貸し倒れに伴う資金繰りの悪化による連鎖倒産や黒字倒産を防ぐためには、与信管理が欠かせません。本記事では、与信管理の概要から与信管理を行う目的、与信管理のプロセス、与信管理のポイントまで詳しく解説します。
1. 与信管理とは
与信管理とは、取引先と掛け取引を行っても問題がないか、どの程度の金額まで掛け取引を行えるのか、支払期日までにすべての資金を回収できるかなど、掛け取引を行う取引先の与信を管理することです。
与信管理における「与信」とは、取引先の信用力や与信限度額などから判断した、掛け取引における取引先の信頼性の高さを指します。
取引先の信用力:財務諸表などの数値や支払い遅延歴などから判断した支払い能力
与信限度額:未回収の売掛金を含めた掛け取引の上限金額
掛け取引を行った取引先から売掛金を回収できなかった場合に自社へ与える損害を最小限にすることを目的として与信管理を行います。
■債権管理との違い
与信管理と債権管理の違いは、管理する対象です。
与信管理では、取引先の信用力や与信限度額といった取引先の与信を管理します。一方、債権管理で管理するのは、期日までに売掛金が入金されたか、売掛金の残高はどのくらいあるのかといった債権を管理します。
与信管理と債権管理は、それぞれを個別に管理するわけではありません。
与信管理は債権管理のプロセスの一環として行うケースが一般的であり、それぞれのプロセスは連動して行われます。
債権管理のプロセス |
与信管理のプロセス |
与信管理 請求書の発行・送付 債権管理表の作成 入金消込・督促 |
与信調査 与信限度額設定 与信限度額の見直し |
2.与信管理が重要な理由
与信管理が重要な理由は以下の2つです。
- 連鎖倒産・黒字倒産を防止できる
- 自社の信用・評判の低下を防止できる
それぞれの理由について詳しく解説します。
■連鎖倒産・黒字倒産を防止できる
与信管理が重要な1つ目の理由は、連鎖倒産・黒字倒産を防止できるからです。
掛け取引では取引先が期日までに売掛金を支払うことを信用して取引を行いますが、必ずしも売掛金を回収できるとは限りません。
取引先が倒産して売掛金を回収できなかった場合、自社の手元資金が不足して連鎖的に自社も倒産(連鎖倒産)してしまう恐れがあります。また、回収できなかった売掛金の金額が自社の許容範囲を超えていた場合、自社の資金繰りが悪化して財務諸表上では黒字であるにもかかわらず倒産する(黒字倒産)かもしれません。
上記のような掛け取引のリスクを最小限に抑えるために、与信管理が重要となるわけです。
■自社の信用・評判の低下を防止できる
与信管理が重要な2つ目の理由は、自社の信用・評判の低下を防止できるからです。
取引先から売掛金を回収できなければ、手元資金が不足したり資金繰りが悪化したりするなど、経営に大きな影響を与えます。資金繰りが悪化すれば、ステークホルダーからの信用や評判が低下するでしょう。未回収リスクが高い取引先と掛け取引を行ったり許容範囲を超える金額の掛け取引を行ったりすることで、企業としての危機管理能力が疑われるかもしれません。
上記のように自社の信用・評判の低下を防止するために、与信管理が重要となるわけです。
3. 与信管理の流れ
与信管理の流れは以下の通りです。
- 与信調査
- 信用力の評価
- 与信限度額設定
- 与信限度額の管理
- 与信限度額の見直し
それぞれの流れについて詳しく解説します。
■与信調査
与信管理では、始めに取引先の与信調査を行います。
「与信調査」とは、実在している取引先なのか、支払い能力はあるのか、業績は安定しているのかなど、安全に掛け取引ができる取引先なのか判断するために企業の情報を調査することです。掛け取引を行う取引先としてどの程度信用できるのかを判断するために行う調査なので、信用調査と呼ばれることもあります。
与信調査を行う方法は以下の4つです。
内部調査 |
商談を行った営業担当者や入金時にやり取りした経理担当など、社内のスタッフから意見を聞く調査方法 |
外部調査 |
官公庁やコーポレートサイトなど、公開されている情報から分析する調査方法 |
直接調査 |
担当者と会って話を聞く、アンケートに答えてもらうといった、取引先から直接得た情報から分析する調査方法 |
依頼調査 |
信用調査会社へ依頼することで取得した情報から分析する調査方法 |
