情報セキュリティにおけるリスクアセスメントの重要性と実施手順を解説

企業や組織の情報を守るためには、リスクアセスメントによってリスクを正確に評価し、適切な対策を講じることが欠かせません。リスクアセスメントの手順を理解し、実践することで、組織の情報をしっかりと守ることができます。

 

本記事では、情報セキュリティにおけるリスクアセスメントの重要性と実施手順について解説します。

1. リスクアセスメントとは

リスクアセスメントとは、企業や組織が直面する可能性のあるリスクを特定し、その影響や発生確率を評価するプロセスです。リスクアセスメントを通じて潜在的な脅威を明らかにし、適切な対策を講じることで、情報資産の損失や被害を未然に防ぐことができます。

リスクアセスメントのプロセスには、リスクの特定や分析・評価、リスク対応の優先順位決定が含まれます。これらのプロセスを通じて、リスクを体系的に管理し、情報セキュリティを強化することが可能です。

 

 

■ リスクマネジメントとの違い

リスクマネジメントとは、組織全体でのリスクを総合的に管理し、リスクを最小限に抑えるための戦略的な活動です。リスクマネジメントのプロセスには、リスクの特定や評価、対応策の策定と実施、定期的な見直しが含まれます。一方、リスクアセスメントはリスクマネジメントの一部であり、リスクの特定と評価に焦点を当てて作業を実施します。

つまり、リスクマネジメントは組織全体のリスクを管理する広範な取り組みであり、リスクアセスメントはその一環として特定のリスクを洗い出し評価するプロセスだということです。

 

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■ リスクアセスメントの目的

リスクアセスメントの目的は、潜在的なリスクを特定し、それらのリスクが企業や組織に与える影響を評価することです。企業や組織はリスクを適切に管理できるようになり、情報資産を守るための効果的な対策を講じることができます。

リスクアセスメントが重視されている背景には、情報漏えいやデータ破損といったセキュリティインシデントが、企業の信用や財務に大きな影響を与える可能性があるという現実があります。これらのリスクを無視すると、企業は法的責任を問われるだけでなく、顧客からの信頼を失ってしまうかもしれません。

このようなリスクを未然に防ぎ、企業や組織の持続可能な成長を支えるための基盤を築くことが、リスクアセスメントの目的と言えるでしょう。

 

 

2. 情報セキュリティ分野でリスクアセスメントが重要な理由

情報セキュリティ分野でリスクアセスメントが重要な理由は、企業や組織の情報資産を守るための基盤として機能するからです。情報漏えいや不正アクセスといったセキュリティインシデントが発生すると、企業の信頼性や経済的損失に直結します。そのため、事前にリスクを特定し、適切に管理することが不可欠です。

リスクアセスメントは、潜在的な脅威や脆弱性を洗い出し、その影響度や発生可能性を評価するプロセスです。これにより、どのリスクが最も重大であるかを判断し、優先的に対策を講じることができます。情報セキュリティの分野では、リスクアセスメントを通じて企業や組織の情報資産がどのようなリスクにさらされているかを明確にし、適切なセキュリティ対策を実施することが求められます。

例えば、顧客データの漏えいリスクを評価することで、暗号化やアクセス制御の強化といった具体的な対策を講じることができます。これにより、セキュリティインシデントの発生を未然に防ぎ、組織の信頼性を維持することが可能です。

 

 

3. 情報セキュリティにおけるリスクアセスメントの3つの観点

情報セキュリティにおけるリスクアセスメントでは、機密性・完全性・可用性の3つの観点からリスクを評価し、適切な対策を講じることが求められます。これらの観点を考慮することで、情報資産が不正アクセスやデータの改ざん、システム障害などの脅威にさらされるリスクを最小限に抑えることができます。特に情報セキュリティにおいては、これらの観点を総合的に評価することが、組織全体の安全性を確保するために重要です。

機密性・完全性・可用性の3つの観点は、情報資産がどのような形で脅威にさらされるかを具体的に把握するための指針です。機密性は情報が許可された者以外に漏れないこと、完全性は情報が正確で変更されないこと、そして可用性は必要なときに情報にアクセスできることを指します。

