「バリューチェーンとは何か」「サプライチェーンと何が違うのか」と疑問に感じているのではないでしょうか?
本記事では、バリューチェーンの意味・定義やサプライチェーンとの違いについて詳しく解説します。
1. バリューチェーンとは
バリューチェーンとは、製品やサービスが顧客の手に届くまでのプロセスにおいて、どのくらい付加価値を付けられたのかを示す概念です。各プロセスにおける付加価値を最大化し、企業の競争力を高めることを目的として、バリューチェーンの考え方が利用されています。
■バリューチェーンの歴史
バリューチェーンという考え方は、アメリカ・ハーバード大学経営大学院教授のマイケル・ポーター氏が、著書「競争優位の戦略」の中で1985年に提唱しました。
マイケル・ポーター氏は、企業が価値を生み出す活動を「主活動」と「支援活動」に分け、それぞれがどのように連携して優位性を築くかを分析、企業が価値を生み出すための活動を一連のプロセスとして考えることの重要性を強調しています。
日本では、トヨタの「ジャストインタイム生産方式」の効率的な生産システムが競争力を高めたことから、バリューチェーンの考え方が製造業を中心に広まりました。
また、バリューチェーンの考え方は製造業だけでなく、サービス業にも広がりを見せています。たとえば、スターバックスはコーヒーの調達から店舗での提供までのプロセスを最適化し、品質の高いサービスを提供することに成功、顧客満足度の向上を実現しました。
■バリューチェーンとサプライチェーンの違い
バリューチェーンとサプライチェーンの違いは、製品やサービスが顧客の手に届くまでのプロセスのどこに焦点を当てて取り組むかです。
バリューチェーンは製品やサービスに付加価値を与えるプロセス全体を指し、企業内部の活動に重点を置いています。バリューチェーンは企業が競争優位を築くために不可欠な要素であり、付加価値を最大化することが目的です。
一方、サプライチェーンは、原材料の調達から製品の最終消費者への配送までを含むプロセスを管理します。外部パートナーとの連携を重視し、供給の安定性やコスト削減が目的です。
2. バリューチェーンの構成要素
バリューチェーンは、主活動と支援活動の2つで構成されます。
企業が競争優位性を高めるためには、それぞれの活動がどのように機能するかを理解することが重要です。
■主活動
バリューチェーンにおける主活動とは、製品やサービスが顧客の手に届くまでのプロセスに直接かかわる事業活動です。主活動には、入荷物流や製造、出荷物流、販売・マーケティング、サービスが含まれます。
例えば、日本の製造業においては、原材料の調達段階でのコスト削減や効率的なサプライチェーンの構築が競争力を左右します。製造段階では、最新技術を取り入れることで生産効率を向上させることが求められます。また、出荷物流では、迅速かつ正確な配送システムを確立することが重要です。
販売・マーケティングにおいては、日本特有の消費者ニーズに応えるために、ターゲット市場を明確にし、効果的なプロモーション戦略を展開することが求められます。さらに、サービス段階では、製品やサービスに対するアフターサポートを強化し、顧客との長期的な関係を築くことが重要です。
■支援活動
主活動を支えるのが支援活動です。
支援活動には、調達、人事管理、技術開発、インフラストラクチャーが含まれます。
例えば、人事管理では、優秀な人材を育成し、企業の成長を支えることが求められます。調達活動では、信頼性の高いサプライヤーとの関係を構築し、インフラストラクチャーでは、効率的な組織運営を支えるシステムを構築することが重要です。
3. バリューチェーン分析とは
バリューチェーン分析とは、企業の活動を細分化し、それぞれの活動がどのように価値を生み出しているかを評価する手法です。具体的には、バリューチェーン分析を通じて、企業は製造からマーケティング、販売、サービスに至るまでの各活動を評価します。
バリューチェーン分析を行うことで、企業は自社の活動がどの部分で価値を生み出しているかを明確に把握できます。これにより、非効率な部分を改善し、資源の最適化を図ることが可能です。また、競合他社と比較することで、自社の強みや弱みを浮き彫りにし、戦略的に優位に立つための手がかりを得ることができます。
