リスクアセスメントの対象物質とされているのは、2025年4月1日時点で約1,600種類です。
2022年12月時点で674物質でしたが、2024年4月には234物質が追加され、約1,600種類の化学物質が対象物質として指定されています。
本記事では、リスクアセスメント対象物の概要から最新の対象物一覧、実施義務について解説します。
1. そもそもリスクアセスメントとは
リスクアセスメントとは、職場における危険性や有害性を特定し、そのリスクを評価して適切な対策を講じるプロセスです。リスクアセスメントは労働安全衛生法に基づき多くの企業で実施が求められており、特に化学物質を扱う現場ではその重要性が高まっています。
リスクアセスメントを実施する目的は、労働災害や健康被害を未然に防ぐことです。職場での事故や病気は、従業員の生活に大きな影響を与えるだけでなく、企業にとっても生産性の低下や法的責任を伴う可能性があります。そのため、リスクアセスメントを通じて潜在的な危険を事前に把握し、適切な管理策を講じる必要があるわけです。
例えば、化学工場では取り扱う化学物質の特性や使用環境を詳細に分析し、適切な保護具の使用や作業手順の見直しを行うことで、リスクを低減させます。
2. リスクアセスメント対象物とは
リスクアセスメント対象物とは、リスクアセスメントの実施が労働安全衛生法で義務付けられている物質です。労働安全衛生法においては、リスクアセスメント対象物以外の物質に対してもリスクアセスメントの努力義務が定められています。
リスクアセスメント対象物は取り扱いを誤ると労働災害や健康被害など重大な事故を引き起こす可能性があるため、適切に管理することが重要です。
■2025年最新のリスクアセスメント対象物質の数
リスクアセスメントの対象となる物質の数は、2025年4月1日時点で約1,600種類です。これらの物質は、化学物質の中でも特に人体や環境に影響を与える可能性が高いものとして指定されています。
新たな化学物質の開発や、既存物質の再評価により、リスクアセスメントの対象が年々増加傾向にあります。2025年4月1日以降には約700の物質が追加され、2026年の4月1日に行われる予定の追加分を加えると、約2300種類の物質がリスクアセスメント対象物となる予定です。
■リスクアセスメント対象物質一覧のダウンロード方法
リスクアセスメント対象物質の一覧は、厚生労働省の職場のあんぜんサイトで定期的に更新される情報を確認することができます。表示・通知対象物質の一覧として公表されており、エクセルデータをダウンロードすることも可能です。
【参考資料】
ダウンロードしたリスクアセスメント対象物質一覧は、リスク評価や管理計画の策定に役立ちます。例えば、化学工場や製造業では、これらのリストを基にして、どの物質が自社のプロセスに影響を与える可能性があるかを評価します。
リスクアセスメント対象物質は定期的に更新されるため、事業者は最新の情報を常に確認し、適切な管理を行うことが求められます。情報の確認が遅れると法令違反となるリスクがあるため注意が必要です。
■対象物質の確認方法
リスクアセスメントの対象物質を確認する際には、まず自社で使用している化学物質の全体像を把握する必要があります。これには、製品の安全データシート(SDS)の確認が有効です。SDSには、各化学物質の成分や特性、危険性に関する情報が詳細に記載されています。
また、最新の法改正情報を常にチェックすることも重要です。法令は定期的に改正されるため、最新の情報をもとにリスクアセスメントを行うことで、法令違反を未然に防ぐことができます。新たに指定された有害物質や規制強化された物質については、迅速な対応を心がけましょう。
■法改正によりリスクアセスメントの実施が義務化
2014年6月の労働安全衛生法の改正では、特定の化学物質に対するリスクアセスメントの実施が義務化されました。法改正に伴い、事業者は新たな対象物質をリストに加えたり、既存の管理方法を見直す必要があります。また、法改正によって新たに追加された対象物質については、SDS(安全データシート)の更新やGHSに基づいたラベル表示の見直しも必要です。
