秘密保持契約(NDA)とは?締結するメリットや流れを解説

個人情報や機密情報を扱う業務を委託する場合、秘密保持契約の締結が欠かせません。個人情報や機密情報の取り扱い方や管理方法などについて細かく規定することができ、情報漏えいのリスクを軽減することが可能です。

 

本記事では、秘密保持契約の概要から締結が必要なケース、締結するメリット、秘密保持契約書に記載する主な項目、締結する流れまで詳しく解説します。

 

1. 秘密保持契約(NDA)とは

秘密保持契約とは、委託先に対し、提供した秘密情報を保持させる契約です。秘密保持契約を意味する英単語のNon-Disclosure Agreementの頭文字を取って、NDAと呼ばれる場合もあります。

秘密保持契約における「秘密情報」は個人情報や機密情報を指し、「保持」は個人情報や機密情報を委託者の管理下で維持することを指します。

近年では委託先から個人情報や機密情報が漏えいするケースが増加しており、情報漏えいが発生すると自社に与える影響も多大なものとなるため、委託先と秘密保持契約を締結するのが一般的になっています。

 

■機密保持契約との違い

秘密保持契約に類似した名称として機密保持契約がありますが、表記が異なるだけで意味は同じです。契約内容や法的な効果に違いはありません。

 

■秘密保持契約の締結が必要なケース

秘密保持契約の締結が必要になるのは、委託先へ個人情報や機密情報を提供しなければ委託先が遂行できないような業務を委託するケースです。

委託先へ個人情報や機密情報を提供しない場合には、秘密保持契約を締結する必要はありません。

 

■秘密保持契約を締結するタイミング

秘密保持契約を締結するタイミングは、委託先へ個人情報や機密情報を開示する前です。

業務を委託する委託元としては、個人情報や機密情報を開示したうえで委託先が業務委託契約を締結しなかった場合、委託先が開示した個人情報や機密情報を悪用するリスクが発生することになってしまいます。契約を締結していない以上、個人情報や機密情報を開示した相手に対し、入手した情報を破棄するように指示することができないからです。

一方、業務を委託される委託先としては、個人情報や機密情報を開示してもらわなければ業務委託契約を締結するかを判断できない場合があります。

上記のような委託先・委託元双方の問題を解決するために、委託先へ個人情報や機密情報を開示する前に、秘密保持契約を締結します。

秘密保持契約を締結しておくことで、委託先との契約が不調に終わった場合においても、開示した個人情報や機密情報の保持を強制させることができるわけです。

 

 

2. 秘密保持契約書とは

秘密保持契約書とは、秘密保持契約に関する項目が記載された書類です。秘密保持契約書を作成し、双方が確認・了承したうえで双方が署名・押印することで、秘密保持契約を締結することができます。

秘密保持契約に限りませんが、民法上、口頭やチャットツールなどのやり取りだけでも契約は成立します。しかし、口頭のやり取りは記録に残しづらいため、言った言わないのトラブルになりやすいです。また、チャットツールを使用したやり取りだと、相手が後から内容を改変する恐れがあります。

上記のようなトラブルを回避するためには、口頭やメール、チャットツールなどで契約を締結するのではなく、秘密保持契約書を取り交わす形で秘密保持契約を締結することが重要です。

 

■秘密保持契約書を取り交わす手順

秘密保持契約書を取り交わす手順は以下の通りです。

  1. 秘密保持契約書を2通作成する
  2. 相手に内容を確認してもらう
  3. 秘密保持契約書2通に署名・押印する
  4. 秘密保持契約書2通を相手に渡し署名・押印の上、1通を返却してもらう
  5. 秘密保持契約書を保管する

 

秘密保持契約書の様式に法的な定めはないため、自社で作成したり、Webから入手できる雛型を使用したりしても問題はありません。

また、秘密保持契約書に記載する項目についても、自由に定めることが可能です。

 

■秘密保持契約書に記載する項目

秘密保持契約書に記載する主な項目と内容は以下の通りです。

 

項目

記入例

秘密情報

第1条(秘密情報)

1.本契約における「秘密情報」とは、甲又は乙が相手方に開示し、かつ開示の際に秘密である旨を明示した技術上又は営業上の情報、本契約の存在及び内容その他一切の情報をいう。

秘密情報等の取扱い

第2条(秘密情報等の取扱い) 

1.甲又は乙は、相手方から開示を受けた秘密情報及び秘密情報を含む記録媒体若しくは物件(複写物及び複製物を含む。

返還義務等

第3条(返還義務等) 

