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サプライチェーンで人権尊重が重視されている理由と人権侵害の影響を解説

「サプライチェーンではなぜ人権尊重が重視されるようになったのか」「サプライチェーンで人権侵害が発生するとどのような影響が出るのか」「人権尊重に対してどのような取り組みが実施されているのか」など、疑問に感じている方もいるのではないでしょうか?


本記事では、サプライチェーンで人権尊重が重視されている理由、サプライチェーンにおける人権侵害の影響、サプライチェーンの人権侵害に対する大手企業の取組事例、サプライチェーンの人権侵害を予防する方法について解説します。

 

 

1. サプライチェーンで人権尊重が重視されている理由


サプライチェーンで人権尊重が重視されている理由は以下の通りです。

  • 人権デューデリジェンス義務化
  • 経済産業省が人権尊重のガイドラインを公表

 

それぞれの理由について解説します。

 

 

■人権デューデリジェンス義務化

サプライチェーンで人権尊重が重視されている理由の1つ目は、欧州を中心に人権デューデリジェンスが義務化されているからです。

人権デューデリジェンス(Due Diligence)とは、過酷な労働環境や賃金未払い、児童労働、強制労働などの人権侵害が自社の企業活動に与える影響を調査・分析し、リスクを抑える取り組みを指します。


人権問題に対する関心が強い欧米諸国では人権デューデリジェンスが義務化されており、海外へ進出する企業だけでなく日本国内でビジネスを展開する企業においても、人権を尊重する取り組みが重視されています。


欧米諸国における人権デューデリジェンス義務化の例

  • イギリスの現代奴隷法(2015年)
  • フランスの企業注意義務法(2017年)
  • ドイツのサプライチェーン法(2021年)
  • アメリカのウイグル強制労働防止法(2021年)
  • EUの企業持続可能性デューデリジェンス指令案(2022年)

 

ユニクロを展開する株式会社ファーストリテイリングは、強制労働に関与していない十分な証拠がなく、米政府の輸入禁止措置に違反したとして、2021年1月にロサンゼルス港での輸入が差し止められています。

また、取引先で発生した人権侵害が、風評被害や不買運動、株価下落、企業イメージの低下といった悪影響を与えるケースもあります。

 

 

■日本政府が人権尊重のガイドラインを公表

サプライチェーンで人権尊重が重視されている理由の2つ目は、日本政府が人権尊重のガイドラインを公表したからです。

日本政府は2022年9月13日に「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」を、経済産業省は2023年4月4日に「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のための実務参照資料」を公表しました。


ガイドラインで求められている内容は以下の通りです。

  • 人権方針の策定
  • 人権デューディリジェンスの実施
  • 救済メカニズムの構築

 

上記ガイドラインは日本で事業活動を行う全ての企業が対象となっており、企業の規模や業種に関わらず人権尊重の取組みを促進することが求められています。


参考資料:

「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」内閣官房

「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のための実務参照資料」経済産業省

 

 

2. サプライチェーンにおける人権侵害の影響

サプライチェーンにおける人権侵害の影響は以下の通りです。

  • 既存顧客や政府との取引停止
  • 不買運動の発生
  • 株価の下落
  • 従業員離反による業務停滞・事業停止
  • 罰金の発生
  • 訴訟提起・損害賠償の発生
  • 採用力・人材定着率の低下(≒採用コストの増加)
  • ブランド価値の毀損
  • ダイベストメント(投資の引揚げ)

参考資料:「「ビジネスと人権」 への対応」法務省

 

主な影響3つについて解説します。

 

 

■既存顧客や政府との取引停止

主な影響の1つ目は、既存顧客や政府との取引停止です。

 

特に欧米諸国との取引がある場合、人権デューデリジェンスが義務化されている国もあり、人権侵害が確認された場合は取引停止に至ることがあります。

抜き打ちでの監査が実施されるなど、人権侵害が行われていないか厳しくチェックをする企業も増えています。

 

 

■不買運動の発生

主な影響の2つ目は、不買運動の発生です。

 

人権侵害が明らかになった場合、消費者による不買運動につながるケースがあります。

2013年にバングラディシュの首都ダッカ近郊にて、縫製工場が入ったビルが崩壊しました。

この事故により工場で働いていた労働者1136名が亡くなり、過酷な労働環境や杜撰な安全管理が明らかになりました。

この工場に生産を委託していたブランドに対しても批判が起こり、不買運動につながっています。

 

 

■株価の下落

主な影響の3つ目は、株価の下落です。


人権侵害が発覚したことで、機関投資家が投資先から投資を引き上げ、株価が低下するケースがあります。

また、人権侵害に対する対応は投資家の判断材料にもなるため、新たな投資が阻害されることもあります。

 

 

3. サプライチェーンの人権侵害に対する大手企業の取組事例

サプライチェーンの人権侵害に対する大手企業の取組事例をご紹介します。

参考資料:「「ビジネスと人権」に関する取組事例集」外務省

 

