与信調査とは何?信用調査との違いから必要性、確認するポイント、方法、失礼にあたるのかまで詳しく解説

取引先へ先に商品やサービスを提供し代金を後で請求する与信取引においては、取引先に対して事前に与信調査を行うことが重要です。売掛金を回収できずに資金繰りが悪化し、黒字倒産や連鎖倒産に陥らないようにするために、与信調査を実施します。

 

本記事では、与信調査の概要から信用調査との違い、必要性、確認するポイント、方法、失礼にあたるのかまで詳しく解説します。

 

1. 与信調査とは

与信調査とは、法人や個人事業主など、自社が与信取引(掛け取引)を行う取引先に支払い能力があるのかを調査することです。

与信取引では取引先を信用して代金を受け取る前に商品やサービスを提供するため、取引先に支払い能力があるかどうか、期日までに代金を入金してもらえる取引先なのかは与信取引を行う上で重要な確認事項となります。

 

■信用調査との違い

与信調査と信用調査の違いは、与信取引における取引先の支払い能力に焦点を当てた調査なのかです。

信用調査では、取引先の財務状況や経営状況、保有資産、取引履歴、コンプライアンス、ガバナンスなどから、取引を行う上での信用性や信頼性を総合的に調査します。

 

一方、与信調査で調査するのは、取引先に支払い能力があるかどうかです。与信管理の一環として実施されます。

いずれも取引先と安全に取引を行うために実施する調査であり、与信調査と信用調査は同時に行われることが多いため、与信調査と信用調査を同じ意味として使用するケースもあります。

本記事では、与信調査と信用調査は同じ調査として解説します。

 

■与信調査が必要な理由

与信調査が必要な理由は、取引先に十分な支払い能力がなければ、取引先から支払期日までに代金を回収できなくなる恐れがあるからです。

取引先と与信取引を行う場合、代金を受け取る前に商品やサービスを取引先へ提供します。取引先からは後日代金を受け取ることになりますが、支払期日までに取引先から代金が振り込まれなければ、自社の資金繰りが悪化する恐れがあります。手元資金が不足することで、黒字倒産や連鎖倒産になってしまうかもしれません。

上記のような与信取引における代金未回収リスクを軽減するために、取引先に対して与信調査を行うわけです。

 

 

2. 与信調査で確認するポイント

与信調査で確認するポイントは以下の3つです。

  • 財務情報
  • コンプライアンスへの取り組み
  • 反社会的勢力との関わり

それぞれのポイントについて詳しく解説します。

 

■財務情報

与信調査で確認する1つ目のポイントは、取引先の財務情報です。

取引先の貸借対照表や損益計算書、キャッシュフロー計算書などの財務諸表から売上高や利益の推移、保有資産・負債、資本金といった数値で表すことができる定量情報を確認することで、取引先に支払い能力があるのかを判断します。与信管理で与信限度額を設定する際においても、取引先の財務情報は、重要な指標です。

 

■コンプライアンスへの取り組み

与信調査で確認する2つ目のポイントは、取引先のコンプライアンスへの取り組みです。

支払い能力がある取引先だったとしても、横領や架空取引といった従業員の不正行為、粉飾決算や背任、リコール隠しなどの経営側の不正行為が発覚すれば、突然経営不振に陥り代金を回収できなくなる恐れがあります。

 

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■反社会的勢力との関わり

与信調査で確認する3つ目のポイントは、取引先の反社会的勢力との関わりです。

反社会的勢力と取引を行った場合、暴力団排除条例に基づき、勧告や公表、防止命令、罰則といった措置を受ける恐れがあります。

また、暴力団排除条項も設けている取引先から契約を解除されたり、金融機関から融資を受けられなくなったりするかもしれません。

反社会的勢力との関わりは自社の信用力や企業イメージ・ブランドが低下するレピュテーションリスクとなるため、取引を開始する前に確認しておくことが重要です。

 

