再委託が禁止される理由や法的な根拠、禁止・制限する方法を解説

請負契約では再委託を禁止するケースは少ないですが、準委任契約の場合は原則として再委託を禁止するケースが一般的です。建設工事や産業廃棄物の処理を委託されている場合についても、再委託が禁止されます。

 

本記事では、再委託が禁止される理由や法的な根拠、禁止・制限する方法について詳しく解説します。

1. 再委託が禁止されるケース

再委託が禁止されるケースは以下の4つです。

  • 準委任契約の場合
  • 業務委託契約書で禁止されている場合
  • 建設工事を委託されている場合
  • 産業廃棄物の処理を委託されている場合
  • 自治体からを委託されている場合

それぞれのケースについて詳しく解説します。

 

■準委任契約の場合

準委任契約では、原則として再委託が禁止されています。受託者が業務を第三者に再委託すると、責任の所在が曖昧になり、トラブルが発生する可能性があるからです。一方、成果物の納品を目的とした契約である請負契約においては、原則的に再委託を禁止されておらず、再委託するかどうかは受託者の自由とされています。

 

■業務委託契約書で禁止されている場合

業務委託契約書に「再委託禁止条項」が明記されている場合、受託者は再委託を行うことはできません。再委託禁止条項とは、委託を受けた業務を他の第三者に再び委託することを禁止する規定です。

原則的に再委託を禁止されていない請負契約で再委託を禁止する場合には、業務委託契約書に再委託禁止条項を記載する必要があります。原則として再委託が禁止されている準委任契約においては再委託禁止条項を記載する必要はありませんが、受託者とのトラブルや法的な責任を明確にするために記載するケースもあります。

 

■建設工事を委託されている場合

建設業法では、元請業者が下請業者に工事を一括して再委託すること(一括下請負)、下請業者が工事を一括して請け負うことを禁止しています。

 

ただし、「建設工事が多数の者が利用する施設又は工作物に関する重要な建設工事で政令で定めるもの以外の建設工事である場合」、建設工事の元請負人があらかじめ発注者の書面による承諾を得ることで、再委託することは可能です。

 

建設工事で再委託が禁止されているのは、建設業の健全な発達を阻害する恐れがあるからです。再委託を行うことで元請業者の管理が行き届かなくなるリスクがあり、再委託先が適切に管理できないと事故やトラブルの原因となる可能性があります。再委託を許可する場合でも、元請業者がしっかりと監督し、再委託先の業務を管理する体制を整えることが重要です。

 

建設業者は、その請け負つた建設工事を、いかなる方法をもつてするかを問わず、一括して他人に請け負わせてはならない。

2 建設業を営む者は、建設業者から当該建設業者の請け負つた建設工事を一括して請け負つてはならない。

3 前二項の建設工事が多数の者が利用する施設又は工作物に関する重要な建設工事で政令で定めるもの以外の建設工事である場合において、当該建設工事の元請負人があらかじめ発注者の書面による承諾を得たときは、これらの規定は、適用しない。

引用:建設業法22条

 

■産業廃棄物の処理を委託されている場合

廃棄物処理法に基づき、産業廃棄物の処理を再委託することは禁止されています。

一般廃棄物の再委託は例外なく禁止されていますが、以下に該当する場合は再委託が可能です。

  • 委託基準に適合するものであることを当該事業者に対して明らかにしている
  • 委託について当該事業者の書面による承諾を受けている
  • 必要事項を記載した文書を再受託者に交付している

 

産業廃棄物収集運搬業者は、産業廃棄物の収集若しくは運搬又は処分を、産業廃棄物処分業者は、産業廃棄物の処分を、それぞれ他人に委託してはならない。ただし、事業者から委託を受けた産業廃棄物の収集若しくは運搬又は処分を政令で定める基準に従つて委託する場合その他環境省令で定める場合は、この限りでない。

 

引用:廃棄物処理法14条16項

 

