サプライチェーンにおけるセキュリティ強化の重要性と対策を解説

近年、ランサムウェアやDDoS攻撃、サプライチェーン攻撃など、様々な種類のサイバー攻撃が企業や組織に大きな被害をもたらしており、サプライチェーンにおいてもセキュリティ対策の重要性が増加しています。企業の信頼性を維持し、顧客情報や企業資産を保護するためには、サプライチェーン全体でセキュリティ対策を実施することが重要です。

 

本記事では、サプライチェーンにおけるセキュリティ強化の重要性と対策について解説します。

1. サプライチェーンにおけるセキュリティ強化の重要性

サプライチェーンは、多くの企業や組織が関与する複雑なネットワークです。このネットワークを通じてさまざまな情報や物資が移動するため、どこか一つの部分が脆弱であると、全体に影響を及ぼす可能性があります。サイバー攻撃者はサプライチェーンの弱点を狙い、情報漏えいやシステムの停止を引き起こすことがあるため、サプライチェーン全体でのセキュリティ強化が欠かせません。

サプライチェーンにおけるセキュリティ強化では、ソフトウェアの更新を行う際に信頼できるサプライヤーからのものであることを確認するプロセスの導入や、取引先のセキュリティ基準を定期的に評価し、必要に応じて改善を促すなどの対策が重要です。

 

サプライチェーンとは

サプライチェーンとは、原材料の調達から製品の製造、流通、販売に至るまで、製品やサービスが消費者に届くまでの一連の流れを指します。例えば、部品メーカーから完成車メーカー、ディーラーを経て消費者へと車が届けられる一連の流れが、自動車産業のサプライチェーンです。

サプライチェーンがスムーズに機能することで、企業は効率的に商品を市場に供給できるようになります。しかし、サプライチェーンには多くの企業や組織が関与しているため、どこかに脆弱性が生じる可能性がある点が課題です。

 

【関連記事】

サプライチェーンとは?具体例や課題、対策について解説

 

■現代におけるサプライチェーンの脅威

デジタル化が進む現代では、サプライチェーン全体が複雑化し、さまざまな脅威にさらされています。例えば、サプライチェーンにおける情報漏えいやサイバー攻撃は、企業の信用を失墜させるだけでなく、経済的な損失も引き起こします。

このような脅威が増加している背景には、サプライチェーンがグローバル化し、多くの企業が異なる地域や国のパートナーと協力していることが挙げられます。攻撃者がサプライチェーンのどこか一部を狙うことで、サプライチェーン全体が影響を受けるわけです。サプライチェーンの一部を担う企業がセキュリティ対策を怠っている場合、攻撃者にとって格好の標的となります。

さらに、サプライチェーンのデジタル化に伴い、サイバー攻撃の手法も高度化しています。マルウェアやフィッシング攻撃といった手口が巧妙化し、従来のセキュリティ対策では防ぎきれないケースも増えています。

このような状況に対応するためには、サプライチェーン全体のセキュリティを見直し、強化することが重要です。

 

 

2. サプライチェーンセキュリティの現状

■サプライチェーン攻撃の増加

サプライチェーンが複雑化する中で、攻撃者はサプライチェーンの脆弱性を突くサプライチェーン攻撃を巧妙に進化させています。特に、サプライチェーンの一部を構成するサードパーティ企業や下請け業者が狙われるケースが増えており、サプライチェーン全体のセキュリティが脅かされることが多くなっています。

サプライチェーン攻撃が増えているのは、サプライチェーンの各段階で多くの企業が関与しているため、1つの弱点がサプライチェーン全体のセキュリティを脆弱にする可能性があるからです。例えば、特定のソフトウェアやサービスを提供する企業が攻撃されると、その影響はその企業の顧客全体に広がる可能性があります。

このような状況を受け、企業は自社だけでなく、サプライチェーン全体のセキュリティを強化する必要があります。具体的には、サプライチェーンに関与するすべてのパートナーと協力することでセキュリティ基準を共有し、定期的な監査を実施することが重要です。こうした取り組みを通じて、サプライチェーン全体のセキュリティを底上げし、攻撃の増加に対抗することが求められています。

 

【関連記事】

サプライチェーン攻撃とは?主な手口や被害事例、対策を解説

 

代表的な攻撃の種類

サプライチェーンにおける代表的なサーバー攻撃の手法には、「ソフトウェアサプライチェーン攻撃」と「物理的サプライチェーン攻撃」の2種類があります。

ソフトウェアサプライチェーン攻撃は、ソフトウェア開発や更新の過程において悪意のあるコードが組み込まれる手法です。

ソフトウェア開発では、多くのサードパーティライブラリやモジュールが利用されます。これらのライブラリやモジュールが攻撃者によって改ざんされると、開発者が気づかないうちに悪意あるコードが組み込まれる可能性があります。この攻撃は一度成功すると広範囲に影響を及ぼすため、非常に危険です。

物理的サプライチェーン攻撃は、輸送中の製品に不正なチップが埋め込まれるといった、製品や部品が流通する過程で不正な改ざんが行われる手法です。この手法は、特にハードウェア製品に対して重要な脅威となっています。

物理的サプライチェーン攻撃が増加している背景には、製品のグローバル化やサプライチェーンの複雑化があります。多くの企業が複数の国をまたいで製品を製造・流通させているため、各段階でのセキュリティが脆弱な場合、攻撃の対象となりやすいわけです。

 

政府の取り組み

政府はサプライチェーンセキュリティの強化に向け、多角的な取り組みを進めています。2025年4月、経済産業省は、企業がサプライチェーンにおける脅威を評価し、適切な対策を講じるための指針として「サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度構築に向けた中間取りまとめ」を公表しました。

