サプライチェーンにおけるレジリエンスとは?求められる要因と高める方法を解説

「サプライチェーンにおけるレジリエンスとは何か」「なぜサプライチェーンにレジリエンスが求められているのか」「どうすればレジリエンスを高めることができるのか」など、疑問に感じているのではないでしょうか?

 

本記事では、サプライチェーンにおけるレジリエンスの概要から求められる要因、高める方法について解説します。

1. サプライチェーンにおけるレジリエンスとは

サプライチェーンにおけるレジリエンスとは、サプライチェーン全体が運営上の危機に陥った際に、事業を継続できる状態へ迅速に修復できる能力(レジリエンス)です。

 

サプライチェーンにおいては、事業に関わる企業がなんらかの危機によって役割を担えなくなると、サプライチェーンに関わるすべての企業が事業を継続できなくなる恐れがあります。元の状態に戻るまでに時間がかかり過ぎると、被害が拡大してしまうかもしれません。

2024年の元旦に発生した能登半島地震では、東芝のグループ会社「加賀東芝エレクトロニクス」の半導体工場が操業を停止しましたが、2月上旬には被災前の生産能力に近いレベルへの復帰が完了しています。

 

サプライチェーン全体に与える被害を軽減し、事業を存続させるためには、それぞれの企業が事前にリスクを予測し、迅速に対応できる能力を持つことが重要です。

 

 

2. サプライチェーンにレジリエンスが求められる要因

サプライチェーンにレジリエンスが求められるようになった要因として、以下のようなものがあります。

  • 新型コロナウイルス感染症のパンデミック
  • サプライチェーン攻撃
  • 消費者行動の変化
  • 予測不能な社会情勢の変化

それぞれの要因について詳しく解説します。

 

■新型コロナウイルス感染症のパンデミック

新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより世界中の企業が危機的な状況に陥ったことから、サプライチェーンのレジリエンスが重視されるようになりました。

日本政策金融公庫総合研究所が実施した「中小企業景況調査」によれば、新型コロナウイルス感染症によるサプライチェーンへの影響に関して、2021年4月時点で45.8%の企業が「影響有り」と回答しています。


参考資料:新型コロナウイルス感染症がサプライチェーンにもたらす影響

 

■サプライチェーン攻撃

2022年にトヨタ自動車が受けたサプライチェーン攻撃では、国内の全14工場の操業が停止する被害が発生しました。

仕入先である小島プレスのシステムへの不正アクセスを起点とするサプライチェーン攻撃でしたが、小島プレスの迅速な対応により操業停止は1日に抑えられており、約1か月後にはシステムもほぼ復旧しています。

 

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■消費者行動の変化

消費者行動が変化したことも、サプライチェーンにレジリエンスが求められる要因のひとつです。

近年ではネットショッピングの利用者が急増しており、配送需要の増加に伴いドライバーが不足するなど、物流業界では「2024年問題」が大きな課題となっています。

サプライチェーン全体でドライバーの確保や物流体制の見直しなどを行い、配送能力の復旧ができなければ、過剰在庫や品切れが発生する恐れがあります。

 

■予測不能な社会情勢の変化

サプライチェーンにレジリエンスが求められる要因として、予測不能な社会情勢の変化も考えられます。

ロシアによるウクライナ侵攻では、石油や石炭、半導体などの価格が高騰し、さまざまな分野に対して大きな影響を与えました。

自動車業界や家電業界では、新型コロナ禍で需要が大きく増加したにもかかわらず、半導体不足によりメーカーが減産したり、故障に対応できなかったりする事態になっています。

 

 

3. サプライチェーンがレジリエンスを高める方法

サプライチェーンがレジリエンスを高める方法は以下の通りです。

  • 情報の可視化
  • 在庫の保持
  • 地産地消
  • セキュリティ対策
  • 取引先の多様化
  • 調達先の分散
  • 取引先・委託先のリスク管理

 

それぞれの方法について詳しく解説します。

 