例えば、機密性を損なうリスクには、パスワードの漏えいや不正アクセスが挙げられます。完全性を損なうリスクは、データの改ざんやウイルス感染に関連します。可用性を損なうリスクには、サーバーダウンや自然災害によるシステム障害が含まれます。

これらの観点を考慮することで、情報セキュリティ対策の効果を最大化し、組織の信頼性を高めることができるわけです。

機密性・完全性・可用性を損なうリスクについて、以下で詳しく解説していきます。

 

 

■ 機密性を損なうリスクへの対応

機密性とは、情報が許可された者だけしかアクセスできないように保護することです。機密性が損なわれると、企業の機密情報や個人データが漏えいするリスクが高まります。

このリスクに対応するための具体的な手段として、アクセス制限を強化することが挙げられます。アクセス制限とは、情報にアクセスできる人を厳密に管理することです。アクセス制限には、ユーザーID・パスワードの管理や二要素認証の導入、アクセスログの監視などが含まれます。

さらに、データの暗号化も重要です。データを暗号化しておくことで、仮にデータが外部に流出したとしても、内容を解読されにくくすることができます。

最後に、従業員へのセキュリティ教育も欠かせません。従業員が情報の取り扱いに対する意識を高めることで、意図せず情報が漏れるリスクを減らせます。

 

 

■ 完全性を損なうリスクへの対応

完全性とは、情報が正確で改ざんされていない状態です。完全性が損なわれると、企業の信頼性が低下し、業務に大きな影響を与える可能性があります。例えば、データベースの情報が不正に変更されると、ビジネスの意思決定に誤りが生じるかもしれません。

完全性を維持するためには、データの改ざんを防ぐための技術的な対策が必要です。具体的には、アクセス制限を厳格に行い、データに対する不正アクセスを防止します。

また、データの変更履歴を記録することも重要です。これにより、万が一改ざんが発生した場合でも、いつ、誰が、どのように変更を加えたのかを追跡できます。

さらに、社員のセキュリティ意識を高めるための教育も欠かせません。情報セキュリティに関する定期的な研修を実施し、データの完全性を守るための重要性を理解してもらうことが大切です。

 

 

■ 可用性を損なうリスクへの対応

可用性とは、必要なときに情報システムやデータにアクセスできる状態です。可用性が損なわれると、業務の停止や顧客サービスの低下につながり、企業の信頼性を大きく損なう恐れがあります。

可用性を確保するための具体的な対策として、バックアップの定期的な実施が挙げられます。データのバックアップを定期的に行うことで、万が一のシステム障害時にも迅速にデータを復旧できます。また、システムの重要な部分を二重化することで、片方が故障してももう片方で運用を継続できるようにするシステムの冗長化も効果的です。

さらに、可用性を損なうリスクを軽減するには、障害発生時の対応手順を明確にし、定期的に訓練を行うことも重要です。定期的な訓練により、実際に障害が発生した際に迅速かつ適切な対応ができるようになります。

 

 

4. 情報セキュリティにおけるリスクアセスメントの実施手順

情報セキュリティにおけるリスクアセスメントは、以下の手順で実施します。

  1. リスクの特定
  2. リスクの評価
  3. 優先順位の決定
  4. リスク対応の実施と定期的な見直し

 

それぞれの手順について詳しく解説します。

 

 

■ リスクの特定

リスクの特定は、情報セキュリティにおけるリスクアセスメントの最初のステップです。具体的には、組織が直面する可能性のあるリスクを洗い出し、それらがどのように情報資産に影響を与えるかを分析します。

リスクの特定を行う際には、初めに組織内の情報資産をリスト化します。情報資産とは、データやソフトウェア、ハードウェア、ネットワークなど、組織が保有するすべての情報関連資産を指します。次に、これらの情報資産に対する脅威や脆弱性を洗い出します。脅威とは資産に損害を与える可能性のある事象や行為であり、脆弱性はその脅威に対して資産がどれだけ無防備かを指します。