■バリューチェーン分析の手順
バリューチェーン分析の手順は以下の通りです。
- 自社のバリューチェーンを洗い出す
- コストを把握する
- 自社の強み・弱みを分析する
- VRIO(ブリオ)分析を行う
- 経営資源を最適化する
4. バリューチェーン分析のメリット
バリューチェーン分析のメリットは以下の3つです。
- 自社の強み・弱みを明確化できる
- 競合他社の戦略が把握できる
- 経営資源を適切に再分配できる
それぞれのメリットについて解説します。
■自社の強み・弱みを明確化できる
バリューチェーン分析の1つ目のメリットは、自社の強み・弱みを明確化できることです。
バリューチェーン分析では、製品やサービスの企画、開発、製造、販売、アフターサービスなどの各段階で、どのような付加価値が生まれているのかを分析します。たとえば、日本の製造業では、高品質な製品を効率的に生産することが強みとされることが多いです。これに対して、物流の遅延やコストの高さが弱みとして浮き彫りになることがあります。
■競合他社の戦略が把握できる
バリューチェーン分析の2つ目のメリットは、競合他社の戦略が把握できることです。
自社に対して行ったバリューチェーン分析と同様に、競合他社のバリューチェーンを細かく分析することで、競合他社の強みや弱みを理解し、どのような戦略を採用しているのかを把握することができます。たとえば、競合がどの部分にリソースを集中しているかを知ることで、自社の戦略を再構築するヒントを得ることができ、効果的な戦略を立案することが可能です。
■経営資源を適切に再分配できる
バリューチェーン分析の3つ目のメリットは、経営資源を適切に再分配できることです。
バリューチェーン分析を行うことで、企業活動の付加価値を明確にし、経営資源を効率的に配分でき、競争力を向上させることができます。
例えば、製造業ではプロセスの見直しにより原材料の使用量を最適化し、物流では配送ルートの改善によって輸送費を削減することが可能です。さらに、情報技術を活用した自動化が人件費の抑制に繋がります。
5. バリューチェーンの企業事例
■伊藤園
伊藤園は、農家と直接契約を結ぶことで高品質な茶葉の調達を実現し、独自の製茶技術によって製品の差別化を図っています。また、流通過程においては効率的な物流システムを構築し、消費者への迅速な供給を可能にしています。
参考資料:伊藤園グループ調達方針「伊藤園」
■トヨタ
トヨタは、ジャストインタイム方式導入によって製品設計から販売までの各プロセスを最適化することで、効率的な生産体制を実現しています。無駄を徹底的に排除することで、品質の向上とコスト削減を可能にしているわけです。
また、2021年には深刻化する環境問題・人権問題への取り組みを中心に内容を見直し、サプライヤーと協力して持続可能な天然ゴム調達に向けた取り組みを進めることで、顧客満足度の向上を目指しています。
参考資料:バリューチェーン連携「トヨタ」
■スターバックス
スターバックスは、店舗での顧客体験を重視し、顧客のリピート率を高めています。
2018年には、デジタル領域においてもサードプレイス体験の向上に努め、デジタルオーダー、キャッシュレス支払い、ロイヤルティプログラム、パーソナライゼーションといった、独自の顧客体験を提供しています。
また、農園から直接コーヒー豆を購入し、高品質な豆を確保することで、他社との差別化を図っています
参考資料:スターバックス コーヒー ジャパン高成長を維持し、 顧客体験の価値向上のための戦略的な取り組みを発表
6. まとめ
今回は、バリューチェーンの意味・定義やサプライチェーンとの違いについて解説しました。
現在では、バリューチェーンは業種を問わず、企業の競争力強化に欠かせない要素となっています。企業が市場での競争優位を築くためには、バリューチェーンの各プロセスを見直し、改善を続けることが重要です。日本国内でも、多くの企業がこのフレームワークを活用し、効率的な運営と高い価値提供を目指しています。バリューチェーンは企業の成長戦略において、今後も重要な役割を果たし続けるでしょう。
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