 

【参考】

「サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度構築に向けた中間取りまとめ」を公表しました

 

また、2025年7月には内閣サイバーセキュリティセンターが改組され、「国家サイバー統括室(NCO)」を新たに設置、サプライチェーン全体の安全性を確保するための情報共有と協力体制を強化しています。

 

【参考】

国家サイバー統括室

 

 

3. サプライチェーンセキュリティ強化のための取り組み

サプライチェーンセキュリティ強化のための主な取り組みは以下の5つです。

  • 方針の策定
  • セキュリティ対策の可視化
  • 定期的な評価の見直し
  • 業務委託契約書の見直し
  • セキュリティチェックシートの活用

それぞれの取り組みについて詳しく解説します。

 

方針の策定

サプライチェーンセキュリティ強化のための1つ目の取り組みは、方針の策定です。

方針の策定とは、サプライチェーン全体の安全性を確保するための基本的なルールやガイドラインを設定することを指します。サプライチェーンのどこかひとつでもセキュリティが甘いと全体の安全性が脅かされる可能性があるため、セキュリティポリシーを明確にし、取引先や供給業者に対しても同様の基準を求めることが重要です。

方針を策定する際には、初めにリスク評価を行い、どの部分が脅威にさらされているかを明確にします。そして、そのリスクに対してどのような対策が必要かを検討し、具体的な行動計画を立てます。

また、方針は一度策定したら終わりではなく、定期的に見直しを行うことが求められます。技術の進化や新たな脅威の出現に対応するためは、方針を適宜アップデートすることが重要です。

 

セキュリティ対策の可視化

サプライチェーンセキュリティ強化のための2つ目の取り組みは、セキュリティ対策の可視化です。

 

可視化とは、セキュリティ対策の状況を具体的に見える形にすることです。たとえば、サプライチェーン全体のセキュリティ状況を図や表で示すことにより、関係者全員が一目で理解できるようにします。セキュリティ対策の可視化により、どの部分が脆弱であるかを明確に把握し、適切な対策を講じることが可能です。また、セキュリティ対策の可視化は、社内外のコミュニケーションを円滑にし、全体としてのセキュリティ意識を高める効果も期待できます。さらに、可視化された情報をもとに定期的なレビューを行うことで、最新の脅威に対応したセキュリティ体制を維持できます。

 

定期的な評価の見直し

サプライチェーンセキュリティ強化のための3つ目の取り組みは、定期的な評価の見直しです。

セキュリティ対策は一度実施すれば完了というものではなく、常に変化する脅威に対応するために見直しと改善が求められます。なぜなら、サプライチェーンでは多くの企業や組織が関与しており、それぞれのセキュリティ状況が全体の安全性に大きく影響するからです。

定期的な評価の見直しを行うことで、現在のセキュリティ対策がどの程度有効であるかを確認できます。たとえば、サプライチェーンに関わる各企業がどのようなセキュリティポリシーを持ち、それが実際に守られているかをチェックすることが重要です。また、サプライチェーン全体での情報共有の仕組みが適切に機能しているかどうかも評価の対象となります。

このように、定期的な評価の見直しはサプライチェーン全体のセキュリティを高めるための基盤となる重要なプロセスであり、継続的な改善が不可欠です。

 

業務委託契約書の見直し

サプライチェーンセキュリティ強化のための4つ目の取り組みは、業務委託契約書の見直しです。

業務委託契約書には、セキュリティに関する具体的な条項を明記することが求められます。例えば、情報の取り扱いやデータ保護に関する基準を明確にし、違反時のペナルティを設定することが重要です。

業務委託契約書を作成する際には、セキュリティ対策の定期的な見直しや更新を求める条項を追加することも考慮しましょう。さらに、サプライチェーン全体のセキュリティ意識を高めるため、パートナー企業との間でセキュリティに関する情報共有の仕組みを構築することも有効です。

 

【関連記事】

業務委託契約書とは?記載する項目や作成時の注意点、収入印紙の必要性について解説

 

セキュリティチェックシートの活用

サプライチェーンセキュリティ強化のための5つ目の取り組みは、セキュリティチェックシートの活用です。

セキュリティチェックシートとは、自社のサプライチェーンにおけるセキュリティリスクを体系的に評価し、管理するためのツールを指します。チェックシートを使用することで、情報漏えいやサイバー攻撃のリスクを事前に特定し、適切な対策を講じることが可能です。

セキュリティチェックシートには、サプライチェーンに関わる企業に対する具体的な質問や評価項目が記載されています。セキュリティチェックシートへ回答してもらうことで、各企業のセキュリティ対策の状況を把握し、必要な改善策を講じることができます。

たとえば、「あなたの会社では従業員に対するセキュリティ教育を定期的に実施していますか?」といった質問を通じて、教育の実施状況を確認し、不足があれば改善を促すことができるわけです。

 

【関連記事】

セキュリティチェックシートとは?必要な理由や課題、記載する項目、回答してもらう負担を軽減する方法を解説

 

 

4. まとめ

今回は、サプライチェーンにおけるセキュリティ強化の重要性と対策について解説しました。

サプライチェーンセキュリティは、企業の資産や信頼性を守るために欠かせない要素です。

本記事で紹介したサプライチェーンセキュリティ強化のための取り組みを参考に、サプライチェーン全体を意識したセキュリティ対策に取り組んでみましょう

 

アトミテックでは、委託先リスク管理の手順をまとめた委託先リスク管理ガイドを公開しています。ぜひ自社の委託先管理の参考になさってください。