自然災害・パンデミックへの迅速な対応や人権・環境への配慮が求められるサプライチェーンにおいては、サプライチェーンマネジメントへの取り組みが欠かせません。
本記事では、サプライチェーンマネジメント(SCM)の意味・定義から取り組むメリット・デメリット、実際にサプライチェーンマネジメントに取り組んでいる企業の事例について解説します。
1. サプライチェーンマネジメント(SCM)とは
サプライチェーンマネジメントとは、製造業や流通業などの企業が、製品の原材料の調達から最終的な消費者への提供までの一連のプロセスを指すサプライチェーンを管理することです。
Supply Chain Managementの頭文字を取って、SCMと呼ばれることもあります。Supply Chain Managementを日本語に直訳すると、「供給連鎖管理」となります。
サプライチェーンでは製造業者や運送業者、倉庫管理業者、小売業者などさまざまな企業が業務を行いますが、サプライチェーンマネジメントでは自社だけでなく自社と取引のある他の企業も含めた、サプライチェーン全体で発生するビジネスプロセスを管理します。
たとえば、自社が製造業者である場合、商品の配送を委託する運送業者が適切にドライバーを管理しているか、小売業者が法令に基づいて商品表示しているかなど、自社と取引のある他の企業の業務内容に対しても管理を行うわけです。
■サプライチェーンマネジメントの歴史的背景
サプライチェーンマネジメントの歴史は、20世紀初頭の「大量生産」体制に遡ります。当時は、フォードが組み立てラインを導入し、生産効率を劇的に向上させました。これがサプライチェーン管理の原型となり、その後の進化を促しました。
第二次世界大戦後、グローバル化が進む中で、国際的な供給網の最適化が求められるようになりました。近年では、IT技術の発展により、リアルタイムで情報を共有し、迅速な意思決定が可能となっています。これにより、企業は競争力を高めることができるようになりました。
サプライチェーンマネジメントの概念は、20世紀初頭のフォードによる大量生産体制に起源を持ちます。フォードが導入した組み立てラインは、生産効率を飛躍的に向上させ、サプライチェーンマネジメントの基礎が築かれました。
日本においても戦後の復興期には効率的な生産体制と供給が重視され、トヨタ生産方式などの革新的な手法が登場し、サプライチェーンマネジメントの進化に大きく寄与しています。特に、トヨタの「ジャストインタイム」方式は、無駄を削減し、効率を最大化することで、世界的にも注目されるようになりました。
さらに、ビジネスのグローバル化が進展する中で日本企業は国際的な供給網をより効率的に管理する必要に迫られ、サプライチェーンマネジメントは国境を越えた物流や調達、製造の最適化を目指すようになったわけです。たとえば、自動車産業では、部品を世界中から調達し、最適な場所で組み立てることでコスト削減と品質向上を実現しています。
近年では、IT技術の進化がサプライチェーンマネジメントに新たな可能性をもたらし、多くの企業がクラウドベースのシステムを導入、リアルタイムで情報を共有することで、迅速かつ的確な意思決定を行っています。これにより、在庫管理の精度が向上し、需要の変動にも柔軟に対応できるようになりました。
■ロジスティクスとの違い
ロジスティクスとサプライチェーンマネジメントは混同されることがありますが、それぞれ異なる役割を持ちます。
ロジスティクスは、主に商品の流通や保管、配送に特化した活動を指し、効率的な物流を実現するためのプロセスを重視する考え方です。一方、サプライチェーンマネジメントは、製品の企画から製造、流通、販売に至るまでの全体の流れを統合的に管理し、サプライチェーン全体のコスト削減や顧客満足度の向上を目指します。
■ERPとの違い
ERPとサプライチェーンマネジメントは、企業の効率化を目指す点で共通していますが、その目的と範囲が異なります。
ERPは企業内の資源を統合的に管理し、業務効率を向上させることが目的です。一方、サプライチェーンマネジメントでは、供給から製造、流通までのプロセスを最適化し、全体のコスト削減やリードタイムの短縮を図ります。ERPが企業内部のプロセスに焦点を当てるのに対し、サプライチェーンマネジメントは外部のサプライヤーや顧客との連携を重視するため、企業間の協力が鍵となるわけです。
■サプライチェーンマネジメント(SCM)システムとは
サプライチェーンマネジメント(SCM)システムとは、自社の製品やサービスの供給を効率的に管理するためのツールです。
サプライチェーンマネジメントシステムでは需要予測や在庫管理、物流管理など多岐にわたる機能が利用でき、サプライチェーン全体の透明性の向上、コスト削減、リードタイムの短縮、リアルタイムでの情報共有ができます。