■自治体からを委託されている場合

自治体が業務を委託する場合、自治体は公共の利益を最優先に考え、情報の漏えいや業務の不適切な運用を防ぐために、再委託を制限することがあります。

自治体が再委託を禁止するのは、再委託が行われると業務の実施者が多くなり、問題が発生した際に誰が責任を負うのかが不明瞭になる可能性があるからです。そのため、自治体は直接契約した業者にのみ業務を行わせることを求めています。

 

 

2. 委任契約・準委任契約で再委託が禁止される法的な根拠

委任契約や準委任契約において、再委託が禁止される法的な根拠は、民法に基づいています。これらの契約では業務を委託する側と受託する側の信頼関係が重要であり、再委託によって当初の契約内容や品質が維持されないリスクが高まる可能性があるため、法律で一定の制約が設けられています。

民法104条や民法644条の2が関連法規として挙げられ、これらの条文により再委託の制限がされています。

 

委任による代理人は、本人の許諾を得たとき、又はやむを得ない事由があるときでなければ、復代理人を選任することができない。

 

引用:民法104条

 

受任者は、委任者の許諾を得たとき、又はやむを得ない事由があるときでなければ、復受任者を選任することができない。

 

引用:民法644条の2

 

3. 再委託を禁止するメリット

再委託を禁止するメリットは以下の4つです。

  • 責任の所在が明確になる
  • 情報漏えいのリスクが低下する
  • 品質が維持できる
  • 管理・監督する委託先が限定される

それぞれのメリットについて詳しく解説します。

 

■責任の所在が明確になる

再委託を禁止する1つ目のメリットは、責任の所在が明確になることです。

業務を委託する際、委託先がその業務をさらに他者に再委託すると、問題が発生した際の対応が遅れたり、責任の押し付け合いが起こったりする恐れがあります。一方、再委託を禁止すれば、委託先が直接業務を遂行し、何か問題が発生した場合にはその委託先が対応するため、責任の所在が明確になるわけです。

また、責任の所在が明確になることにより、委託先も業務に対してより慎重に取り組むようになり、業務の質や信頼関係の向上にもつながるでしょう。

 

■情報漏えいのリスクが低下する

再委託を禁止する2つ目のメリットは、情報の流出経路が限定されることで、情報漏えいのリスクが低下することです。

再委託を行うと、委託先だけでなく再委託先にも情報が渡るため、情報漏えいの危険性が高まります。再委託を禁止すれば情報の提供範囲が限定されるため、情報漏えいのリスクを抑えることが可能です。

 

■品質が維持できる

再委託を禁止する3つ目のメリットは、品質が維持できることです。

再委託を許可すると、業務が複数の委託先に分散されることになり、各委託先の技術力や管理能力にばらつきが生じる可能性があります。業務の専門性が高い場合、再委託先がその専門知識を持っていないと、品質が低下するかもしれません。再委託を禁止することで、業務の一貫性と専門性が保たれ、品質を維持することが可能です。

 

■管理・監督する委託先が限定される

再委託を禁止する4つ目のメリットは、管理・監督する委託先が限定されることです。

業務を外部企業に委託する場合、委託元企業は委託先企業を管理・監督する必要があります。委託元企業には再委託先を監督する必要もあるため、委託先の再委託を許可していると、管理・監督する企業が増加する可能性があるわけです。一方、再委託を禁止することで、委託先の数が限定されるため、管理する対象が明確になります。

また、委託先が少ない場合、各委託先の業務進捗や品質を細かくチェックできるため、全体の業務の質を高めることが期待されます。再委託を禁止することで委託先が増えることによる管理の煩雑さを避け、効率的な管理・監督が可能になるわけです。

 

 

4. 再委託を禁止するデメリット

再委託を禁止するデメリットは以下の3つです。

  • 対応できる業務の幅が狭くなる
  • 業務効率が低下する
  • プロジェクトが完了するまでの時間が長くなる

それぞれのデメリットについて詳しく解説します。

 

