企業が予期しない災害やトラブルの被害を最小限に抑え、できるだけ早期に事業を再開するためには、普段から計画的に業務継続について準備をしておくことが重要です。
本記事では、BCP対策の意味・定義からBCM・リスクマネジメントとの違い、実施する手順について解説します。
1. BCP対策とは
BCP対策とは、企業が予期しない災害やトラブルの被害を最小限に抑え、できるだけ早期に事業を再開するために、普段から計画的に業務継続について準備をしておくことです。
BCP対策が求められる背景には、自然災害の頻発やサイバー攻撃の増加、パンデミックなどのリスクが多様化していることがあります。例えば、東日本大震災や新型コロナウイルス感染症の影響を受けた企業の中には、事前にBCP対策を講じていたことで迅速に事業を再開できたケースがあります。
リスクに対して事前に準備を整えておくことで、被害を最小限にし、ビジネスの信頼性を維持することができるわけです。
具体的には、BCPの策定から従業員への周知徹底、定期的なBCPの見直しまでがBCP対策となります。
BCPを策定しただけで、予期せぬ事態のすべてに対応できるわけではありません。策定したBCPを従業員が正しく理解できていなければ、計画倒れとなってしまう恐れもあります。
被害を最小限に抑え、できるだけ早期に事業を再開するためには、BCPの策定にとどまらず、従業員への周知徹底や定期的なBCPの見直しを含めた、包括的なBCP対策が重要となります。
■BCPとは
BCPとは、企業が災害や事故などの緊急事態に直面した際に、事業を継続または早期に復旧させることを目的として策定する計画です。事業継続計画を意味するBusiness Continuity Planの頭文字を取って、BCPと呼ばれています。
大地震等の自然災害、感染症のまん延、テロ等の事件、大事故、サプライチェーン(供給網)の途絶、突発的な経営環境の変化など不測の事態が発生しても、重要な事業を中断させない、または中断しても可能な限り短い期間で復旧させるための方針、体制、手順等を示した計画のことを事業継続計画(Business Continuity Plan、BCP)と呼ぶ。 |
「BCP」という表現は、BCPの策定から従業員への研修の実施、訓練(シミュレーション)の実施までを含めた、「BCP対策」の意味で用いられることもあります(広義のBCP)。
本来、BCP(狭義のBCP)は企業が策定するものであり、BCPつまり事業継続計画に対して対策を行うわけではありません。BCPの策定を含めた事業継続に向けた対策を行うことから、BCP対策と表現されています。
■BCP(事業継続計画)とBCM(事業継続マネジメント)との違い
BCP(事業継続計画)とBCM(事業継続マネジメント)は企業の危機管理において重要な役割を果たしますが、施策の範囲が異なります。
BCPは、災害や障害が発生した際に事業を継続するための具体的な計画を指します。一方、BCMは策定したBCMに基づいて、事業継続・復旧に向けた取り組みを包括的に行います。BCPは計画書としての側面が強いのに対し、BCMは組織全体の取り組みとしての側面が強いわけです。
BCPを広義にとらえ、BCM(事業継続マネジメント)やBCP対策と同じ意味で使用するケースもあります。
■リスクマネジメントとの違い
BCP対策とリスクマネジメントはどちらも企業の安全性を確保するための手法ですが、目的とアプローチが異なります。
BCP対策の目的は、災害や事故などの緊急事態においても事業を継続できるようにすることです。一方、リスクマネジメントは、予測可能なリスクを特定し、それらを未然に防ぐための措置を講じることに焦点を当てています。
BCP対策はリスク発生後の対応に重点を置くのに対し、リスクマネジメントはリスク発生前の予防に力を入れるわけです。
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■防災との違い
BCP対策と防災の違いは、目的と対象範囲です。
防災は自然災害や事故から人命を守ることを主な目的としており、地震や台風などの災害による被害を最小限に抑えるための事前準備や避難計画が中心です。
一方、BCP対策はビジネスの継続性を確保することを目的とし、災害や突発的な事態が発生した際にも、企業の中核業務を迅速に再開し、維持するための計画を策定します。
2. BCP対策の手順
BCP対策の手順は以下の通りです。
- BCPの策定
- 従業員への教育と訓練
- BCPの定期的な見直しと改善
それぞれの手順について解説します。
■BCPの策定
BCPの策定は、企業が予期しない災害やトラブルの被害を最小限に抑え、できるだけ早期に事業を再開するための重要なプロセスです。
策定したBCPに基づいて従業員が行動することで、対策を計画通りに進めることができ、迅速に事業を再開することができます。
BCPを策定する手順は以下の通りです。
- 基本方針を設定する
- 優先する業務を洗い出す
- リスクを洗い出す
- 優先して対応するリスクを決める
- 具体的な対策を盛り込んだ計画書を作成する
■従業員への教育と訓練
予期しない災害やトラブルが発生した際には、策定したBCPを正しく理解し、適切に行動することが求められます。企業としてBCPを策定していても、従業員がBCPの基本方針や具体的な手順を把握していなければ意味がありません。
実際にリスクが発生する前に従業員へBCPの教育を行い、適切な対応ができる状態にしておくことが重要です。また、定期的な訓練を通じて従業員の対応力を養っておくと、緊急時に迅速かつ効果的な対応ができるようになります。
■BCPの定期的な見直しと改善
BCP対策の効果を最大限に引き出すためには、定期的な見直しと改善が不可欠です。最新のリスク情報を収集し、変化する環境に対応するために計画を更新する必要があります。