2. サプライチェーンマネジメントが注目されるようになった理由
■ビジネスのグローバル化
サプライチェーンマネジメントが注目されるようになったのは、物流や調達の複雑さが増す中で国際的な取引が増加し、効率的なサプライチェーンの構築が企業の競争力を左右する重要な要素となっているからです。
日本企業は新たなビジネスチャンスを追求する上で、経済成長が著しいアジア市場への参入を検討することが増えています。一方、文化や規制の違いといった課題が存在しているため、各国の法律や商習慣、消費者の嗜好を理解し、それに基づいた戦略を立てることが重要です。このような状況では、現地のサプライヤーとの関係構築や迅速な物流網の確立といった、サプライチェーンマネジメントが重要となります。
■ECサイトの普及
ECサイトの普及も、サプライチェーンマネジメントが注目されるようになった理由のひとつです。特に日本国内では、楽天やAmazonなどのECサイトの誕生が消費者の購買行動を大きく変えました。ECサイトでは消費者ニーズに即応する仕組みを構築することが求められるため、リアルタイムデータを活用するサプライチェーンマネジメントが必要になったわけです。
■人材不足
人材不足も、サプライチェーンマネジメントの導入に大きな影響を与えています。
製造業や物流業界では熟練した人材の確保が難しくなっており、生産性を維持しつつコスト削減が図れる業務の自動化やAI技術の導入が急務となっています。また、働き方改革の影響により、フレキシブルな労働環境の整備も急務です。
こうした背景から、企業全体の戦略見直しにつながるサプライチェーンマネジメントが注目されています。
■消費者ニーズの多様化
消費者ニーズの多様化も、サプライチェーンマネジメントの重要性を高める要因の一つです。
現代の消費者は個人に最適化された商品やサービスを求める傾向が高くなっており、企業は柔軟な供給体制を構築することが求められています。例えば、アパレル業界ではトレンドの変化に迅速に対応できる在庫管理や生産計画の見直しが求められており、食品業界では健康志向の高まりに伴いオーガニック製品やアレルギー対応商品の需要が増加しています。このような多様なニーズに対応するためには、サプライチェーンマネジメントによる効率化が不可欠となっているわけです。
3. サプライチェーンマネジメントの主な業務
サプライチェーンマネジメントの主な業務は、予測・計画、実行・実施、評価・モニタリングの3つに大別されます。これらは、企業が効率的かつ柔軟に市場のニーズに応えるために欠かせないプロセスです。
■予測・計画
需要の予測は、市場の変動に対応し、適切な生産計画を立てるための基盤です。これにより、供給不足や過剰在庫を防ぎ、効率的な資源配分が可能となります。製品の製造から配送までの全体的な流れを最適化し、リードタイムの短縮を実現します。
■実行・実施
受注管理や在庫管理、配送管理などの業務は、効率的な物流を確保するために欠かせません。例えば、在庫管理では、適正な在庫レベルを維持することで過剰在庫や欠品を防ぎます。また、配送管理では、最適なルートを選定し、コスト削減と納期短縮を実現します。
■評価・モニタリング
サプライチェーンマネジメントでは、ボトルネックや改善点を特定し、迅速に対応するために、供給の効率や品質を定量的に測定します。デジタル技術を活用することでリアルタイムでのデータ収集と分析が実現でき、より精度の高いモニタリングが可能です。
4. サプライチェーンマネジメントに取り組むメリット
サプライチェーンマネジメントに取り組むメリットは以下の3つです。
- リードタイムを短縮できる
- 在庫を最適化できる
- 環境に配慮した調達ができる
それぞれのメリットについて詳しく解説します。
■リードタイムを短縮できる
サプライチェーンマネジメントに取り組む1つ目のメリットは、リードタイムを短縮できることです。
製造から配送までの各プロセスが効率化され、製品が消費者の手元に届くまでの時間を大幅に短縮できます。結果として、在庫コストを削減し、資金効率を向上させることが可能です。
さらに、顧客満足度の向上も期待できます。消費者は迅速な配送を求める傾向が強まっており、リードタイムの短縮は顧客の期待に応えるための重要な手段です。顧客が望むタイミングで商品を届けることができれば、顧客の信頼を獲得し、リピート購入につながる可能性が高まります。
■在庫を最適化できる
サプライチェーンマネジメントに取り組む2つ目のメリットは、在庫を最適化できることです。
適切な在庫管理は、供給と需要のバランスを保ち、過剰在庫や欠品を防ぐ役割を果たします。在庫データをリアルタイムで把握できるERPシステムを活用すれば、在庫の過不足を未然に防ぐことが可能です。