1.本契約に基づき相手方から開示を受けた秘密情報を含む記録媒体、物件及びその複製物(以下「記録媒体等」という。)は、不要となった場合又は相手方の請求がある場合には、直ちに相手方に返還するものとする。 

2.前項に定める場合において、秘密情報が自己の記録媒体等に含まれているときは、当該秘密情報を消去するとともに、消去した旨(自己の記録媒体等に秘密情報が含まれていないときは、その旨)を相手方に書面にて報告するものとする。

損害賠償等

第4条(損害賠償等) 

甲若しくは乙、甲若しくは乙の従業員若しくは元従業員又は第二条第二項の第三者が相手方の秘密情報等を開示するなど本契約の条項に違反した場合には、甲又は乙は、相手方が必要と認める措置を直ちに講ずるとともに、相手方に生じた損害を賠償しなければならない。

有効期限

第5条(有効期限) 

本契約の有効期限は、本契約の締結日から起算し、満○年間とする。期間満了後の○ヵ月前までに甲又は乙のいずれからも相手方に対する書面の通知がなければ、本契約は同一条件でさらに○年間継続するものとし、以後も同様とする。

協議事項

第6条(協議事項) 

本契約に定めのない事項について又は本契約に疑義が生じた場合は、協議の上解決する。

管轄

第7条(管轄) 

本契約に関する紛争については○○地方(簡易)裁判所を第一審の専属管轄裁判所とする。

 

参考資料:秘密情報の保護ハンドブック「経済産業省」

 

 

3. 秘密保持契約を締結するメリット

秘密保持契約を締結するメリットは以下の通りです。

  • 安心して契約の交渉ができる
  • 秘密情報の範囲を指定できる
  • 損害賠償請求ができる

 

それぞれのメリットについて詳しく解説します。

 

■安心して契約の交渉ができる

秘密保持契約を締結する1つ目のメリットは、安心して契約の交渉ができることです。

前述したように、契約を締結していない相手に個人情報や機密情報を開示・提供した場合、相手が情報を外部へ流出したり、悪用したりする恐れがあります。

信頼できる相手だとしても、情報の管理や保存方法、返還、消去を強制することはできず、一定のリスクは残ったままです。

契約を締結する前に秘密保持契約を締結しておくことで、情報漏えいのリスクを抑え、安心して契約の交渉を行うことができます。

 

■秘密情報の範囲を指定できる

秘密保持契約を締結する2つ目のメリットは、秘密情報の範囲を指定できることです。

不正競争防止法によって保護される秘密情報については、契約を締結していない相手が不正に使用した場合でも民事上・刑事上の措置を取ることができます。一方、「秘密管理性」「有用性」「非公知性」の3点が満たされていない秘密情報については、不正競争防止法の保護対象ではありません。つまり、企業が保護したい秘密情報が、不正競争防止法の保護対象ではない場合があるということです。

秘密保持契約では秘密情報の範囲を指定することができるため、不正競争防止法の保護対象ではない情報についても、法的な保護を受けることができます。

 

■損害賠償請求ができる

秘密保持契約を締結する3つ目のメリットは、委託先からの情報漏えいによって自社の損害が発生した場合に、委託先に対して損害賠償請求ができることです。

委託先を起因とした情報漏えいでも自社が対応を取ることが多く、自社に対する評判やイメージの低下も懸念されます。

また、委託先へ損害賠償を請求できる状態にしておくことで、情報漏えいを抑止する効果も期待できます。

 

【関連記事】

委託先から個人情報が漏えいした事例を紹介

 

 

4. 秘密保持契約に関するよくある質問

■秘密保持契約書は誰が作成する?

秘密保持契約書は、業務を委託する側と委託される側のどちらが作成しても問題ありません。作成しただけで契約が成立するのではなく、双方が内容を確認し、内容を承認したうえで双方が署名・押印することで契約が成立するからです。

個人情報や機密情報の取り扱い方を詳細に規定するため、一般的には個人情報や機密情報を開示する側、業務を委託する側が作成します。

 

■秘密保持契約書に収入印紙は必要?

秘密保持契約書は印紙税法上の課税文書に概要しないため、収入印紙を添付する必要はありません。

 

 

5. まとめ

今回は、秘密保持契約について解説しました。

委託先からの情報漏えいのリスクを軽減するためには、委託先と秘密保持契約を締結することが重要です。秘密情報の定義や目的外使用の禁止、契約終了後の破棄、有効期間、違反した場合の損害賠償などについて、詳細に規定できます。

委託先と秘密保持契約を締結することで、情報漏えいが発生した場合に損害賠償を請求することができ、委託先の情報漏えいを抑止する効果も期待できます。

 

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