例えば、データの紛失や不正アクセスといった脅威が発生する可能性やそれに対する組織の備えを評価することで、リスクの特定が進みます。過去のインシデントや業界の動向を参考にリスクの特定を行うことで、より精度の高いリスクアセスメントが可能です。

 

 

■ リスクの評価

リスクの評価とは、組織が直面する可能性のあるリスクを具体的に分析し、そのリスクがどの程度の影響を与えるかを評価するプロセスです。

リスクの評価では、リスクが発生する可能性(発生頻度)とその結果(影響度)を明確にします。例えば、データの漏えいやシステム障害が発生した場合、どの程度の割合で発生するのか、どの程度の損害を引き起こすかを評価するわけです。

具体的な評価方法としては、定性的評価と定量的評価があります。定性的評価では、リスクを高・中・低などのカテゴリーに分類し、直感的に理解しやすい形で評価します。一方、定量的評価では、数値を用いてリスクの大きさを測定し、より客観的な判断を可能にします。どちらの方法を採用するかは、組織の規模やリソースに応じて決定すると良いでしょう。

 

 

■ 優先順位の決定

企業や組織が直面する数多くのリスクの中から、どれを優先的に対処すべきかを判断することで、効率的にリソースを配分し、最大の効果を得ることができます。

リスクの評価の結果を利用して、リスクの優先順位を決定します。

優先順位は、リスクの影響度や発生頻度、対応コストなどから総合的に考慮します。影響度が高く、発生頻度も高いリスクは、最も早急に対応すべきです。一方で、影響度が低く、発生頻度も低いリスクについては、後回しにすることも考えられます。例えば、顧客情報が漏えいするリスクは企業の信頼を損ねるだけでなく、法的な問題を引き起こす可能性があるため、優先度が高くなるわけです。

また、リスク対応の優先順位は、定期的に見直すことが推奨されます。環境の変化や新たなリスクの発生により、優先順位が変わる可能性があるためです。

 

 

■ リスク対応の実施

リスクアセスメントにおける対応策の実施と定期的な見直しは、情報セキュリティを維持するための重要なステップです。まず、特定されたリスクに対して適切な対応策を実施することで、組織の情報資産を保護します。例えば、機密情報の漏えいを防ぐためにアクセス制御を強化する、データの完全性を確保するためにバックアップ体制を整えるなどの具体的な対策が考えられます。

 

リスク対応には、以下の4つの基本的な方法があります。

  • リスク軽減
  • リスク受容
  • リスク移転
  • リスク回避

 

例えば、情報漏えいのリスクが高い場合、データ暗号化やアクセス制限を強化することでリスクを軽減できます。リスク受容はリスクの影響を受け入れることを意味し、影響が小さい場合やコストが高い対策を避ける際に選ばれます。

リスク移転とは、リスクの影響を他者に移すことです。保険に加入したり外部の専門業者に業務を委託したりすることで、リスクを移転させることができます。リスク回避とは、リスクが発生する可能性のあるプロセスや活動そのものを中止することです。

これらの対応策は、企業の経営戦略やリソースに応じて最適なものを選択する必要があります。

 

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■ 定期的な見直し

新たな脅威が出現したり組織の業務内容が変わったりすることにより、リスク環境は常に変化します。そのため、定期的にリスクアセスメントを見直し、対応策の効果を評価することが不可欠です。定期的な見直しにより、必要に応じて対応策を更新し、常に最適な状態を保つことができます。

見直しの頻度は組織の規模や業種によって異なるものの、一般的には年に一度の実施が推奨されています。見直しの際には、過去のリスク評価結果を再確認し、新たなリスクの特定や既存のリスクの再評価を行います。

 

 

5. まとめ

今回は、情報セキュリティにおけるリスクアセスメントの重要性と実施手順について解説しました。

情報セキュリティにおけるリスクアセスメントは、組織の安全を守るために欠かせないプロセスです。適切なリスクアセスメントを行うことで、潜在的な脅威を早期に特定し、必要な対策を講じることができます。

本記事で解説したリスクアセスメントの実施手順を参考に、さらに強固なセキュリティ体制を築いてみてはいかがでしょうか。

 

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