業務委託契約でよくあるトラブルと締結する際の注意点

業務委託においては、どのようなトラブルが発生する恐れがあるのかを事前に把握し、トラブルを回避するためにはどのような点について注意すべきかを理解したうえで契約を締結することが重要です。

本記事では、業務委託契約でよくあるトラブルと締結する際の注意点について解説します。

 

1. 業務委託契約でよくあるトラブル

業務委託契約でよくあるトラブルは以下の通りです。

  • 納品物に対する修正
  • 報酬の支払い
  • 委託先の債務不履行
  • 偽装請負
  • 委託先の情報漏えい

それぞれのトラブルについて具体的にご紹介します。

 

■納品物に対する修正

業務委託契約でよくある1つ目のトラブルは、納品物に対する修正です。

業務委託では、委託先が納品物に対する修正に応じなかったり、委託先から修正に対して別途費用を要求されたりするトラブルが発生するケースがあります。

請負契約の場合であれば、仕事の完成義務があるため、委託元は「仕事の完成」を委託先に要求でき、成果物に不備があった場合でも修正を依頼できます。
一方、委任契約(準委任契約)の場合、委託先には仕事を完成させる義務はありません。

請負契約では「仕事の完成」を目的としていますが、委任契約(準委任契約)では「仕事の遂行」を目的としているため、委託先が納品した成果物が完成品でなかったとしても、委託先には報酬を請求する権利があります。

 

納品物に対して修正を指示する可能性がある場合には、修正対応回数や修正に対する費用などについて、あらかじめ業務委託契約書に明記しておかなければいけません。

 

■報酬の支払い

業務委託契約でよくある2つ目のトラブルは、報酬の支払いです。

たとえば、業務委託契約書の報酬に関する項目に100万円と記載されていると、100万円に消費税が含まれているのか、100万円とは別に消費税を支払うのかでトラブルになる場合があります。

報酬を記載する際には、消費税の取り扱いについても明確に言及しておくことが重要です。

 

また、業務の完成・遂行に必要な費用を委託元と委託先のどちらが負担するのかでトラブルになるケースもあります。

請負契約の場合には原則として委託先が費用を負担しますが、委任契約・準委任契約の場合は委託元が負担するのが一般的です。

 

委任契約・準委任契約で委託先に費用を負担してもらう場合には、業務委託契約書に費用の負担について具体的に明記しておきましょう。

 

■委託先の債務不履行

業務委託契約でよくある3つ目のトラブルは、委託先の債務不履行です。

業務委託では、以下のようなトラブルが発生するケースがあります。

  • 契約後に委託先が倒産した
  • 委託先と連絡が取れなくなった
  • 委託先から一方的に契約解除を告げられた

 

納期までに債務のすべてあるいは一部が履行されなかった場合、委託先の債務不履行となり、以下のような対応が可能です。

  • 民法第562条に基づく追完請求
  • 裁判所を通じた強制的な履行請求
  • 契約解除
  • 損害賠償請求

 

ただし、上記はいずれも法的な対応が必要となるため、債務不履行のリスクがある委託先を選定しない、複数の委託先へ委託するといった対応も検討しましょう。

 

■偽装請負

業務委託契約でよくある4つ目のトラブルは、偽装請負です。

偽装請負とは、事態として雇用契約や派遣契約と同様の労働をさせておきながら、形式的には請負契約や委任契約、準委任契約を締結することで業務委託契約であるかのように偽装することを指します。

偽装請負は労働者派遣法や職業安定法、労働基準法に違反する行為であり、委託元が罰せられます。

業務委託において委託元と委託先が指揮命令関係にある場合、業務委託ではなく雇用とみなされ、労働基準法や最低賃金法、労働組合法、男女雇用機会均等法などが適用されます。

 

■委託先の情報漏えい

業務委託契約でよくある5つ目のトラブルは、委託先の情報漏えいです。

業務委託では、委託元から委託先へ提供された個人情報や機密情報が、委託先から外部へ流出するケースがあります。

メールの送信先設定ミスといった委託先の過失による情報漏えいや、金銭を目的として行われる意図的な情報漏えいなど、委託先による個人情報や機密情報の流出に対しては、委託元が責任を負わなければいけません。

 

【関連記事】

委託先から個人情報が漏えいした事例を紹介

 

