「準委任契約で再委託しても本当に大丈夫なのか」「準委任契約で再委託を禁止するときには何を注意すればいいのか」と不安に感じている方もいるでしょうか。
準委任契約では、契約内容をしっかり理解しておかないと、トラブルに巻き込まれることもあります。
本記事では、準委任契約で再委託を禁止する方法と許可する場合の注意点について解説します。
1. 準委任契約で再委託は可能か
準委任契約においては、原則として再委託が禁止されています。
特定の業務を遂行するために委託者と受託者の間で結ばれる準委任契約では受託者のスキルや経験を信頼して依頼するため、第三者への再委託が問題となるからです。
一方、特定の仕事を完成させることを目的とした契約である請負契約においては、再委託するかどうかは受託者の自由となっています。
■再委託に関する民法の規定
民法644条の2において、委任者の許諾を得たとき、もしくはやむを得ない事由があるときを除き、無断で再委託を行うことは認められていません。
受任者は、委任者の許諾を得たとき、又はやむを得ない事由があるときでなければ、復受任者を選任することができない。
引用:民法644条の2 |
民法644条では、受任者は委任者の利益を図るために善良な管理者の注意をもって業務を遂行する義務(善管注意義務)を負っています。
受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。
引用:民法644条 |
業務の質が低下する可能性がある再委託は委任者の利益を損なう恐れがあるため、原則として再委託が禁止されているわけです。
■再委託とは
再委託とは、業務を委託された企業や組織が第三者に業務を再度委託する行為です。委託された業務をさらに企業や組織に任せることで、業務の効率化や専門性の向上を図る場合に利用されます。
再委託を行う際には、第三者への委託の可否について契約書に具体的に記載されているかどうかを確認し、契約書に明確な記載がない場合は委託元に相談する必要があります。
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■準委任契約とは
準委任契約とは、特定の業務を遂行することを目的とした契約です。受託者は業務を遂行する義務を負う一方で、その結果に対する責任は負いません。
準委任契約は、コンサルティング業務や法律相談などの専門的な知識やスキルが求められる業務において、委託者が受託者の能力を信頼して業務を任せるケースが多いです。
■請負契約とは
請負契約とは、特定の仕事を完成させることを目的とした契約です。建設工事やソフトウェア開発など、結果を求められる業務に多く利用されます。受託者は受注した仕事を完成させる義務がありますが、その過程や方法については基本的に自由です。請負契約では完成した成果物に対して報酬が支払われるため、成果物に不備や欠陥がある場合には、受託者が責任を負うことになります。
請負契約では、受託者が自己の責任で仕事を完成させるために必要であれば、再委託を行うことができます。契約で明確に再委託を禁止されていない限り、委託元の承諾を得る必要はありません。ただし、再委託先が仕事を適切に完了できなかった場合、最終的な責任は受託者が負うことになります。
■準委任契約で再委託にあたらないケース
準委任契約で再委託にあたらないケースとしては、委託先が業務に関して外部の専門家に相談したり、アドバイスを受けたりする場合が挙げられます。このようなケースでは業務の主体的な遂行が委託先にあるため、再委託には該当しません。法律相談や技術的なアドバイスを受けるために専門家に相談することは、業務の補助的な行為とみなされます。
また、委託先の役員や社員、派遣社員が業務を行う場合も、再委託には該当しません。
再委託は第三者に対して業務を委託する契約であり、自社の役員や社員、自社が提供を受けている派遣社員は第三者ではないからです。
2. 準委任契約で再委託が原則禁止されている理由
準委任契約で再委託が原則禁止されている理由は以下の2つです。
- 業務遂行を目的とした契約だから
- 委託先のスキルや経験を信頼して委託しているから
それぞれの理由について詳しく解説します。
■業務遂行を目的とした契約だから
準委任契約で再委託が原則禁止されている1つ目の理由は、業務遂行を目的とした契約だからです。
準委任契約は特定の業務を遂行することを目的としており、委託者による再委託先の管理が不十分な場合、業務の遅延や質の低下が発生するリスクが高まります。このため、準委任契約では再委託が原則として禁止されており、受託者自身が責任を持って業務を行うことが求められているわけです。
■委託先のスキルや経験を信頼して委託しているから
準委任契約で再委託が原則禁止されている2つ目の理由は、委託先のスキルや経験を信頼して委託しているからです。
準委任契約では、委託元は委託先のスキルセットや過去の実績を評価し、その能力を信頼して業務を任せることを前提として業務を依頼します。受託者が再委託を行うと、委託者が期待している受託者の専門性や能力が保証されない可能性が生じるわけです。
こうしたリスクを避けるために、再委託は原則として禁止されています。
3. 準委任契約で再委託が認められるケース
準委任契約で再委託が認められるケースは以下の2つです。
- 委託元が許可した場合
- やむを得ない事由が発生した場合
それぞれのケースについて詳しく解説します。
■委託元が許可した場合
準委任契約において再委託が認められる1つ目のケースは、委託元が明確に許可した場合です。
委託先が特定の業務を遂行するために専門的な知識や技術が必要な場合、その分野に精通した再委託先を選び、業務を進める許可を与えることがあります。
再委託の許可を得るためには、再委託の目的や必要性、再委託先の選定基準などを明確に伝えることが重要です。また、再委託の際には、業務の品質や納期に影響が出ないよう、事前に十分な準備と調整を行う必要があります。