3. リスクアセスメント対象物を扱う事業者の義務
リスクアセスメント対象物を扱う事業者には、労働安全衛生法に基づいた義務が課されています。リスクアセスメントの実施やSDS(安全データシート)の交付、GHS(化学品の分類および表示に関する世界調和システム)に基づいたラベル表示、化学物質管理者の選任などが、具体的な義務として挙げられます。
これらの義務は、労働者の安全を守るためにも非常に重要です。リスクアセスメントを通じて危険性を特定し、適切な対策を講じることで、事故や健康被害を未然に防ぐことが可能になります。また、SDSの交付やGHSラベル表示は、化学物質の安全な取り扱いを促進し、労働者が適切な情報を得られるようにするために欠かせません。化学物質管理者の選任は、専門的な知識を持つ人材が化学物質の管理を行うことで、より安全な職場環境を維持する役割を果たします。
■リスクアセスメントの実施
事業者は、まず職場に存在する全てのリスクアセスメント対象物を特定し、それらがどの程度の危険性を持つのかを評価する必要があります。この評価には、物質の性質や使用方法、作業環境などが考慮されます。
次に、評価されたリスクに基づいて、有害物質の使用を減らす、代替物質を使用する、または適切な防護具を提供するなど、リスクを低減するための具体的な対策を策定します。
また、リスクアセスメントでは定期的な見直しと改善が不可欠です。リスクアセスメントは一度行えば終わりではなく、状況の変化に応じて継続的に見直しを行い、最新の安全対策を維持することが求められます。
■SDSの交付
リスクアセスメント対象物を他の事業者に譲渡または提供する事業者には、SDS(安全データシート)を交付する義務があります。
SDSとは、化学物質の特性や取り扱い方法、危険性、応急措置、取り扱い上の注意点などを詳細に記載した文書です。
化学物質の取り扱いにおいては、労働者がその物質の危険性を理解し、安全に取り扱うための情報が不可欠です。SDSを確認することで、事故や健康被害を未然に防ぐことができます。
■GHSに基づいたラベル表示
リスクアセスメント対象物を扱う事業者には、GHSに基づいたラベル表示を行う義務があります。GHSは、化学物質の危険性を国際的に共通の基準で分類し、その情報をラベルや安全データシート(SDS)として提供する仕組みです。GHSに基づいたラベル表示を行うことにより、化学物質を扱う事業者や利用者が物質の危険性を理解し、安全な取り扱いを行うことができます。
ラベルには、物質の名称や危険有害性情報、注意喚起文、供給者情報などが記載されます。危険有害性情報は視覚的に分かりやすいピクトグラム(絵文字)で表示され、誰でも瞬時に危険性を把握できるようになっています。例えば、炎のピクトグラムは可燃性を示し、腐食性のピクトグラムは皮膚や金属に対する腐食性を示します。
■化学物質管理者の選任
リスクアセスメント対象物を扱う事業者は、化学物質管理者を選任する義務があります。2024年4月1日の労働安全衛生規則改正により、化学物質管理者の選任が義務化されました。
選任された化学物質管理者は、化学物質の特性・リスクの把握や適切な管理手法の導入など、事業所内での化学物質の安全な取り扱いを確保するための中心的な役割を果たします。
また、従業員に対して適切な教育や訓練を実施し、化学物質による事故を未然に防ぐ役割も担っています。
化学物質管理者の選任が適切に行われていない場合、リスクアセスメントが不十分になり、事故や健康被害のリスクが高まる可能性があります。解決策としては、適切な知識と経験を持つ人材を選ぶことが重要です。さらに、定期的な研修を実施し、最新の法規制や技術情報を常にアップデートすることが求められます。
4. リスクアセスメントの手順
リスクアセスメントの手順は以下の通りです。
- 危険性・有害性の特定
- リスクの見積もり
- リスク低減措置の実施
それぞれの手順について詳しく解説します。
■危険性・有害性の特定
