。

中小企業においても、事業拡大を目指す場合や取引先からの要求に応じるために内部統制を導入するケースが増えています。内部統制は企業の信頼性向上に寄与し、新たなビジネスチャンスを生む可能性があるため、競争力を高めることができるでしょう。

企業の規模や業界によって内部統制の必要性は異なりますが、透明性や信頼性を高めるための重要な手段となっています。

 

■内部統制報告制度とは

内部統制報告制度とは、内部統制が適切に機能しているかを外部に公表するための制度です。具体的には、企業は内部統制に関する評価を行い、その結果を内部統制報告書として公表します。また、金融商品取引法に基づき、上場企業は内部統制報告書を提出する義務があります。企業が適切に内部統制を行っているかを外部の利害関係者に示すための重要な手段であり、企業の信頼性を高めるために欠かせません。

 

 

2.内部統制の目的

企業が内部統制を導入する目的は以下の4つです。

  • 業務効率の向上
  • 報告の信頼性確保
  • 法令遵守
  • 資産保全

それぞれの目的について詳しく解説します。

 

■業務効率の向上

企業が内部統制を導入する1つ目の目的は、業務効率の向上です。

企業が業務を効果的かつ効率的に行うためには、業務プロセスの標準化や改善が求められます。内部統制は、こうした業務プロセスを整理し、無駄を削減することで効率を高める仕組みです。例えば、業務の流れを見直すことで、重複する作業を削減し、担当者間の連携をスムーズにすることができます。また、業務に必要な情報が適切に伝達されるようにすることで、判断ミスや手戻りを防ぐことが可能です。また、内部統制を導入することで業務の流れを可視化でき、改善点を明確にすることにも繋がります。

 

■報告の信頼性確保

企業が内部統制を導入する2つ目の目的は、報告の信頼性を確保することです。

企業の報告書は、株主や投資家、取引先など多くのステークホルダーにとって意思決定の基盤となるため、その内容が正確であることが求められます。

内部統制でチェック機能や承認プロセスを設けることで、誤った情報が外部に出るのを防ぎます。例えば、財務報告においては、複数の担当者による確認や定期的な監査を行うことが一般的です。このようなプロセスを通じて、企業は報告書の正確性を確保し、ステークホルダーの信頼を得ることができます。

また、報告の信頼性を高めるためには、従業員の教育も欠かせません。報告書作成に関与する従業員が、正確な情報を提供するための知識とスキルを持っていることが重要です。

 

■法令遵守

企業が内部統制を導入する3つ目の目的は、法令遵守です。

内部統制を通じて法令遵守を確実にすることは、企業の健全な運営に欠かせません。企業が法令を遵守することで、社会的信用を維持し、リスクを最小限に抑えることができます。

具体的には、法律や規制の変更に迅速に対応し、全ての従業員がこれらを理解し実行できるようにすることが重要です。労働基準法や個人情報保護法など、業種によっては特に重要な法律があります。これらの法律を遵守するためには、定期的な教育や研修を行い、従業員が最新の情報を常に把握できるようにすることが重要です。また、法令遵守は企業のリスク管理にも直結します。罰金や訴訟のリスクを避けるため、内部統制を通じて法令遵守を徹底することが重要です。

 

■資産の保全

企業が内部統制を導入する4つ目の目的は、企業が保有する資産の保全です。

企業が持つ資産は現金や不動産、設備、知的財産など多岐にわたりますが、これらを適切に管理し、損失や不正使用から守ることが求められます。資産が適切に管理されていることで取引先や投資家の信頼を得ることができ、企業の信用力が高まります。また、資産の不正使用や誤用を防ぐことで、企業の財務状態を健全に保つことが可能です。

具体的な資産保全の方法としては、定期的な監査の実施や資産管理システムの導入が考えられます。監査を通じて資産の現状を確認し、問題があれば即座に対応することが重要です。また、資産管理システムを活用することで、資産の動きをリアルタイムで把握し、異常が発生した場合に早期に対処することができます。

 

 

3.内部統制の基本要素

内部統制は、以下の6つの基本要素で構成されます。

  • 統制環境の整備
  • リスク評価と対策
  • 統制活動
  • 情報の伝達
  • モニタリング
  • IT技術の活用

それぞれの要素について詳しく解説します。

 

■統制環境の整備

統制環境とは、経営者のリーダーシップや組織文化、方針、手続きなどを含めた、企業全体の倫理観や統制に対する姿勢です。統制環境がしっかりと整備されていると、企業全体が一体となって内部統制を実施する土壌が整い、他の内部統制要素が効果的に機能します。

統制環境の整備が重要な理由は、企業の文化や価値観が内部統制の実効性に直接影響を与えるからです。経営者が率先して倫理的な行動を示し、透明性のあるコミュニケーションを図ることが求められます。

具体的な整備方法としては、経営者による明確なビジョンの提示や、内部統制に関する教育・研修の実施、従業員の意識向上を図るための方針策定などが挙げられます。また、従業員が自由に意見を述べることができる環境を整えることも重要です。これにより、組織全体での内部統制への取り組みが強化され、企業の信頼性向上につながります。

 

■リスク評価と対策

リスク評価とは、企業が直面する可能性のあるリスクを特定し、その影響度や発生可能性を分析するプロセスです。リスク評価を実施することにより、企業は予期せぬ問題に備え、適切な対応策を講じることができます。

対応策としては、リスクの種類に応じた具体的な対策を策定することが求められます。たとえば、情報漏えいリスクに対しては、セキュリティ対策の強化や従業員教育の徹底が考えられます。また、財務リスクに対しては、内部監査の強化や適切な資金管理が有効です。

 

