委託先監査とは?必要な理由やチェックリストを解説

「委託先監査を行いたいけれど、何から始めればいいのか不安」「監査の効率化を図りたいけれど、どこに注意すればいいのか分からない」と感じている方も多いのではないでしょうか。

委託先監査は、企業のパートナーとしての信頼性を確認する重要なプロセスです。

 

本記事では、委託先監査が必要な理由やチェックリストについて解説します。

 

1. 委託先監査とは

委託先監査とは、企業が外部の業者やパートナーに業務を委託する際、その業務が適切に行われているかを確認するプロセスです。委託先が自社の基準や法令を遵守しているかを確認することで、リスクを最小限に抑えることができます。

 

監査を通じて委託先の業務プロセスや管理体制を評価し、問題があれば改善を促すことが重要です。内部監査や外部監査の対象は自社ですが、委託先監査では外部組織である委託先に対して監査を実施します。

 

■内部監査とは

内部監査は、企業や組織内部で行われる監査の一種です。業務の効率性や法令順守、リスク管理の状況を評価することで、組織の経営陣や取締役会に対して業務の適正性や改善の必要性を報告する役割を担っています。また、内部監査は業務の効率化やコスト削減のための改善提案を行うこともできるため、組織の成長に寄与する要素でもあります。

法令違反や不正行為が発生した際の影響は大きく、企業の信用を失う原因となることもあるため、内部監査はそのリスクを低減するための重要な手段といえます。内部監査を適切に行うことで、組織の課題を早期に発見し、改善策を講じることが可能です。内部監査は、外部監査とは異なり、組織内の独立した部門や専門の監査チームによって実施されるのが一般的です。

 

■外部監査とは

外部監査とは、自社の業務や財務状況を、公認会計士や監査法人などの外部の専門家に依頼して評価してもらうプロセスです。外部監査の目的は、自社の財務報告や業務運営が適正であるかを第三者の視点から確認することです。外部監査を受けることで客観的な視点からの評価を得ることができ、経営陣の意思決定に役立てることができます。

また、外部監査の結果を株主や取引先、金融機関などのステークホルダーに対して公表することで、外部からの信頼を得ることができ、長期的なビジネス関係の構築にも寄与します。

 

 

2. 委託先監査が必要な理由

委託先監査が必要な理由は以下の2つです。

  • 委託先に対する監督義務
  • 自社のリスク低減

それぞれの理由について詳しく解説します。

 

■委託先に対する監督義務

委託先監査が必要な1つ目の理由は、委託元企業には委託先に対する監督義務があるからです。

 

個人情報取扱事業者は、個人データの取扱いの全部又は一部を委託する場合は、その取扱いを委託された個人データの安全管理が図られるよう、委託を受けた者に対する必要かつ適切な監督を行わなければならない。

 

引用:個人情報保護法25条

 

個人情報を取り扱う企業には、契約を結んだ企業が個人情報を適切に管理するよう監督する義務があります。監督義務は個人情報を他社に委ねる際に避けては通れない責任であり、これを怠ると自社の信頼性が損なわれるかもしれません。

 

具体的には、委託先が契約内容を忠実に履行しているかを確認し、問題があれば迅速に対応することが求められます。監督義務を果たすためには、定期的な監査や評価を実施し、委託先の業務プロセスや成果物をチェックすることが重要です。

 

■自社のリスク低減

委託先監査が必要な2つ目の理由は、自社のリスクを低減できるからです。

委託先に業務を任せる際の品質やセキュリティの問題が発生すると、自社の評判や業績に大きな影響を及ぼす可能性があります。例えば、情報漏えいや納期遅延が発生すると、顧客の信頼を失うことになりかねません。

委託先監査を実施することで、委託先が適切に業務を遂行しているかを確認し、自社のリスクを低減することが可能です。また、委託先とのコミュニケーションを強化することで、誤解やトラブルを回避することができるでしょう。

 

 

3. 委託先監査の種類

委託先監査は、実施する方法と目的によって以下の4つに分類されます。

  • 書面監査
  • 実地監査
  • 定期監査
  • 臨時監査

それぞれの監査について詳しく解説します。

 

■書面監査

書面監査では、委託先が提供する書類や報告書を通じて、業務遂行の適正さや契約条件の遵守状況を確認します。書面監査は移動や宿泊などの経費が発生しないため、比較的低コストで実施することが可能です。

書面監査を効果的に行うためには、事前に明確な監査項目を設定し、委託先に必要な書類を準備させることが重要です。例えば、業務フローの詳細や品質管理に関する報告書、過去の不具合報告とその対応策などが考えられます。これらの情報をもとに、委託先が契約条件を遵守しているか、リスク管理が適切に行われているかを判断します。

 

■実地監査

実地監査では、委託先の現地に直接足を運び、書面だけでは見えにくい実際の業務の実施状況や管理体制を直接確認します。また、現地での観察や従業員へのインタビューを通じて、委託先とのコミュニケーションを深め、信頼関係を築くことも可能です。

 

■定期監査

定期監査とは、委託先の業務が契約通りに遂行されているかを定期的に確認することです。

委託先の業務品質やコンプライアンス状況を把握することで、問題があれば早期に是正することができます。

 

■臨時監査

臨時監査とは、通常の監査とは異なり、特定の問題やリスクが発生した際に即座に実施される監査です。例えば、委託先で情報漏えいの疑いが生じた場合や、契約違反が疑われる場合に行われます。臨時監査の主な目的は、迅速に状況を把握し、問題の原因を特定することにあります。これにより、早急な対応策を講じることが可能となり、自社のリスクを最小限に抑えることができます。