■対応できる業務の幅が狭くなる

再委託を禁止する1つ目のデメリットは、対応できる業務の幅が狭くなることです。

再委託を許可している場合、委託先だけでなく再委託先のスキルや経験も業務に活かせるため、さまざまな業務に対応できるようになります。一方、委託先が持つリソースやスキルに限界がある場合、業務の幅が狭くなり、対応できる業務が限られてしまうかもしれません。急な需要増加や専門性の高い業務が発生した際に、迅速な対応が困難になる可能性があるわけです。

 

■業務効率が低下する

再委託を禁止する2つ目のデメリットは、業務効率が低下することです。

再委託を禁止することで、委託先が業務を一手に引き受ける必要があり、業務量が増加する可能性があります。専門的なスキルや知識が必要な業務の場合、再委託を許可していないと、委託先がその業務をこなすために新たなスキルを習得しなければならない場合もあるため、業務の進行が遅れたり、効率が低下したりするかもしれません。

また、再委託を禁止することで、業務の柔軟性が失われることも考えられます。例えば、プロジェクトの中で急な仕様変更や追加の業務が発生した場合、再委託ができると迅速に対応できますが、禁止されていると対応が遅れてプロジェクト全体のスケジュールに影響を及ぼすこともあるでしょう。

 

■プロジェクトが完了するまでの時間が長くなる

再委託を禁止する3つ目のデメリットは、プロジェクトが完了するまでの時間が長くなることです。

再委託を禁止することで、委託先がすべての業務を自社で処理しなければならなくなります。業務の負担が増加し、結果としてプロジェクトの進行が遅れてしまうかもしれません。

すべての作業を委託先だけで行うことは、特に大規模なプロジェクトにおいては非効率的です。各専門分野の業務を専門の業者に再委託することができれば、より迅速に、そして効率的にプロジェクトを進めることができるでしょう。

 

 

5. 再委託を禁止・制限する方法

再委託を禁止・制限する方法は以下の2つです。

  • 準委任契約を締結する
  • 業務委託契約に再委託を禁止する条項を設ける

それぞれの方法について詳しく解説します。

 

■準委任契約を締結する

準委任契約とは、業務の遂行を目的とした契約です。

準委任契約では委託先が業務を第三者に再委託することが原則として認められていないため、再委託を禁止・制限する場合に適した契約となっています。委託元は業務の進捗状況を直接把握でき、業務の品質を保つことが可能です。

一方、請負契約は成果物の納品を目的とした契約なので、再委託するかどうかは委託先の自由とするケースが多く、再委託を禁止・制限する場合には適していません。

 

■業務委託契約に再委託を禁止する条項を設ける

再委託を禁止する条項を契約書に明記することで、契約の種類に関わらず委託先が再委託することを明確に禁止することが可能です。受託者が勝手に第三者に業務を委託することを防ぎ、情報漏えいや品質の低下といったリスクを低減できます。

前述したように準委任契約では原則として再委託が禁止されていますが、実際には多くの企業が再委託禁止条項を設けています。

再委託禁止の条項を設ける際には、「受託者は、業務の全部または一部を第三者に再委託することを禁止します」といったように、再委託を禁止することを明確に記載しましょう。また、例外的に再委託を許可する場合には、その条件や手続きを詳細に記載することも重要です。

 

 

6. まとめ

今回は、再委託が禁止される理由や法的な根拠、禁止・制限する方法について解説しました。

業務委託契約において、原則として再委託が禁止されるのは準委任契約です。成果物の納品を目的とする請負契約では、再委託するかどうかは委託先の自由とされています。

再委託の禁止を業務委託契約書に明記することで、業務の質を確保し、責任の所在を明確にすることが可能です。本記事で解説した再委託を禁止・制限する方法を参考に、業務委託契約書や再委託が必要な場合の手順を見直しておきましょう

 

アトミテックでは、委託先リスク管理の手順をまとめた委託先リスク管理ガイドを公開しています。ぜひ自社の委託先管理の参考になさってください。