■統制活動

統制活動とは、企業が内部統制を効果的に運用するための具体的な行動や手続きです。これには、例えば、定期的な会計監査や業務フローの見直し、承認手続きの厳格化などが挙げられます。統制活動は、企業が不正行為の防止や誤りの発見を早期に行うために欠かせません。

統制活動を効果的に実施するためには、業務の流れを詳細に把握し、どこにリスクが存在するかを特定することが必要です。そして、そのリスクを軽減するための具体的な対策を講じます。例えば、資産の管理においては、定期的な棚卸しや資産の使用状況の確認を行うことで、不正や誤りを未然に防ぐことができるわけです。

 

■情報の伝達

企業内での情報の伝達が適切であることは、業務の効率化やリスク管理に直結します。情報の伝達が不十分だと、従業員が誤った判断をする可能性が高まり、結果として企業の目標達成を妨げてしまうかもしれません。

内部統制における情報の伝達には、明確なコミュニケーションルートの設定が求められます。これは、組織の各階層や部門間で情報がスムーズに流れるようにするためです。具体的には、定期的な会議の開催や電子メール、社内SNSなどを活用した情報共有の仕組みが挙げられます。また、情報の正確さとタイムリーさも重要です。情報が正確でなければ誤った意思決定につながり、タイムリーでなければ迅速な対応ができません。

情報伝達の方法を改善するためには、従業員の意見を積極的に取り入れ、現場のニーズに合ったコミュニケーションツールを導入することが効果的です。

 

■モニタリング

モニタリングの役割は、内部統制の仕組みが適切に機能しているかを確認し、必要に応じて改善を促すことです。これにより、組織全体の業務が円滑に進むとともに、法令遵守や資産保全が確実に行われます。

モニタリングには、日常的な監視と定期的な評価の2つの方法があります。日常的な監視とは、日々の業務を通じて内部統制が適切に機能しているかを見守ることです。定期的な評価では、一定期間ごとに内部統制の効果を検証し、改善が必要な箇所を特定します。

 

■IT技術の活用

IT技術を効果的に活用することで、業務プロセスの自動化や効率化が可能になり、ヒューマンエラーの削減につながります。例えば、財務報告の自動化システムは、データ入力のミスを減少させ、報告の信頼性を高めることが可能です。データ分析ツールを活用することで、潜在的なリスクを早期に発見し、迅速に対応できるようになります。さらに、ITセキュリティの強化は、企業の資産保全にも直結します。特にクラウドサービスの導入は、データのバックアップやセキュリティ強化において大きなメリットをもたらします。ただし、IT技術の導入には一定のコストがかかるため、企業の規模や業種に応じた選択が必要です。

 

 

4.内部統制に対する経営者や従業員の役割

内部統制の導入において、経営者や従業員がどのような役割を果たすのかについて解説します。

 

■経営者

内部統制は企業の運営を円滑に行うための仕組みであり、経営者はその全体的な方向性を決定する責任を持っています。経営者は、企業のビジョンや戦略に基づいて内部統制を設計し、適切に運用されるよう監督しなければなりません。

また、経営者は内部統制の重要性を社内に浸透させる役割も担っています。社員一人ひとりが内部統制の意義を理解し、日常業務で実践できるようにするための教育や訓練を行うことが重要です。さらに、経営者自身が内部統制の模範を示すことで、組織全体の意識向上を図ることができます。

問題が発生した際には、迅速に対応することも経営者の責任です。内部統制の不備や改善点を見つけた場合には、すぐに修正策を講じ、再発防止に努めることが求められます。

 

■取締役会

取締役会の役割は、内部統制の方針を決定し、組織全体にその方針を浸透させることです。内部統制の実施状況を定期的に監視し、必要に応じて改善策を講じる役割も果たします。

さらに、取締役会は経営陣と協力し、内部統制の評価を行います。この評価は、企業の業務プロセスが効率的かつ効果的に運営されているかを確認するために欠かせません。

 

■監査役・監査委員会

監査役や監査委員会の主な目的は、企業の経営活動が適切に行われているかを監視し、内部統制の有効性を確保することです。経営者が行う意思決定が公正であり、企業の資産が適切に管理されていることを保証します。

 

■内部監査人

内部監査人の役割は、独立した立場から企業における内部統制の有効性を評価し、改善の提案を行うことです。企業の業務プロセスや財務報告の正確性を確認し、リスク管理が適切に行われているかをチェックします。

企業の内部統制が法令や規則に従っているかを確認することも、内部監査人の重要な役割です。例えば、財務報告における不正を未然に防ぐために、内部監査人は定期的に監査を行い、問題点を早期に発見します。

 

■従業員

従業員は日常業務を通じて内部統制の実施と維持に直接関わるため、内部統制の意義を理解し、積極的に参加することが重要です。従業員一人ひとりの行動が、企業全体のリスク管理や業務の効率化に大きく影響します。

従業員の意識を高めるためには、内部統制の基本的な知識を教育することが重要です。これにより、従業員は自分の役割を理解し、日々の業務にその知識を活かすことができます。また、業務プロセスの中での不正やミスを未然に防ぐための具体的な手順を明示することも効果的です。

 

 

5.まとめ

今回は、内部統制の概要や内部監査・ガバナンスとの違い、目的について解説しました。

内部統制は、企業の健全な運営を支える重要な仕組みです。内部統制を進めることにより、業務の効率化や法令遵守、リスクの軽減が図れます。本記事で解説した内部統制の目的をしっかりと理解し、より良い経営環境を築きましょう。

 

アトミテックでは、委託先リスク管理の手順をまとめた委託先リスク管理ガイドを公開しています。ぜひ自社の委託先管理の参考になさってください。