「リスク対応とは何か」「リスク対応の検討のためになぜリスクの分析・評価が必要なのか」「どのようにリスク対応を実施するのか」など、疑問に感じているのではないでしょうか?
本記事では、リスク対応の概要からリスクの分析・評価が事前に必要な理由、主なリスク対応の方法について解説します。
1. リスク対応とは
リスク対応とは、リスクマネジメントプロセスの手順の中の一つです。
リスクマネジメントプロセスとは、リスクマネジメントを実施するための手順です。
リスクマネジメントプロセスの具体的な手順
リスクの洗い出し | 企業を取り巻くリスクを洗い出し、特定します。 |
リスクの分析・評価 | リスクの発生確率と影響を分析し、対応の優先順位を決めます。 |
リスク対応 | 評価されたリスクに対する対策を立案します。 |
対策の実施 | 立案された対策を実行します |
モニタリング | 実施された対策の効果を評価し、必要に応じて改善します。 |
リスクマネジメントプロセスにおいては、リスクの洗い出しとリスクの分析・評価が終わった後に、リスク対応が実施されます。
リスク対応の方法は大きく以下の4つに分類されます。
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リスクの優先順位によってリスク対応の方法を変えることで、効率良くリスクマネジメントを実施できます。
リスクマネジメントについては、下記の記事で詳しく解説しています。
2.リスク対応のために事前にリスク分析・評価をする理由
リスク対応の方法を検討するためには事前にリスク分析・評価をしなければいけません。その理由として以下の3つが考えられます。
- 企業ごとにリスクが発生する確率が異なる
- リスクごとに発生する被害の規模が異なる
- すべてのリスクを完全に排除できるわけではない
それぞれの理由について詳しく解説します。
■企業ごとにリスクが発生する確率が異なる
事前にリスク分析・評価をしなければいけない1つ目の理由は、企業ごとにリスクが発生する確率が異なるからです。
たとえば、設立したばかりで認知度が低い企業と誰でも知っているような大手企業では、不正アクセスの標的となる可能性には大きな差があります。
身代金を要求したり個人情報を不正に取得したりすることが、不正アクセスを行う側の一般的な目的です。高額な身代金を支払えるだけの規模でない企業や価値のある個人情報を保有していない企業であれば、不正アクセスのターゲットにはなりにくいでしょう。また、自社の従業員への教育が徹底されていれば、従業員が不正行為を行ったり、人的ミスによる被害が発生したりする可能性を抑えられるはずです。
リスクが発生する確率が異なるにもかかわらず、すべてのリスクに対して一律に同じ対策を実施すると、無駄なコストや手間が発生してしまう恐れがあります。
■リスクごとに発生する被害の規模が異なる
2つ目の理由は、リスクごとに発生する被害の規模が異なるからです。
たとえば、大規模なサイバー攻撃を受けた場合に発生する被害と、自然災害によって発生した停電で発生する被害では、規模に大きな差があります。
サイバー攻撃によって自社が保有する個人情報が流出すれば、外部への公表や被害者に対する損害賠償、事後の対策の実施など、さまざまな費用と手間がかかります。一方、停電によって自社の業務が停止する場合だと、主に被害が発生するのは停電している間だけです。夜間に発生した停電であれば、実質的な被害がないこともあるでしょう。
リスクごとに発生する被害の規模が異なるにもかかわらず、すべてのリスクに対して一律に同じ対策を実施すると、無駄なコストや手間が発生してしまう恐れがあります。
■すべてのリスクを完全に排除できるわけではない
3つ目の理由は、すべてのリスクを完全に排除できるわけではないからです。
高性能かつ最新のセキュリティ対策を実施していたとしても、不正アクセスを行う側の手法が高度化・巧妙化すれば、被害を受けてしまう可能性があります。また、従業員に対して徹底的な指導・教育を行っている場合でも、人的ミスが発生する可能性をゼロにするのは困難です。
対策を実施することで可能性を限りなくゼロに近づけることはできますが、すべてのリスクを完全に排除できるわけではありません。
過剰な対策を実施すると、発生する被害以上のコストが発生するかもしれません。
3. リスク対応の主な方法
リスク対応の主な方法は以下の4つです。
リスク回避 | リスクが発生する可能性を排除しリスクそのものが無くなるような対策を講じる |
リスク低減 | リスクの影響や発生確率を低くするための対策を実施する |
リスク移転 | リスクの負担を他者に移すことで、自社のリスクを軽減する |
リスク受容 | リスクの影響が軽微である場合や対策コストが高い場合にリスクを受け入れる |
それぞれの方法について詳しく解説します。
■リスク回避
リスク対応の1つ目の方法は、リスク回避です。
「リスク回避」とは、リスクが発生する可能性を排除し、リスクそのものが無くなるような対策を講じることです。
たとえば、設備投資には売上や利益が向上する効果が期待できますが、設備投資にかかった費用を回収できないまま赤字が続いてしまうリスクがあります。上記のようなケースでは、そもそも設備投資を実施しないというリスク回避を実施することで、リスクの発生を防止するわけです。
一般的には、得られる利益よりも損失の方が大きいと判断された場合に、リスク回避が採用されます。
■リスク低減
リスク対応の2つ目の方法は、リスク低減です。
「リスク低減」とは、リスクの影響や発生確率を低くするための対策を実施することです。
たとえば、不正アクセスによる情報漏えいというリスクに対しては、セキュリティソフト導入という対策でリスクが発生する確率を低下させることができます。また、自然災害による停電で事業が停止してしまうというリスクに対しては、無停電装置の導入により被害はほとんど発生しません。
対策することで被害を低減できる場合、リスクが発生する可能性を低減できる場合に、リスク低減が採用されます。
■リスク移転
リスク対応の3つ目の方法は、リスク移転です。
たとえば、自然災害による津波や豪雨で自社のオフィスが浸水すれば、オフィスに設置しているサーバーが使えなくなり、事業が停止する恐れがあります。
一方、オフィスに設置しているサーバーを郊外のデータセンターに移転すれば、リスクが発生する可能性自体をデータセンターに移転できるわけです。また、自社サーバーにデータを保存するのではなく、クラウド上にデータを保存することでリスクを移転する方法が取られる場合もあります。
上記のように、リスクが発生する場所を変更できる場合に、リスク移転が採用されます。
■リスク受容
リスク対応の4つ目の方法は、リスク受容です。
「リスク受容」とは、リスクの影響が軽微である場合や対策コストが高い場合にリスクを受け入れることです。
たとえば、新商品を製造・販売する場合、全く売れずにすべての在庫を倉庫に抱えてしまうかもしれません。一方、価格を下げたり販売数を減らしたりすれば、新商品を製造・販売する効果が大きく損なわれてしまうでしょう。
上記のようなケースでは、リスクが発生する可能性や被害の大きさを認識したまま、リスクを受け入れるわけです。
リスクが発生する可能性が非常に低い場合やリスクが発生しても被害が著しく低い場合に、リスク受容が採用されます。
4. まとめ
今回は、リスク対応の概要から、リスク対応のために事前にリスク分析・評価を実施する理由、そしてリスク対応の4つの主な方法について解説しました。
効果的なリスクマネジメントを実施するためには、リスクに応じて最適なリスク対応を実施することが重要です。
本記事で解説したリスク対応を実施しなければいけない理由、その事前プロセスと主な方法を参考に、効果的なリスクマネジメントを実施しましょう。