ISMS認証とは?Pマークとの違いから取得するメリット・デメリット、取得方法、取得後の運用まで解説

ISMS認証とは、情報セキュリティマネジメントシステム(ISMS)の国際規格ISO/IEC 27001に基づいた認証制度です。企業や組織が情報セキュリティを適切に管理し、リスクを最小限に抑えるための仕組みを構築できているかを第三者機関から審査を受け、ISMS認証を取得します。

 

本記事では、ISMS認証の概要やPマークとの違い、取得するメリット・デメリット、取得方法、取得後の運用について解説します。

 

1. ISMS認証とは

ISMS認証とは、自社の情報セキュリティの取り組みが国際的な基準に適合していることを証明する認証です。第三者である認証機関から審査を受け、認証基準に適合していると認められた場合に、ISMS認証を取得することができます。

ISMS認証を取得することで、顧客や取引先に対して情報セキュリティへの取り組みを示すことができ、信頼性の向上に寄与します。また、認証取得を通じて内部のセキュリティ体制を強化し、情報漏えいのリスクを低減することが可能です。特に情報を扱う企業にとって、ISMS認証は競争力の一環として重要な役割を果たします。

例えば、大手企業や官公庁との取引においてISMS認証が必須条件となるケースもあります。こうした背景から、ISMS認証取得は企業の成長戦略においても重要な要素となっています。

 

■そもそもISMSとは

ISMSとは、情報セキュリティマネジメントシステムの略で、組織が情報資産を保護するための体系的なアプローチを指します。情報漏えいや不正アクセスといったリスクからデータを守るための管理策を策定し、運用する枠組みです。ISMSは、単なる技術的な対策にとどまらず、組織全体のリスク管理や業務プロセスにも深く関与します。ISMSを構築することにより、企業はセキュリティの向上だけでなく、業務効率の改善や信頼性の強化を図ることが可能です。

 

■Pマークとの違い

ISMS認証とPマークは、どちらも情報セキュリティに関する認証制度です。ISMS認証は、ISO/IEC 27001に基づくISMSの国際規格で、組織全体の情報セキュリティ管理を体系的に構築し、運用することを目的としています。一方、Pマーク(プライバシーマーク)は、日本国内で個人情報の適切な取り扱いを保証するための認証制度です。Pマークは特に個人情報保護に焦点を当てており、JIS Q 15001に基づいて運用されています。ISMSは組織全体のセキュリティを包括的に管理するのに対し、Pマークは個人情報に特化している点が大きな違いです。

 

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■ISMS認証取得にかかる期間

ISMS認証取得にかかる期間は企業の規模や準備状況によって異なりますが、一般的には6ヶ月から1年程度が目安です。まず、ISMSの範囲と方針を決定し、認証機関を選定して体制を構築します。その後、ISMS文書の作成とリスクアセスメントを行い、従業員教育や内部監査を実施します。これらの準備が整ったら、マネジメントレビューを経て審査を受けます。審査には初回審査とフォローアップ審査があり、問題がなければ認証が取得できます。

 

■ISMS認証取得の費用

ISMS認証取得の費用は、企業の規模や業種、認証範囲によって異なります。一般的には、初期費用としてコンサルティングや審査費用が発生し、これに加えて内部リソースの確保や教育研修の費用がかかります。中小企業の場合、数十万円から数百万円が相場で、大企業ではさらに高額になることが多いです。また、取得後の維持費用も考慮に入れる必要があります。維持費用には、定期的な内部監査や外部審査の費用が含まれます。

 

 

2. ISMS認証を取得するメリット

ISMS認証を取得するメリットは以下の2つです。

  • 企業としての信頼性向上と競合他社との差別化
  • セキュリティレベルと従業員の意識の向上

それぞれのメリットについて解説します。

 

■企業としての信頼性向上と競合他社との差別化

ISMS認証を取得する1つ目のメリットは、企業としての信頼性向上と競合他社との差別化に繋がることです。

個人情報や機密情報の漏えいが大きな問題となっている現代では、情報セキュリティに対する意識の高さが求められています。ISMS認証を取得することで情報漏えいリスクに対する対策を適切に実施していることを示し、信頼性を向上させることが可能です。