 

3. 与信調査の方法

与信調査を行う方法は以下の4つです。

  • 内部調査
  • 外部調査
  • 直接調査
  • 依頼調査

それぞれの調査方法について詳しく解説します。

 

■内部調査

内部調査とは、商談を行った営業担当や入金時にやり取りした経理担当など、社内のスタッフから意見を聞く調査方法です。

 

内部調査から得られる主な情報

経理担当

  • 支払期日までに入金されているか
  • 支払期日を超えた入金はあったか
  • 実際に入金された回数はどのくらいか

営業担当

  • 従業員の仕事ぶりや対応、退職者の動き
  • 事務所や工場に設置している設備の状態
  • 在庫管理状況

 

自社スタッフに話を聞くだけなのでコストが発生せず、すぐに情報を得ることができ、第三者が介入しない正確な情報を得ることが可能です。

一方、自社スタッフが接触した範囲に限定した情報しか入手できず、スタッフの主観に影響されるデメリットがあります。

 

■外部調査

外部調査とは、公的機関やWeb検索サービスを活用し、自社及び取引先以外の外部から情報を得る調査方法です。

 

情報の入手先と得られる情報

法務局や公的サービス

商業登記簿

不動産登記簿

取引先のWebサイト

決算情報

IR情報

 

商業登記簿からは商号や本店所在地の変更履歴を確認でき、不動産登記簿からは不動産の所有者や設定されている担保権の内容、差押の有無などを確認することができます。

Web検索サービスからは取引先のWebサイトから決算情報やIR情報などの公開された情報だけでなく、利用者の口コミや評判、法令違反、コンプライアンス違反といったネガティブな情報を得ることも可能です。

外部調査で入手した情報が正しいかを確認するために、取引先と取引がある企業や金融機関、オフィスビルのオーナー、近隣住民などから情報を収集する側面調査を行うこともあります。

 

■直接調査

直接調査とは、担当者と会って話を聞く、アンケートに答えてもらうといった、取引先から直接得た情報から分析する調査方法です。

自社が知りたい情報を直接得ることができる一方、与信調査を行っていることを取引先に知られてしまったり、取引先の心証が悪くなったりするデメリットがあります。

 

■依頼調査

依頼調査とは、帝国データバンクや東京商工リサーチといった信用調査を専門とする会社へ依頼することで取得した情報から分析する調査方法です。

信用調査のプロが調査を行うため入手できる情報の精度が高く、取引先の信用性を客観的に判断できます。

自社が行う調査では得られにくい情報まで入手できる一方、調査に時間とコストがかかる点がデメリットです。

 

 

4. 与信調査は失礼にあたるのか?

基本的に与信調査を行うのは企業として当たり前の行為であり、失礼にあたるわけではありません。取引先自身も取引先に対して与信調査を行うこともあるでしょうし、与信調査によって取引ができるなら喜んで協力する取引先もあるかもしれません。

一方、与信調査のやり方によっては、取引先との信頼関係が悪くなったり、取引先に負担を感じさせたりする恐れがあります。

 

取引先と取引がある企業や金融機関に聞いて回っていることを耳にしたり、取引先に対して失礼な聞き方をしたりすれば、必要なことだと分かっていても不快感を与えてしまうかもしれません。

内部調査や直接調査、依頼調査であれば、取引先に知られることなく与信調査を行うことができます。

 

また、メールやアンケートなどの直接調査を行う場合には、与信調査用のアンケートフォームを用意することで、取引先の負担を軽減することが可能です。

 

 

5. まとめ

今回は、与信調査について解説しました。

取引先と安心して継続的に取引を行うためには、取引先への与信調査が欠かせません。

内部調査や外部調査、直接調査、依頼調査などの方法を組み合わせ、取引先に支払い能力があるのか、安全に取引ができる相手なのかを判断しましょう。

 

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【参考資料】

VendorTrustLinkの機能

 

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