■環境に配慮した調達ができる
サプライチェーンマネジメントに取り組む3つ目のメリットは、環境に配慮した調達ができることです。
世界的な環境意識の高まりとともに、環境に配慮した調達方法がますます注目されています。具体的には、再生可能エネルギーの活用やエコロジカルな製品の選定、廃棄物の削減を通じて、環境に優しい調達が可能です。
持続可能な資源の利用を目指すことで、企業は環境負荷を軽減し、社会的責任を果たすことができます。こうした取り組みは消費者からの信頼を得るだけでなく、企業のブランド価値向上にも寄与します。
5. サプライチェーンマネジメントに取り組むデメリット
サプライチェーンマネジメントに取り組むデメリットは以下の3つです。
- 体制の整備に時間・工数がかかる
- 導入コストがかかる
- 運用が難しい
それぞれのデメリットについて詳しく解説します。
■体制の整備に時間・工数がかかる
サプライチェーンマネジメントに取り組む1つ目のデメリットは、体制の整備に時間・工数がかかることです。
情報システムの統合やデータの標準化といったサプライチェーンマネジメント体制の整備には、膨大な時間と労力が必要となります。効率的なサプライチェーンマネジメントを実施するためには最新技術やソフトウェアを導入しなければなりませんが、整備には多くの人的リソースを割かなければなりません。また、既存の業務プロセスを再設計する必要があり、全体的な業務効率の向上を図るためには社員のスキル向上やトレーニングも必要です。
■導入コストがかかる
サプライチェーンマネジメントに取り組む2つ目のデメリットは、導入コストがかかることです。
サプライチェーンマネジメント体制を構築するためには、初期投資としてソフトウェア・システムの導入、カスタマイズ、インテグレーションが必要です。導入費用は企業の規模や業種によって異なりますが、特に中小企業にとっては負担が大きくなることもあるでしょう。また、導入後もシステムの維持管理やアップデートに継続的なコストが発生します。ROI(投資利益率)を確保するためには、長期的な視点に基づいたサプライチェーンマネジメント導入が重要です。
■運用が難しい
サプライチェーンマネジメントに取り組む3つ目のデメリットは、運用が難しいことです。
サプライチェーンには多くのサプライヤーや物流業者が関与するため、情報の共有や調整が欠かせません。各部門間のコミュニケーションが不足していると、誤解や遅延を生むこともあります。サプライチェーンマネジメントシステムの導入には専門知識が必要で、システム管理やデータ分析のスキルが求められます。
6. サプライチェーンマネジメント(SCM)の企業事例
■花王株式会社
花王は、サプライチェーンマネジメントにおいて革新的な取り組みを行っている企業の一つです。同社は「消費が多様化され、短期間で変動する市場の需要に応じて、商品を速やかに滞りなく供給する仕組みを構築すること」を目的として、サプライチェーンマネジメントに取り組んでいます。
花王では、卸店を経由せず、受注から24時間以内に小売店へ商品を直接納品する体制が構築されています。在庫を需要に応じてコントロールすることで、サプライチェーン全体の在庫を最適化しているわけです。
参考資料:サプライチェーンマネジメント「花王」
■トヨタ自動車株式会社
「必要なものを、必要な時に、必要なだけつくる」というジャストインタイム方式を採用しているトヨタでは、サプライチェーンマネジメントツールの導入により、需要の予測や生産計画の最適化、在庫管理の最適化を実現しています。
参考資料:
~レジリア社との協業を通じて、お客さまのサプライチェーン強靭化に貢献~
■キリンビール株式会社
キリンビール株式会社は、予測精度の高いサプライチェーンシステム『洋酒SCMシステム』を開発・導入することで、業務の生産性向上を目指しています。
また、株式会社ブレインパッドと共同開発した「資材需給管理アプリ」を活用することで、需給業務におけるシステムの自動化範囲を従来より拡充、業務の効率化を図り、より安定的で持続可能な需給業務の実現を目指しています。
参考資料:
キリンビールとブレインパッドが、ICTを活用したSCMのDXを推進する「MJ(未来の需給をつくる)プロジェクト」を始動
7. まとめ
今回は、サプライチェーンマネジメント(SCM)について解説しました。
サプライチェーンマネジメントは、企業の効率化や競争力強化において重要な役割を果たします。適切にサプライチェーンマネジメントを実施することで、コスト削減や顧客満足度の向上が期待できるでしょう。
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