また、ISMS認証の取得は競合他社との差別化にもつながります。多くの企業が情報セキュリティに関心を持つ中で、ISMS認証を取得していることは情報保護に対する真剣な取り組みを示す証明となります。ISMS認証を取得している企業は新たなビジネスチャンスを獲得するだけでなく、既存の取引関係を強化することも期待できます。

さらに、ISMS認証の取得プロセスにおいては、内部の情報管理体制の見直しが行われます。この見直しにより、業務効率の向上やリスクの軽減を図ることができ、結果として企業全体の競争力を高めることが可能となります。

 

■セキュリティレベルと従業員の意識の向上

ISMS認証を取得する2つ目のメリットは、セキュリティレベルと従業員の意識が向上することです。

ISMS認証のプロセスは、企業が情報セキュリティに関するリスクを特定し、それに対する対策を講じることから始まります。この過程で、情報資産の重要性を評価し、適切な管理策を策定します。次に、これらの管理策が効果的に機能しているかを内部監査や外部監査を通じて確認します。この一連のプロセスを経て、第三者機関による審査を受け、認証が付与されるわけです。

この認証取得の過程で、企業の従業員は情報セキュリティの重要性を深く理解します。日常業務においてもセキュリティ意識が高まり、情報漏えいのリスクが低減されます。結果として、企業内部でのセキュリティが強化され、組織全体の安全性が向上します。

ISMS認証を取得した後も、企業は継続的にセキュリティ管理を維持・改善することが求められます。定期的な教育や内部監査を行うことで、従業員の意識を継続的に高め、最新の脅威に対応できる体制を構築することが可能です。

 

 

3. ISMS認証を取得するデメリット

ISMS認証を取得するデメリットは以下の2つです。

  • 取得・維持に費用がかかる
  • 業務負荷が増加する

それぞれのデメリットについて解説します。

 

■取得・維持に費用がかかる

ISMS認証を取得する1つ目のデメリットは、取得・維持に費用がかかることです。

ISMS認証取得の際には、審査費用や登録料などの費用が発生します。また、ISMSを維持するためには定期的な監査が必要であり、そのたびに監査費用がかかります。さらに、ISMSに関する知識を持った人材の育成や、外部コンサルタントの活用も考慮する必要があります。

中小企業にとっては、ISMS認証を取得する費用が財務的な負担となることもあるでしょう。しかし、長期的な視点で見れば、ISMS認証は情報セキュリティの向上や顧客からの信頼獲得に寄与するため、投資と捉えることもできます。

 

■業務負荷が増加する

ISMS認証を取得する2つ目のデメリットは、業務負荷が増加することです。

ISMS認証を取得することで企業は情報セキュリティの強化を図ることができますが、その一方で業務負荷が増加するというデメリットもあります。ISMSの導入により、文書管理やリスクアセスメント、内部監査などの新たな業務が発生します。これらの業務は通常の業務に加えて行う必要があるため、従業員にとっては負担が増すことになります。また、ISMS認証を維持するためには、定期的な見直しや改善が求められ、これらも業務の一環として組み込まれることになります。さらに、従業員の教育やトレーニングも必要となり、時間やコストがかかります。このように、ISMS認証の導入は企業にとって多くのメリットをもたらしますが、業務負荷の増加というデメリットも考慮する必要があります。

 

 

4. ISMS認証取得のステップ

ISMS認証取得のステップは以下の通りです。

  1. 範囲と方針の決定
  2. 認証機関の選定と体制の構築
  3. ISMS文書作成とリスクアセスメント
  4. 従業員教育と内部監査
  5. マネジメントレビューと審査

それぞれのステップについて解説します。

 

■範囲と方針の決定

このプロセスでは、組織が守るべき情報資産の範囲を明確にし、情報セキュリティ管理の方針を策定します。組織内の情報資産を洗い出し、それらがどのように保護されるべきかを具体的に定めます。次に、経営陣と協力して、情報セキュリティの目的や目標を文書化し、全社員に共有します。範囲と方針の決定は後続のリスクアセスメントや内部監査の基盤となるため、慎重に進めることが重要です。

 