 

 

4. 委託先監査のチェックリスト

委託先監査のチェックリストは以下の通りです。

  • 情報セキュリティ管理体制
  • 個人情報保護方針の策定及び周知状況
  • BCPの策定状況

それぞれの項目について詳しく解説します。

 

■情報セキュリティ管理体制

情報セキュリティ管理体制の目的は、機密情報や個人データを適切に保護することにあります。情報漏えいや不正アクセスは企業の信用を大きく損ない、法的責任を問われる可能性もあるため、しっかりとした管理ができているかをチェックすることが重要です。

委託先監査では、委託先が情報セキュリティポリシーを策定しているかどうかを確認します。情報セキュリティポリシーでは、情報の取り扱いに関する基本的な方針を示し、全従業員に周知されていることが重要です。次に、情報のアクセス権限が適切に管理されているか確認します。

さらに、情報セキュリティ教育の実施状況も重要なチェックポイントです。従業員が情報セキュリティの重要性を理解し、適切に行動できるよう、定期的な教育が求められます。また、情報漏えいが発生した際の対応手順が明確に定められているかも重要です。

 

■個人情報保護方針の策定及び周知状況

個人情報を取り扱う企業は、法令に基づき適切な保護方針を策定し、それを社員や関係者に周知徹底する義務があります。

個人情報保護方針の策定では、情報収集の目的や利用範囲、管理方法、第三者提供の有無などを明記し、企業の経営方針や事業内容に応じて具体的かつ明確に定めることが必要です。

また、策定した方針を社内外に周知することも欠かせません。具体的には、社員教育や研修を通じて方針の内容を理解させ、日常業務において適切に実行できるようにする必要があります。

上記のように、個人情報保護方針の策定ができているか、社内外に周知できているかをチェックするようにしましょう。

 

■BCPの策定状況

BCPとは「事業継続計画」の略で、災害や事故などの緊急事態が発生した際に、事業を継続または早期に復旧するための計画を指します。委託先がBCPを策定しているかどうかを確認することで、非常事態におけるリスクを軽減し、安定した業務の継続を確保することができます。

BCPの策定状況を確認する際には、計画が文書化されているかどうかをチェックしましょう。文書化されていない場合、計画の実効性が疑われるため、具体的な手順や責任者が明確に記載されているかを確認することが重要です。また、BCPが定期的に見直され、最新の情報に基づいて更新されているか、訓練やシミュレーションが行われているかどうかも、計画の有効性を判断するための指標となります。

さらに、委託先のBCPが自社のBCPと整合性が取れているかも確認が必要です。委託先が自社の業務にどのように影響を与えるかを考慮し、必要に応じて連携を図りましょう。

 

【関連記事】

BCP(事業継続計画)とは?策定する目的やメリット、策定方法を解説

 

 

5. 委託先監査の注意点

委託先監査の注意点は以下の3つです。

  • 委託先との契約で監査権を含む条項を盛り込んでおく
  • 業種・業態に応じてチェックする項目を調整する
  • 定期的にチェックリストを見直す

それぞれの注意点について解説します。

 

■委託先との契約で監査権を含む条項を盛り込んでおく

委託先監査の1つ目の注意点は、委託先との契約で監査権を含む条項を盛り込んでおくことです。業務委託契約書に監査権を明記することで、委託先がどのように業務を行っているかを定期的に確認する権利を得ることができます。

監査権を契約に盛り込む際には、具体的な監査の範囲や頻度、方法についても明記することが重要です。

 

【関連記事】

業務委託契約書とは?記載する項目や作成時の注意点、収入印紙の必要性について解説

 

■業種・業態に応じてチェックする項目を調整する

委託先監査の2つ目の注意点は、業種・業態に応じてチェックする項目を調整することです。

業種や業態によってリスクや管理すべきポイントが異なるため、画一的なチェックリストでは十分な監査ができない場合があります。例えば、情報技術を扱う企業と製造業では情報セキュリティの重要性や規制内容が大きく異なるため、情報技術企業ではデータ保護が最優され、製造業では品質管理が重視されるわけです。

具体的には、自社の業種・業態を理解し、それに関連する法律や規制を確認します。例えば、医療業界では個人情報保護法に基づく患者データの取り扱いが厳格に監査されるべきです。一方、物流業界では輸送の安全性や効率性が重要なチェックポイントとなります。

 

■定期的にチェックリストを見直す

委託先監査の3つ目の注意点は、定期的にチェックリストを見直すことです。

ビジネス環境や法令、技術の進化によりリスクや必要な監査項目が変化するため、チェックリストの定期的な見直しにより、最新の状況に適した監査を行う必要があります。

チェックリストの見直しには、現在の業界標準や法令の変化を確認することが重要です。例えば、個人情報保護法の改正や新しい規制が導入された場合、それに対応した項目を追加する必要があります。また、委託先の業務内容や契約条件が変わった場合も、チェックリストを見直すタイミングです。

実際の監査で得られたフィードバックをもとに、実効性のある項目を追加したり不要な項目を削除したりすることで、監査の質を高め、効率よく実施することができます。

 

 

6. まとめ

今回は、委託先監査が必要な理由やチェックリストについて解説しました。

委託先監査は、業務を委託する企業の信頼性を確認するために欠かせないプロセスです。適切な監査を行うことで、リスクを未然に防ぎ、業務の透明性を高めることができます。

本記事で解説したチェックリストを参考に、監査の質を向上させてみましょう。

 

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