■やむを得ない事由が発生した場合
準委任契約において再委託が認められる2つ目のケースは、「やむを得ない事由が発生した場合」です。
委託先の担当者が急病になったり、自然災害によって業務遂行が困難になったりする状況に陥った場合、委託元との信頼関係を維持しつつ、業務を円滑に進めるために、再委託が許可されることがあります。
ただし、やむを得ない事由による再委託は、委託元の理解と承諾が必要です。事前に委託元に状況を説明し、再委託の必要性を納得してもらうようにしましょう。
4. 準委任契約で再委託を禁止する方法
準委任契約で再委託を禁止する方法は以下の2つです。
- 業務委託契約書に禁止することを明記する
- 業務委託契約書に再委託を許可するケースを明記する
それぞれの方法について詳しく解説します。
■業務委託契約書に禁止することを明記する
業務委託契約書に再委託を禁止する条項を記載することで、委託先が別の業者に業務を再委託することを防止することができます。
契約書に禁止事項を記載することで、委託先が許可を得ずに再委託した場合でも契約違反として対応できるでしょう。
さらに、禁止事項に違反した場合のペナルティを契約書に明記することで、抑止力を高めることも可能です。「再委託した場合は契約解除」や「違約金を請求する」といった具体的な措置を示すようにしましょう。
しかし、再委託を完全に禁止することが業務の遂行に支障をきたす場合もあるかもしれません。そのため、例外的に再委託を許可するケースを契約書に記載しておくと、柔軟な対応が可能になります。例えば、「委託元の事前承認を得た場合に限り再委託を許可する」といった条件を設けることで、必要に応じて再委託を認めることができます。
要するに、業務委託契約書に再委託を禁止することを明記することで、トラブルを未然に防ぎつつ、必要に応じた柔軟な対応も可能にします。
■業務委託契約書に再委託を許可するケースを明記する
前述したように、業務委託契約書に再委託禁止条項を記載することで、再委託を禁止することは可能です。しかし、再委託を完全に禁止することが業務の遂行に支障をきたす場合もあるかもしれません。
そのため、「委託元の事前承認を得た場合に限り再委託を許可する」といった、例外的に再委託を許可するケースを契約書に記載しておくと、必要に応じて再委託を認めることができます。また、その際の報告義務や、委託元の事前承認が必要であることを明記するようにしましょう。
5. 準委任契約で再委託を許可する場合の注意点
準委任契約で再委託を許可する場合の注意点は以下の3つです。
- 下請法の適用を受ける可能性がある
- 偽装請負に該当すると判断される恐れがある
- 再委託先を監督する義務がある
それぞれの注意点について詳しく解説します。
■下請法の適用を受ける可能性がある
準委任契約で再委託を許可する場合の1つ目の注意点は、下請法の適用を受ける可能性があることです。
下請法とは、下請業者が不当な取引条件を強いられないように保護する法律です。親事業者と下請事業者の関係において、親事業者が優越的地位を利用して不当な要求をすることを防ぐために制定されています。親事業者が下請事業者に対して、不当な報酬の減額や無理な納期の要求をすることはできません。
準委任契約において再委託を行う場合、再委託先が下請業者に該当する可能性があるため、親事業者としての責任が生じます。そのため、再委託先との契約内容が下請法に反するものでないかを慎重に確認する必要があるわけです。また、下請法の適用を受ける場合、親事業者は再委託先に対して適正な取引条件を提示しなければなりません。これには、適切な報酬の支払いや合理的な納期の設定が含まれます。
下請法に違反すると行政指導や罰則を受ける可能性があるため、再委託を行う際には十分な注意が必要です。
■偽装請負に該当すると判断される恐れがある
準委任契約で再委託を許可する場合の2つ目の注意点は、偽装請負に該当すると判断される恐れがあることです。
偽装請負とは、実際には請負契約が成立していないにもかかわらず、形式的に請負契約を装っている状態を指します。偽装請負が発覚すると法的な問題が生じる可能性があるため注意が必要です。
偽装請負と判断されるケースとしては、委託元が再委託先の労働者に対して直接指示を出したり、業務の遂行を直接監督したりする場合が挙げられます。このような状況は、労働者が委託元の指揮命令下で働いているとみなされ、実質的に労働契約に該当する恐れがあります。
偽装請負を避けるためには、契約書において業務の範囲や責任分担を明確にし、再委託先の独立性を確保することが重要です。また、委託元が再委託先の業務に介入しないよう、業務の進行状況を報告する際の手順を事前に取り決めておくと良いでしょう。
■再委託先を監督する義務がある
準委任契約で再委託を許可する場合の3つ目の注意点は、再委託先を監督する義務があることです。
再委託を許可する場合、委託先だけではなく、委託元にも再委託先を監督する義務が発生します。再委託先の監督義務を怠ると、最終的には委託元が責任を負う可能性があるため、注意が必要です。
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6. まとめ
今回は、準委任契約で再委託を禁止する方法と許可する場合の注意点について解説しました。
準委任契約は、業務の遂行を他者に任せる契約形態です。そのため、準委任契約においては原則として再委託が認められていません。再委託が認められるのは、委任者の許諾を得たとき、もしくはやむを得ない事由があるときのみです。委託者に無断で再委託を行った場合、契約トラブルに発展する恐れがあります。
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