「IT-BCPと従来のBCPは何が違うのか」「IT業界でもBCPが必要なのか」「ITの分野でBCPを策定するにはどんな手順が必要なのか」と感じる方も多いのではないでしょうか。
IT業界ではシステムがダウンすると企業の業務の大半が止まってしまう可能性があるため、BCPを策定することは非常に重要です。災害やトラブルが発生した際でも、業務を継続して行うことができます。
本記事では、IT-BCPの概要や策定が必要な理由、具体的な対策、策定する際のポイントについて解説します。
1. IT-BCPとは
IT-BCPとは、IT機器やITシステム、ITサービスを対象としたBCP対策です。Information Technology – Business Continuity Planの頭文字を取って、IT-BCPと呼ばれています。
経済産業省のガイドラインでは「IT サービス継続計画」と表記され、以下のように定義されています。
IT サービス継続計画は、IT サービス継続戦略により定められたサービス継続のための要 件(組織にとって重要な IT サービスの明確化及び目標とすべき復旧時間・レベル)を踏ま え、これを実現するために必要な、事前の対策及び緊急事態発生時における具体的な対応 方法・計画等を取りまとめたものである。 |
内閣サイバーセキュリティセンターのガイドラインでは「情報システム運用継続計画 」と表記され、以下のように定義されています。
情報システム運用継続計画とは、大規模災害、情報セキュリティインシデント及び感染症の流行(以下「危機的事象発生時」という。)による影響等によって情報システムの運用が中断又は途絶するときに、情報システムを継続又は復旧させることにより、その利用に係る影響を最小限に抑えるために必要な計画群の総称を指し、政府機関等の業務継続計画における情報システムの検討部分をより詳細化したものと位置づけられる |
自然災害や事故などの緊急事態が発生した際でもIT機器やITシステム、ITサービスを使用できるようにすることや、サーバー攻撃や個人情報漏えいなど、IT機器やITシステム、ITサービスを要因としたITリスクに対処したりすることが、IT-BCPを策定する目的です。
デジタル化が進む現代社会において、IT機器やITシステム、ITサービスは企業の競争力を維持するための重要な要素となっています。デジタル技術の依存度が高まるにつれ、システム障害やサイバー攻撃などのリスクが増大しているため、企業は迅速に復旧し、業務を再開する能力が必要となっているわけです。
IT-BCPを策定することで企業はリスクに対する耐性を高め、顧客や取引先からの信頼を維持することができます。具体的なIT-BCP対策としては、クラウドサービスを利用したデータのバックアップや、緊急時の連絡体制の整備などが挙げられます。
■BCPとは
BCPとは企業が災害や事故などの緊急事態に直面した際に、事業を継続するための計画です。Business Continuity Planの頭文字をとってBCPと呼ばれています。企業がBCPを策定する目的は、予期せぬ事態が発生した際の事業の中断を最小限に抑え、迅速に事業を復旧し、競争力を維持することです。日本は地震や台風などの自然災害が多いため、BCPの策定は多くの企業にとって不可欠な要素となっています。
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■IT-BCPとBCPの違い
IT-BCPとBCPの違いは、どのようなリスクに対して備えるのかです。いずれも企業の継続性を確保するための重要な計画ですが、焦点や対象が異なります。
BCPは、自然災害や事故、サイバー攻撃など、企業で発生するリスクすべてに対して対策を行い、事業の早期復旧・事業継続に備えるための計画です。一方、IT-BCPは、ITシステムの障害やサイバー攻撃など、IT関連のリスクに特化して対応します。
IT-BCPでは、主にデータのバックアップやリカバリー戦略、サイバーセキュリティ対策を中心に取り組むことが一般的です。これにより、ITシステムが停止した場合でも迅速に復旧することができ、業務を続行することが可能になります。
■IT-BCPの策定が必要な理由
IT-BCPの策定が必要な理由は、企業の持続的な成長と競争力を維持するために欠かせない要素だからです。ITシステムが中核を担う現代のビジネス環境では、障害や災害が発生した際に迅速に対応し、業務を継続できる体制を整えることが求められます。IT-BCPを策定することにより、企業は信頼性を高め、顧客や取引先との関係を維持しつつ、リスクを最小限に抑えることが可能になります。
IT-BCPが重要視される背景には、情報漏洩やサイバー攻撃といったIT特有のリスクが増加している現状があります。これらのリスクは企業の信用を一瞬で失墜させる可能性があり、事前の対策がなければ甚大な被害を受けることになります。また、デジタル化が進む中で、業務の多くがITに依存しているため、システム障害が発生した際の影響は非常に大きいです。
新型コロナウイルス感染症の影響で多くの企業がリモートワークを導入し、ITインフラの安定性が一層求められるようになったため、IT-BCPの策定は企業のリスク管理の一環として注目されています。
2. IT-BCP策定のメリット
企業におけるIT-BCPのメリットは、IT-BCPを導入することで業務の継続性が確保され、災害やシステム障害が発生した際にも迅速に対応できる体制が整うことです。企業は信頼性が向上し、顧客からの信頼を失うリスクを軽減できます。
また、情報資産の保護に貢献することも、IT-BCPのメリットです。データのバックアップやセキュリティ対策を強化することで重要な情報を守り、外部からの攻撃や内部の不正に対処する能力が高まります。