 

■味の素株式会社

味の素株式会社は、2014 年に企業行動規範の中で人権に対する方針を打ち出し、2018 年には人権尊重に関するグループポリシーを公表しています。

 

主な取り組み

人権方針によるコミットメント
  • 人権尊重に関するグループポリシー公表
  • 日本では全従業員、海外ではマネージャーを対象に、人権 E ラーニングを実施
人権デュー・ディリジェンスの実施
  • 事業全体の潜在的なリスク分析
  • 海外コンサルタント会社のデータを活用したリスク評価
苦情処理メカニズムの整備
  • 外国人労働者の受入れに関する多様なステークホルダーが参画するプラットフォームの設立
  • NGO の提供する「ワーカーズボイス」をグループ内の外国人労働者に導入

 

■ANA ホールディングス株式会社

ANA ホールディングス株式会社は、 英国による現代奴隷法の法制化をきっかけに、日本企業で初めての人権報告書を発行しました。


主な取り組み

人権方針によるコミットメント
  • グループの役員が参加する会議で人権方針の策定を提案
  • 役員の会議で承認を得て人権方針を公表
人権デュー・ディリジェンスの実施
  • 外部専門家も交え、グループ全体のリスク評価やグループ内の担当部署に対するインタビューを実施しながらリスクの特定
  • 英国現代奴隷法等に基づき、人身取引防止に関する取組を開示
苦情処理メカニズムの整備
  • 対象範囲をサプライチェーン上にまで拡大した多言語(7 か国語)で対応可能な新たな苦情処理メカニズムのシステム(Ninja)を導入



■花王株式会社

花王株式会社は、人権尊重に関する国際的な流れを契機として、人権方針の策定を始めとした取り組みを強化しています。


主な取り組み

人権方針によるコミットメント
  • 国際人権章典や ILO 宣言、指導原則等の確認
  • サプライヤーとの情報交換・意見公開の場としてベンダーサミットを毎年国内外で開催
人権デュー・ディリジェンスの実施
  • 人権リスクを洗い出すためのリスクマップを作成
  • 国際 NPO が提供する情報共有プラットフォームによるリスク評価を実施
苦情処理メカニズムの整備
  • 社内外に対してコンプライアンス通報・相談窓口を設置

 

 

4. サプライチェーンの人権侵害を予防する方法

サプライチェーンの人権侵害を予防する方法は以下の通りです。

  • 取引先の選定基準を見直す
  • サプライチェーン全体でガイドラインを作成する
  • 取引先がリスク管理を実施しているかを確認する

それぞれの方法について解説します。

 

 

■取引先の選定基準を見直す

サプライチェーンの人権侵害を予防する方法の1つ目は、取引先の選定基準を見直すことです。


納品する資材・部品の品質や価格、提供するサービスのクオリティなどで取引先を選定すると、取引先で人権侵害が発生した際に自社が悪影響を受ける恐れがあります。


従来の選定基準に加えて、人権尊重の取り組みを実施しているか、従業員の労働環境は適切か、賃金未払い・不法就労が発生していないかなどについても意識して選定することが重要です。

 

 

■サプライチェーン全体でガイドラインを作成する

サプライチェーンの人権侵害を予防する方法の2つ目は、サプライチェーン全体でガイドラインを作成することです。


サプライチェーンに関わるそれぞれの企業で人権尊重に関する取り組みを実施していたとしても、自社と取引先の基準が同じとは限りません。

自社の基準と比べて取引先の基準が著しく低ければ、自社では人権を尊重できたとしても、取引先で人権侵害が発生する恐れがあります。


共通のガイドラインを作成することで、サプライチェーン全体で人権を尊重した取り組みを実施することが可能です。

 

 

■取引先がリスク管理を実施しているかを確認する

サプライチェーンの人権侵害を予防する方法の3つ目は、取引先がリスク管理を実施しているかを確認することです。


サプライチェーンでは、自社と取引のある企業で人権侵害が発生すると連鎖的に自社も影響を受けてしまう恐れがあります。

取引先が人権尊重への取り組みを実施しているかについて確認し、実施状況を継続してチェックすることが重要です。

 

 

5. まとめ

今回は、サプライチェーンで人権尊重が重視されている理由、サプライチェーンにおける人権侵害の影響、サプライチェーンの人権侵害に対する大手企業の取組事例、サプライチェーンの人権侵害を予防する方法について解説しました。


サプライチェーン全体で人権尊重への取り組みが実施されていなければ、自社あるいは自社と取引のある企業で人権侵害が発生し、サプライチェーン全体に影響を与えてしまう恐れがあります。

人権侵害による被害を軽減するためには、委託先・取引先のリスク管理が欠かせません。

自社で委託先・取引先のリスク管理を行うには手間と時間がかかりますが、委託先リスク管理サービスを利用することで、自社の負担を大きく軽減できます。

 

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