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もともとは法令などを遵守することを意味する用語だった「コンプライアンス」も、最近はもう法令などに限らず、社会からの要請や期待などを満足することまで広く含むものであるという認識が、すっかり定着しているように思います。このようにコンプライアンスの概念が広まっていくにつれて、コンプライアンスに対する社会からの要請や期待のレベルも、ますます高くなってきています。
一方、取引先やサプライチェーンも含めたコンプライアンスが、ますます厄介な問題になってきたとお感じの方々も多いのではないでしょうか。サプライヤーや業務委託先でコンプライアンス違反が発覚すると、通常通りに事業活動を継続できなくなるばかりか、取引関係によっては発注元まで責任を問われかねません。今回はそのような、サプライヤーや業務委託先におけるコンプライアンス違反の事例をいくつかご紹介します。
事例1. サプライヤーによる電子部品の品質不正
大手電子部品メーカー A 社は 2024 年 1 月、自動車、家電、スマートフォンなど幅広い製品に使われる材料について、米国の第三者安全科学機関による認証取得に際して不正を行っていたことを公表しました。認証取得時と異なる配合での生産・販売、認証登録に関するデータ改ざん、認証取得後の定期監査に対する不正サンプル提出といった行為が 5000 品目以上に対して行われ、関係する取引先が約 4000 社におよぶ大規模な不正であることが分かりました。
最も古い不正は 1980 年代にまで遡り、40 年以上にわたって隠蔽されてきたことも判明しており、社長自身が 2022 年の時点で一部の不正を把握しながら、親会社に報告しなかったことも外部調査で明らかになっています。なお、この不正が発覚したきっかけは、ある顧客が性能評価を実施したところ、要求仕様を満たさなかったことでした。このように自ら品質検査を行う企業が現れなければ、さらに長期に渡ってこれらの不正が表面化しなかった可能性がありましたし、逆に考えれば長期にわたって、自ら品質検査を行うような顧客がいなかったということかも知れません。
この問題で悪影響を受けた企業については、具体的な数や事例が公表されていないため推測となりますが、A 社から調達していた企業の多さと、その多くが認証取得を前提として調達したと考えられることから、相当数の企業が自社製品の安全性を個別に検証したり、調達先を他社に切り替えたりするなどの対応に迫られたと思われます。
事例2. デジタル広告サービスで広告不正
2016 年 9 月、大手広告代理店 B 社がデジタル広告サービスにおいて不適切な行為があったことを公表しました。これはインターネット上のバナー広告や動画広告などについて、掲載された実績と異なる虚偽報告に基づいて広告料が過大に請求されたもので、翌年 1 月に発表された最終報告によると、不正に請求された金額の合計は 1 億円以上、クライアント数は 100 社近くで、うち 10 社に関しては広告が全く掲載されなかったにもかかわらず、合計 300 万円以上が請求されたといいます
雑誌やテレビ CM などに比べて、ネット広告は実際にどのくらい掲載されているのかを確認するのが難しいため、広告主としては広告代理店からのレポートを信じるしかない、というのが実態なのではないでしょうか。このような情報の非対称性から、広告代理店側としても不正がバレる可能性は低いと思ってしまったのかもしれません。
この不正が明らかになったきっかけは大手クライアントからの指摘でした。本来は広告が掲載されているはずの期間に、広告の効果が一向に上がらなかったことから、広告が掲載されていないのではないかと指摘されたため、これを契機に社内調査を始めたということです。広告による効果がある程度予測できる大手企業でなければ、このような問題には気づけなかったでしょう。
これら2つの事例には共通点が 2 つあります。1 つめは、いずれも有名大手企業による違反行為だということです。大手企業に対して漠然とした安心感を抱く方も多いと思いますが、相手が大手企業だからという理由だけで無条件に信頼せず、しっかりリスクマネジメントの対象にしなければならないと考えるべきでしょう。
2 つめは、いずれも委託元が意図的に調査した結果ではなく、偶然気付いたことがきっかけで不正が発覚していることです。つまりバレなければもっと続いていた可能性が高く、委託元が相手先のコンプライアンス違反の有無を把握することの難しさを思い知らされる事例だと言えるでしょう。
次に、これらとは違った観点の事例を紹介させていただきます。海外のサプライヤーにおけるコンプライアンス違反の事例です。
事例3. 児童労働で採掘されたコバルトを使用
人権擁護 NGO のアムネスティ・インターナショナルは、コンゴ民主共和国のコバルト鉱山における児童労働の実態に関する報告書を 2016 年に公表しました。コバルトはリチウムイオンバッテリーに欠かせない材料ですが、当時の世界のコバルト産出量の半分以上をコンゴ民主共和国が占めています(現在は 7 割以上)。この報告書によると、児童労働で採掘されたコバルトを扱う採掘業者の取引先を調査したところ、間接的ではあるものの、日本のメーカーを含む世界のスマートフォンメーカーや自動車メーカー各社が、この業者が扱うコバルトを使った部品を購入していることが明らかになりました。
この報告書で名指しされた各社はそれぞれ、自社のポリシーとして児童労働からの調達を禁じていることや、人権問題への取り組みなどをアピールしましたが、アムネスティ・インターナショナルが各社に問合せたところ、各社が扱っている製品に使われているコバルトの出自を証明できる企業はなかったといいます。
類似の事例としては次のようなものがありますが、いずれも NGO の調査で明らかになった後、国際的に報道され、各社のレピュテーション低下を招いたほか、不買運動などに発展したケースもありました。
- インドネシアで強制労働や環境破壊を続けている農園からアブラヤシ(パーム油の原料)を調達していた日用品メーカーや食品メーカー
- 中国の新疆ウイグル自治区においてウイグル族の強制労働に関与しているサプライヤーとの取引が指摘されたアパレル大手
- 条約で製造や使用が禁止されているクラスター爆弾を製造している企業に対して投融資していた多数の金融機関(日系を含む)
これらは相手先が海外ということもあって、さらに把握が難しいかも知れませんが、もしこのような違反行為が発覚した場合は批判を免れることはできないでしょう。しかし、もし外部から指摘された場合でも、迅速に対処することでレピュテーションへの悪影響を減らせる可能性はあります。
例えば前述のクラスター爆弾の事例では、2017 年の報告書に掲載されていた日系金融機関の多くは、その後これらに該当する投融資を減らし、2018 年の報告書ではそのような動きがポジティブに評価されました。これは NGO の調査力を利用して軌道修正できたものと考えられます。
サプライチェーンにおけるこのようなリスクは把握が難しいですし、簡単に解決できるソリューションは無いかもしれません。しかしながら、様々な方向にアンテナを張り、分かったところから地道に状況を改善していくという努力を続けることが、社会からも期待されているのではないでしょうか。


- 執筆者
- 田代 邦幸 合同会社OfficeSRC代表/リスクマネジメントコンサルタント
- プロフィール
- 自動車メーカー、半導体製造装置メーカー勤務を経て、2005 年より複数のコンサルティングファームにて、事業継続マネジメント(BCM)や災害対策などに関するコンサルティングに従事した後、独立して 2020 年に合同会社 Office SRC を設立。
- SNS
- X(Twitter):@ktashiro_src
LinkedIn:https://www.linkedin.com/in/ktashiroSRC
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