さらに、IT-BCPは従業員の安全確保や業務効率の向上にも貢献します。リモートワーク環境の整備により、従業員が安全かつ柔軟に働ける環境を提供し、業務の生産性を向上させることが可能です。
3. 具体的なIT-BCP対策
IT-BCP対策の具体的な方法は以下の4つです。
- データのバックアップ
- 連絡体制の整備
- リモートワークの導入
- CSIRTの設置
それぞれの方法について詳しく解説します。
■データのバックアップ
IT-BCP対策の1つ目の方法は、データのバックアップです。
緊急時に企業の情報資産を守るためには、定期的なデータのバックアップが欠かせません。バックアップの頻度を決定し、データの重要度に応じて、毎日・毎週・毎月といった異なるスケジュールを設定することが推奨されています。バックアップデータの暗号化を行い、不正アクセスから守ることも重要です。
また、バックアップデータの保管場所を選定する際には、災害リスクを考慮し、オンサイトとオフサイトの両方に分散して保管することが望ましいです。クラウドストレージやデータセンターを活用することで、地理的に離れた場所にデータを保存することが可能です。
■連絡体制の整備
IT-BCP対策の2つ目の方法は、連絡体制の整備です。
緊急時には迅速かつ正確な情報伝達が求められるため、メールやチャットツール、電話など状況に応じたコミュニケーションツールの選定が欠かせません。
また、企業内外の関係者の連絡先を常に更新し、緊急時にも確実に連絡が取れるようにしておくことが重要です。さらに、情報の共有プロセスを明確に定め、誰がどの情報をどのタイミングで伝えるのかを事前に決めておくことが、混乱を防ぐポイントとなります。
■リモートワークの導入
IT-BCP対策の3つ目の方法は、リモートワークの導入です。
企業が災害や緊急時に事業継続を図るためには、従業員が自宅や安全な場所から業務を遂行できる環境を整えることが求められます。セキュリティの高いVPNやクラウドサービスを活用することで、オフィスに依存せずに業務を継続することが可能です。従業員の安全を確保するだけでなく、通勤による感染症リスクの低減にも寄与します。
■CSIRTの設置
IT-BCP対策の4つ目の方法は、CSIRTの設置です。
CSIRTとは、企業のセキュリティインシデントに迅速かつ効果的に対応するための専門チームです。セキュリティインシデントの検知から対応、回復までの一連のプロセスを担当し、企業のITインフラを守ります。
CSIRTを設置することで、サイバー攻撃やデータ漏洩といったセキュリティインシデントが発生した際に、迅速な対応と被害の最小化が可能です。CSIRTの役割にはセキュリティインシデントの監視や分析も含まれるため、被害が発生する可能性を低下させることもできます。
4. IT-BCPを策定する際のポイント
IT-BCPを策定する際のポイントは以下の3つです。
- 経営層を巻き込んだ計画策定
- 従業員への訓練と周知
- ガイドラインの参照
それぞれのポイントについて詳しく解説します。
■経営層を巻き込んだ計画策定
IT-BCPを策定する際の1つ目のポイントは、経営層を巻き込んだ計画策定です。
IT-BCPの策定においては、経営層の理解と支援がなければ、リソースの適切な配分や組織全体での優先順位を設定することが難しくなります。経営層が積極的に関与することで組織全体の方向性が明確になり、計画の実効性を高めることが可能です。
また、経営層が関与することで従業員のモチベーションが向上し、計画の実行に対する責任感が強化されます。さらに、経営層がリーダーシップを発揮することで、組織内のコミュニケーションが円滑になり、計画の見直しや改善が迅速に行われます。
■従業員への訓練と周知
IT-BCPを策定する際の2つ目のポイントは、従業員への訓練と周知です。
策定したIT-BCPが非常時に実際に機能するかどうかは、従業員がどれだけ訓練を受け、準備ができているかにかかっています。
従業員への訓練を定期的に行うことで、従業員一人ひとりが重要性を認識することができ、スキルの向上と意識の定着を図ることができます。また、周知活動を通じて最新のガイドラインを共有し、情報の更新を怠らないことも重要です。
IT-BCPの訓練と周知を通じて従業員同士のコミュニケーションが活性化され、チームワークが強化されれば、従業員は緊急時に迅速かつ適切に対応でき、組織全体のレジリエンスが向上するでしょう。
■ガイドラインの参照
IT-BCPを策定する際の3つ目のポイントは、ガイドラインの参照です。
経済産業省が提供する「ITサービス継続ガイドライン」や情報処理推進機構(IPA)が発行する「IT システムにおける緊急時対応計画ガイド」などを参照することで、計画策定の際に見落としがちなポイントを補完することができます。IT分野では急速に進化する技術とセキュリティの脅威に対応する必要があるため、最新のガイドラインを常にチェックすることが重要です。
また、ガイドラインをもとに企業独自の状況に応じたカスタマイズを行うことで、実効性のある計画が策定され、緊急時における迅速な対応を可能にします。
5. まとめ
今回は、IT-BCPの概要や策定が必要な理由、具体的な対策、策定する際のポイントについて解説しました。
デジタル化が進む現代社会では、IT機器やITシステム、ITサービスは企業の競争力を維持するための重要な要素となっている一方で、システム障害やサイバー攻撃などのリスクが増大する要素ともなっています。ITに関わる機会が多い企業では、IT-BCPを策定し、事業を迅速に復旧する能力を身に付けることが重要です。
本記事で解説した具体的な対策や策定する際のポイントを参考に、IT-BCPの策定に取り組んでみましょう。
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