■情報の可視化

サプライチェーンがレジリエンスを高める1つ目の方法は、情報の可視化です。

サプライチェーン全体に影響を与えるような危機に遭遇した際にサプライチェーン内の情報が分断されていると、それぞれの企業が正確な情報を把握できず、対応が遅れてしまう恐れがあります。

たとえば、システムのトラブルで製品の製造がストップした場合、営業担当者は在庫がどのくらい確保できているのか、いつごろ復旧する予定なのかを電話やメールで確認しなければいけません。

一方、サプライチェーン間で情報を共有できるシステムを導入していれば、必要な情報を瞬時に確認でき、迅速に対応することが可能です。

 

■在庫の保持

サプライチェーンがレジリエンスを高める2つ目の方法は、在庫の保持です。

本来であれば、原材料や製品の余分な在庫を持つことは利益を圧迫する要因となります。

一方、レジリエンスを高めるという観点では、原材料や製品の在庫を余分に抱えておくことで、危機的状況に陥った場合においても、一時的な欠品を回避したり、工場の操業停止を回避出来たりすることが可能です。

 

■地産地消

サプライチェーンがレジリエンスを高める3つ目の方法は、地産地消です。

サプライチェーンをグローバル化するのではなく調達から製造、物流、販売を日本国内で完結させることで、海外情勢が不安定になったり急激な円安が発生したりした場合においても、影響を最小限に抑えることができます。

 

■セキュリティ対策

サプライチェーンがレジリエンスを高める4つ目の方法は、セキュリティ対策です。

上場企業や大手企業ではしっかりとしたセキュリティ対策が実施されていますが、中小企業の中には対策が遅れている場合があります。機密情報や個人情報を持っていないため、サイバー攻撃のターゲットとはならないだろうと判断して対策に力を入れないケースもあるようです。

しかし、サプライチェーンにおいては、セキュリティ対策が取れていない中小企業の脆弱性に目を付け、サプライチェーン攻撃を仕掛けられる恐れがあります。

サプライチェーン全体でサイバー攻撃に対するセキュリティ対策への意識を高めることで、被害が発生する可能性を低下させ、被害が発生した場合においても迅速に対応できるようになります。

 

■取引先の多様化

サプライチェーンがレジリエンスを高める5つ目の方法は、取引先の多様化です。

製造や流通、販売などを特定の企業だけに依存していると、その企業が事業を継続できない状況に陥っただけで、サプライチェーン全体がストップすることになります。

取引先の製造工場が地震で操業を停止した場合でも、他の企業とも取引していれば一時的に生産数の増加を打診することで対応できるからです。

複数の取引先と取引するのは非効率だと考えるのではなく、リスクに対応するために必要なコストだと考える必要があります。

 

■調達先の分散

サプライチェーンがレジリエンスを高める6つ目の方法は、調達先の分散です。

前述した取引先の多様化と重複しますが、調達先を分散しておくことで、予測不能な社会情勢の変化が発生した場合においても迅速に対応することができます。

ロシアによるウクライナ侵攻では小麦の輸入が制限されて多くの企業が影響を受けましたが、特定の国や産地だけから調達するのではなく、複数の国や産地からも調達することが重要です。

 

■取引先・委託先のリスク管理

サプライチェーンがレジリエンスを高める7つ目の方法は、取引先・委託先のリスク管理です。

サプライチェーンの中で自社だけがレジリエンスを高めたとしても、取引先や委託先のレジリエンスに問題があれば、サプライチェーン全体としてはレジリエンスを高めたことにはなりません。

取引先・委託先のリスク管理を行うことで、自社及びサプライチェーン全体のレジリエンスを高めることができます。

 

 

5. まとめ

今回は、サプライチェーンにおけるレジリエンスの概要から求められる要因、高める方法について解説しました。

 

予測不能な社会情勢の変化やパンデミック、消費者行動の変化、サプライチェーン攻撃などにより、サプライチェーンのレジリエンスが重視されています。

サプライチェーン内の企業が危機に陥った際に、事業を継続できる状態へ迅速にできなければ、サプライチェーン全体へ被害が拡大するかもしれません。

本記事で解説したレジリエンスを高める方法を参考に、レジリエンス強化に取り組んでみましょう。

 

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