弊社が提供するリスクマネジメントツール「VendorTrustLink(ベンダートラストリンク)」では、取引先に回答してもらうアンケートの作成・送信ができる「チェックシート作成・送信」機能が利用できます。
チェックシートは選択式、自由記述や、必須回答項目、配点などを自由にカスタマイズして設計できます。
画像や動画で証跡を取ることも可能です。
作成したチェックシートは複数の委託先に自動で一斉送信ができます。
【参考】
VendorTrustLink(ベンダートラストリンク)の機能
■信用力の評価
次に、定量分析・定性分析などにより取引先の信用力を分析・評価します。
定量分析:貸借対照表や損益計算書など具体的な数値から分析する
定性分析:同業者・営業担当の意見や社内の雰囲気といった数値では表せない情報から分析する
■与信限度額設定
次に、取引先ごとに与信限度額を設定します。
「与信限度額」とは、売掛金総額の上限額です。
掛け取引は売掛金が振り込まれるまでの期間が長く、毎回決まった金額になるとは限りません。過去の掛け取引の売掛金が未入金のまま新たに掛け取引を繰り返してしまうと、未回収時の損失が増加してしまいます。そのため、取引先ごとに与信限度額を設定し、与信限度額の範囲で掛け取引を行うわけです。
与信限度額は、以下のようなさまざまな基準で算出します。
- 自社の純資産
- 自社の売掛債権
- 取引先の純資産
- 取引先の仕入債務
取引先の信用力は流動的に変化するものであり、売掛金の未回収を自社が許容できる範囲も変化するため、設定した与信限度額に期限を設定しておくことも重要です。
■与信限度額の管理
次に、取引先ごとの与信限度額を管理します。
与信限度額の範囲内で取引を行うためには、予定された期日までに売掛金が振り込まれているか、売掛金の残高が与信限度額を超えていないかを確認する必要があります。
入金予定日を過ぎても売掛金が振り込まれていない取引先が見つかった場合には、売掛金の回収を急ぐとともに与信限度額の見直しを行うようにしましょう。
■与信限度額の見直し
最後に、各取引先の与信限度額を見直します。
与信限度額は一度設定すれば終わりではなく、定期的に見直しを行う必要があります。
取引先の業績が低迷しているにもかかわらず同じ与信限度額で取引を行ってしまうと、気付かない間にリスクは増加し、自社の許容範囲を超えてしまう恐れがあるからです。
逆に、業績が好調な取引先の場合だと、与信限度額を高く設定し直す方が自社にとってメリットが大きくなる場合があります。
4.与信管理のポイント
与信管理のポイントは以下の2つです。
- 取引先を評価する基準を明確にする
- 取引先の異変を早期発見する
それぞれのポイントについて詳しく解説します。
■取引先を評価する基準を明確にする
与信管理の1つ目のポイントは、取引先を評価する基準を明確にすることです。
与信限度額は取引先の評価を元に算出しますが、取引先を評価する基準を明確にしていなければ、担当者ごとに異なる評価になったり、恣意的な評価になったりする恐れがあります。
格付け基準表や評価基準表を作成し、どの担当者が評価しても同じ結果になるようにしておきましょう。
■取引先の異変を早期発見する
与信管理の2つ目のポイントは、取引先の異変を早期発見することです。
与信管理では与信限度額の見直しを定期的に行いますが、流動的に変化する取引先の業績や財務内容の異変に気付かなければ対応が遅れてしまいます。
自社の業績や財務内容はすぐに確認できますが、取引先の業績や財務内容は随時確認できる情報ではありません。債権を管理する部門では支払い状況を確認することができますが、取引先の様子やリアルタイムな情報を入手するのは困難です。
取引先と接触する機会が多い営業部門と連携して取引先の情報を収集することで、取引先の異変を早期に発見することを心がけましょう。
前述した「VendorTrustLink(ベンダートラストリンク)」の「チェックシート作成・送信」機能を活用すれば、取引先の情報収集をスムーズに行えます。
5. まとめ
今回は、与信管理について解説しました。
与信管理は債権管理における重要なプロセスであり、適切に行わなければ売掛金を回収できなかった時に自社へ与える損害が大きくなってしまいます。取引先の信用力や自社の許容範囲に応じた与信限度額を設定し、定期的な与信調査によって与信限度額を見直することが重要です。
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