日本国内では自然災害やサイバー攻撃などのリスクが増大しており、BCPを見直す頻度は年に一度以上が推奨されています。
3. BCP対策の実施における課題
内閣府が実施したアンケートによると、BCP対策の課題として、「策定に必要なノウハウ・スキルがない」、「策定する人手を確保できない」が上位を占めています。
参考資料:事業継続計画策定に係る課題等の状況「内閣府防災情報」
中小企業がBCP対策を実施する場合、人材・ノウハウの不足が大きな課題となります。専任の担当者がいないため、計画の策定や運用が遅れがちです。
BCPの重要性を理解しても、日常業務に追われてしまい、計画の見直しや訓練が後回しになることもあります。技術的な制約やコスト面の問題もあるため、最新のツールやシステムを導入することが難しいこともあるでしょう。
令和6年1月に内閣府が実施した調査によると、大企業の76.4%、中堅企業の45.5%がBCPを策定しているのに対し、BCPを策定している中小企業の割合は15.3%にとどまっています。
参考資料:
4. 業界別のBCP対策事例
■製造業
製造業におけるBCP対策は、持続可能なサプライチェーンの構築と言う観点から、以下のような取り組みが行われています。
- 代替生産ラインの確保
- 在庫管理の見直し
- 従業員に対する定期的な訓練
- 施設の耐震・防水対策
製造業においては、主要な製造拠点が被災した場合でも、別の拠点で生産を続けられるように準備しておくことが求められます。代替生産ラインの確保に伴い、在庫管理の見直しも重要です。適切な在庫量を維持することで、供給停止の影響を最小限に抑えることができます。
さらに、従業員に対する定期的な訓練は、従業員が災害時に迅速かつ的確に行動できるようにするために欠かせません。また、地震や洪水、豪雨による被害を防ぐために、施設の耐震・防水対策が重要視されています。
【関連記事】サプライチェーンにおけるBCP対策とは?重要な理由と事例を解説
■IT業
IT業界におけるBCP対策の中心となるのがデータのバックアップ・保管です。
自社で扱うデータを定期的に遠隔地のデータセンターでバックアップ・保管することで、災害やシステム障害が発生した際にも迅速にデータ復旧することができます。データセンターを複数の場所に分散させれば、一箇所に障害が発生しても他のセンターでデータを保護し続けることができます。
また、リモートワークの普及に伴い、IT業界では外部からの不正アクセスを防ぎ、企業の情報資産を守るセキュリティ対策も重視されています。従業員がどこからでも安全に業務を行えるよう、VPN(仮想プライベートネットワーク)や多要素認証の導入が進んでいます。
■介護・福祉業
介護・福祉業界の具体的なBCP対策としては、避難経路の確保が挙げられます。施設内のすべての利用者が迅速かつ安全に避難できるよう、事前に避難ルートを設定し、定期的に見直すことが重要です。
次に、停電時にも必要な医療機器や照明を継続して使用できるよう、発電機やバッテリーなどの非常用電源を準備することが求められます。
緊急時の連絡体制の構築も、介護・福祉業界のBCP対策に欠かせません。災害時には迅速な情報共有が不可欠であり、従業員間の連絡手段や、利用者の家族への情報伝達手段を整備することが求められます。
5. BCP対策の企業事例
■セブン‐イレブン
セブン‐イレブン・ジャパンは2021年3月に「大規模災害に対する事業継続基本計画(BCP)」を大幅に改定。
「基本計画」に加え、「大規模風水害」「首都直下地震」「南海トラフ地震」「新型インフルエンザ等感染症」の4つの事態別計画を策定し、様々な災害への対応能力の向上を図っています。
また、店舗向けには「災害対応マニュアル」、本部経営指導員向けには「緊急時の行動基準」、全社員向けには「ポケット版災害ガイド」を作成し、BCPで定めた計画の実効性を高めています。
参考資料:コーポレートガバナンス|セブン‐イレブン
■清水建設
清水建設では、必要な防災対策内容をSNSで即座に通知する「ピンポイント・タイムライン」を導入し、「情報の収集」「意思決定・実行」「情報共有・意思疎通」の3つの機能を一元管理することで、風水害に備えています。
また、従来の火災報知器よりも早期に火災を検知できる「早期火災検知システム」を導入することで、天井の高い建物内での万一の火災であっても小さな炎や煙を検知し、初期消火を目指しています。
参考資料:BCP/情報ソリューション/シミズのエンジニアリング
■ヤマトグループ
ヤマトグループでは、「人命を最優先する」「グループ各社の事業の早期復旧を目指す」「社会的インフラとして地域社会からの期待に応える」の3つを基本方針としたBCPを策定、グループ全体での危機管理体制の強化を図っています。
グループ各社にBCP担当部門と責任者を定め、緊急事態発生時にはグループ各社の担当部門と逐次連携を行い、迅速な業務復旧と被災地支援を実施しています。
また、2020年からは安否・被災状況確認システムを導入し、初動の安否確認と発災時の被災状況の報告訓練を定期的に実施しています。
参考資料:ガバナンス・コンプライアンス「ヤマトホールディングス株式会社」
6. まとめ
今回は、BCP対策の概要やBCM・リスクマネジメントとの違い、実施する手順について解説しました。
BCP対策とは、単なるBCP策定だけでなく、従業員への周知徹底や定期的なBCPの見直しを含めた、予期しない災害やトラブルへの対策です。
本記事で紹介した業界別のBCP対策事例やBCP対策の企業事例を参考に、早期に事業を再開できる準備をしておきましょう。
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