■認証機関の選定と体制の構築

ISMS認証取得では、信頼性の高い認証機関を選ぶ必要があります。日本国内には日本品質保証機構(JQA)やBSIなどの認証機関が存在し、それぞれの特徴や実績を確認することが大切です。次に、組織内の体制構築に取り組みます。ISMSの運用には、情報セキュリティ管理責任者をはじめとする明確な役割分担が求められます。また、内部監査を定期的に実施するためのチーム編成も必要です。体制構築は、ISMS認証の成功に直結するため、慎重に進めることが求められます。

 

■ISMS文書作成とリスクアセスメント

情報資産を特定し、その重要度に基づいてリスクを評価します。リスクアセスメントでは、脅威や脆弱性を洗い出し、リスクの発生確率と影響度を分析します。このプロセスにより、リスクの優先順位が明確になり、対策の計画が立てやすくなります。次に、ISMS文書の作成に移ります。ここでは、組織のセキュリティ方針や手順、役割分担を明文化し、全従業員が理解しやすい形でまとめます。この文書は、内部監査や外部審査の際に重要な資料となるため、正確で詳細な記載が求められます。

 

■従業員教育と内部監査

従業員教育では、情報セキュリティに関する基本的な知識やリスク管理の手法を学びます。これにより、全社員がセキュリティ意識を持ち、情報漏えいを防ぐことが可能になります。内部監査は、ISMSの運用状況を定期的に評価し、改善点を見つけるためのプロセスです。内部監査を通じて組織内のコンプライアンス状況を確認し、必要に応じて対策を講じます。内部監査の結果は、経営層に報告され、マネジメントレビューに活用されます。

 

■マネジメントレビューと審査

マネジメントレビューは、組織の情報セキュリティマネジメントシステム(ISMS)の有効性を評価し、改善の方向性を確認するためのプロセスです。これにより、トップマネジメントが情報セキュリティの現状を把握し、必要な資源や改善策を決定します。

審査は第三者機関による外部審査が行われ、ISMSが国際基準に適合しているかを確認します。審査に合格すれば、ISMS認証を取得することができます。

 

 

5. ISMS認証取得後の運用と維持

ISMS認証を取得した後の運用と維持は、組織の情報セキュリティを持続的に高めるために欠かせないプロセスです。認証を取得しただけではなく、日々の運用を通じてセキュリティの改善を図ることが求められます。組織の信頼性を高め、情報漏えいやセキュリティインシデントのリスクを最小限に抑えることができます。

 

ISMS認証の運用には、定期的な監視や評価が重要です。セキュリティ対策が適切に機能しているかを確認し、必要に応じて改善策を講じることができます。これらの取り組みを継続的に行うことで、組織全体のセキュリティレベルを維持し、向上させることができるでしょう。

 

■運用のポイントと改善策

情報セキュリティマネジメントシステム(ISMS)を効果的に運用するためには、定期的な内部監査が欠かせません。これにより、現行のセキュリティ対策が適切に機能しているかどうかを確認し、必要に応じて改善を行うことが可能です。また、従業員のセキュリティ意識を高めるための継続的な教育も重要です。組織全体のセキュリティレベルを維持しつつ、従業員個々の意識向上を図ることができます。

さらに、リスクアセスメントを定期的に実施し、新たな脅威やリスクに対する対応策を見直すことも必須です。常に最新のセキュリティ対策を講じることができ、企業の情報資産を守ることができます。ISMSの運用状況を経営陣に定期的に報告し、組織全体での認識を共有することが、持続的な改善につながります。

 

■継続的な監視と評価

情報セキュリティ管理システムを効果的に運用するためには、定期的な監視が欠かせません。また、情報資産のリスクを把握し、適切な対応を行うためには、監視だけでなく評価も同時に行う必要があります。継続的な監視と評価により、セキュリティの脆弱性を早期に発見し、迅速な対応が可能となります。監視と評価の結果を基に改善策を講じることで、組織全体のセキュリティレベルを向上させることができます。

 

 

6. まとめ

今回は、ISMS認証の概要やPマークとの違い、取得するメリット・デメリット、取得方法、取得後の運用について解説しました。

ISMS認証を取得することにより、取引先や顧客に対して情報セキュリティの取り組みを示すことができ、競争優位性を確保することが可能です。また、組織内で情報セキュリティの重要性が認識され、従業員の意識向上やセキュリティレベルの向上にもつながります。

本記事で紹介したISMS認証取得のステップを参考に、ISMS認証取得を目指してみましょう。

 

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