 

2. 業務委託契約を締結する際の注意点

業務委託契約を締結する際の注意点は以下の通りです。

  • 業務委託契約書を作成せずに契約を締結しない
  • 秘密保持契約(NDA)を締結する
  • 下請法に違反していないかを確認する
  • 契約の種類を確認する
  • 再委託に関する項目を追加する

 

それぞれの注意点について詳しく解説します。

 

■業務委託契約書を取り交わす

業務委託契約を締結する際の1つ目の注意点は、業務委託契約書を作成せずに契約を締結しないことです。

業務委託契約を締結する際に、業務委託契約書を作成、取り交わすことが面倒だと感じるかもしれません。

口頭やメールなどのやり取りだけであっても業務委託契約自体は成立しますが、委託先とのやり取りの内容を忘れてしまったり勘違いしていたりすることもあるでしょう。

契約後に言った言わないのトラブルにならないように、契約内容を詳細に記載した業務委託契約書を作成し、委託先との間で取り交わすことが重要です。

 

■秘密保持契約を締結する

業務委託契約を締結する際の2つ目の注意点は、個人情報や機密情報を扱う業務を委託する際には秘密保持契約を締結することです。

秘密保持に関する項目がある業務委託契約書もありますが、個人情報や機密情報を扱う業務を委託する場合だと内容が不十分な場合があります。

業務委託とは別に秘密保持契約を締結することで、個人情報・機密情報の取り扱い方や保管方法、保管場所、取り扱う担当者、目的外使用の禁止、情報の返還・破棄などについて詳細に規定することが可能です。

 

■下請法に違反していないかを確認する

業務委託契約を締結する際の3つ目の注意点は、下請法に違反していないかを確認することです。

業務委託契約では、委託元と委託先の資本金区分や委託する業務によって下請法が適用されるケースがあります。

下請法が適用される場合に委託元が以下のような行為を行うのは、委託先が了承したとしても下請法違反です。

  • 受領拒否
  • 下請代金の支払遅延
  • 下請代金の減額
  • 返品
  • 買いたたき
  • 購入・利用強制
  • 報復措置
  • 有償支給原材料等の対価の早期決済
  • 割引困難な手形の交付
  • 不当な経済上の利益の提供要請
  • 不当な給付内容の変更及び不当なやり直し

 

参照:親事業者の禁止行為「公正取引委員会」

 

■契約の種類を確認する

業務委託契約を締結する際の4つ目の注意点は、契約を締結する前に契約の種類を確認することです。

業務委託契約には請負契約・委任契約・準委任契約の3種類があり、契約を構成する要素や報酬の対価となるもの、法的な制約などが異なります。

たとえば、Webサービスの開発を委託する場合、請負契約では成果物の仕様を途中で変更することはできませんが、準委任契約なら開発の途中で仕様を変更することが可能です。

業務委託契約を締結する際には、請負契約・委任契約・準委任契約のどれに該当するのか、どの契約を締結すべきなのかを検討するようにしましょう。

 

■再委託に関する項目を追加する

業務委託契約を締結する際の5つ目の注意点は、再委託に関する項目を業務委託契約書に追加することです。

委任契約・準委任契約では、再委託を禁止したり再委託に条件を付けたりする場合には業務委託契約書に再委託に関する項目を追加する必要があります。

再委託を許可することで複数の委託先と契約する手間を削減できますが、品質が低下したり情報漏えいのリスクが増加したりする点がデメリットです。

委託元には委託先が再委託先を適切に監督しているかを監督する義務があるため、再委託を禁止するか、どのような場合に再委託を許可するかについて再委託に関する項目に明記しておきましょう。

 

【関連記事】

再委託とは?委託元が許可するメリット・デメリットや注意点、契約書の例文を解説

 

 

3. まとめ

今回は、業務委託契約でよくあるトラブルと締結する際の注意点について解説しました。

業務委託では、報酬や修正、債務不履行、情報漏えいなど、さまざまなトラブルが発生するリスクがあります。

業務委託のリスクを軽減するためには、委託する業務の内容や報酬、禁止事項などを具体的に記載した業務委託契約書を作成し、委託先と取り交わすことが重要です。

本記事で解説したよくあるトラブルと締結する際の注意点を参考に、業務委託契約書を作成しましょう。

 

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