化学物質の有害性を特定するには、安全データシート(SDS)や製品ラベルなどから製品やその成分に関する情報を収集する必要があります。次に、発火性や爆発性、腐食性など、化学物質の物理的・化学的特性を理解することが重要です。これらの特性は作業環境や取り扱い方法に大きな影響を与えるため、しっかりと把握しておく必要があります。
また、法令で定められたリストや規制基準を活用することも有効です。例えば、労働安全衛生法では、特定の化学物質について取り扱いや管理に関する基準が設けられています。国際的な基準やガイドラインも参考にすることで、より広範な視点から危険有害性を評価することが可能です。
■リスクの見積もり
リスクの見積もりとは、特定された化学物質の有害性が実際にどの程度のリスクをもたらすかを評価するプロセスです。このプロセスでは、化学物質の使用状況や作業環境、接触頻度などを考慮し、リスクの大きさを定量的または定性的に評価します。
具体的には、化学物質の毒性や発火性などの性質を確認します。次に、実際の作業環境での使用方法や保管状況を詳細に観察し、どのような場面でどの程度の人がその物質に接触するかを把握します。
その後、得られたデータを基に、リスクの大きさを評価します。リスクの大きさは、一般的に「高」「中」「低」といったカテゴリで表されます。この評価により、どのリスクが最も重大かを特定し、優先的に対策を講じることができます。
■リスク低減措置の実施
リスク低減措置とは、特定されたリスクを最小限に抑えるために行う具体的な対策のことを指します。例えば、化学物質を取り扱う作業環境においては、換気設備の改善や防護具の使用が一般的な低減措置です。
リスク低減措置の実施には、リスクの見積もりの結果をもとに、どのリスクが最も重大であるかを評価する必要があります。そして、そのリスクに対する適切な低減策を選定し、実施に移します。この際、費用対効果も考慮しなければなりません。高価な設備投資が必要な場合、それに見合う効果が得られるかを慎重に判断することが求められます。
また、低減措置を実施した後も、定期的な評価と見直しが重要です。定期的なモニタリングとフィードバックの仕組みを整えることで、より効果的なリスク管理が可能になります。
5. リスクアセスメントの実施体制と時期
■実施体制の構築方法
リスクアセスメントを効果的に実施するためには、適切な体制の構築が欠かせません。リスクアセスメントを担当するチームを形成する際には、化学物質に関する専門知識を持つ人材や、安全管理の経験が豊富なスタッフを含めると良いでしょう。自社には専門家がいない場合には、外部の専門家を活用することでも対応可能です。
次に、リスクアセスメントの責任者を明確にし、各メンバーの役割を具体的に定めましょう。これにより、誰が何を行うべきかが明確になり、スムーズな実施が期待できます。また、定期的な研修や情報共有の場を設け、最新の法令や技術情報を常にアップデートすることも大切です。さらに、リスクアセスメントの結果を適切に記録し、社内で共有する仕組みを整えることも求められます。
■適切な実施時期と頻度
化学物質を取り扱う事業所では、法令に基づき定期的なリスクアセスメントの実施が義務付けられています。通常は1年に1回程度が目安とされていますが、業種や取り扱う化学物質の種類によって異なる場合があるので、法令やガイドラインを確認することが重要です。また、新たな化学物質を導入する際や、作業工程の変更、事故やトラブルが発生した場合には、随時リスクアセスメントを行う必要があります。
6. まとめ
今回は、リスクアセスメント対象物の概要から最新の対象物一覧、実施義務について解説しました。
リスクアセスメントは、職場の安全を確保するために欠かせない重要なプロセスです。適切に対象物を特定し、リスクを評価することで、事故や健康被害を未然に防ぐことができます。本記事で解説したリスクアセスメントの対象となる物質やリスクアセスメント対象物に課される義務を参考に、より安全な職場環境を築いていきましょう。
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