企業がビジネスを進める上で、サードパーティが提供するサービスを利用する機会が増えています。一方、企業がサードパーティを利用することで予期せぬトラブルや損害が発生する可能性があるため、サードパーティリスクについて正しい知識を持つことが重要です。サードパーティリスクに対して適切な対策を講じることで、リスクを最小限に抑えることができます。
本記事では、サードパーティリスクの概要やリスク管理の必要性、リスク管理するための具体的な手法について解説します。
1.サードパーティリスクとは
サードパーティリスクとは、企業が外部の第三者、つまりサードパーティと関わる際に発生するリスクです。これには、サードパーティが提供するサービスや製品の品質、コンプライアンス、セキュリティなどに関する問題が含まれます。例えば、ITシステムの運用を外部に委託した場合、そのサードパーティがセキュリティ対策を怠ると、企業全体の情報が漏えいするリスクがあるわけです。
サードパーティリスクが重視されているのは、企業の活動がますます外部の専門家やサービスに依存するようになっているからです。サードパーティとの関係が企業の競争力や業務の効率性に大きく影響を与えるため、サードパーティリスクを適切に管理し、企業の持続的な成長を確保することが求められています。
■サードパーティとは
サードパーティとは、自社の業務やサービスをサポートするために外部から関与する企業や個人です。具体的には、製品の一部を製造する工場やITシステムの運用を任せる企業などが該当します。専門知識や技術を持つサードパーティを活用することで、企業は効率的に業務を進めることができるわけです。
サードパーティの利用にはコスト削減や専門的な技術の導入といったメリットがありますが、それに伴うリスクも存在します。例えば、サードパーティの情報管理が不十分であれば、データ漏えいの危険性が高まります。また、品質管理が行き届いていない場合、製品やサービスに不具合が生じる可能性もあります。
■サードパーティとサプライチェーンの違い
サードパーティとサプライチェーンの違いは、主にその役割と関与の範囲にあります。サードパーティとは、企業が自社の業務を外部に委託する際に関与する外部の組織や企業を指します。これには、情報技術のサポートを行うIT企業や、物流を担当する運送会社などが含まれます。サードパーティは、特定の業務やサービスを提供するために契約されることが一般的です。
一方、サプライチェーンは、原材料の調達から製品の製造、流通、販売に至る、製品やサービスが最終的に消費者に届くまでの一連の流れを示す概念です。サプライチェーンには、原材料の供給者、製造業者、流通業者、小売業者など、多くの異なる企業や組織が関与します。 サードパーティは特定の業務にフォーカスしているのに対し、サプライチェーンは製品やサービスの全体の流れに関与しているという点が大きな違いです。
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■サードパーティと外部委託の違い
サードパーティと外部委託の違いは、その関係性と業務の範囲にあります。製品の部品を供給する企業や物流を担当する運送会社などのサードパーティは、企業のサプライチェーンの一部として重要な役割を果たしますが、直接的な管理下にはありません。
一方で、外部委託は、企業が特定の業務を別の企業に依頼して実行してもらうことです。例えば、ITサポートや人事業務を外部の専門会社に任せるケースが外部委託に該当します。外部委託では企業が業務の実行を外部に任せるため、契約などで業務内容や成果物の詳細を明確にすることが重要です。
サードパーティと外部委託はその関係性や業務の範囲が異なるため、リスク管理のアプローチも変わります。サードパーティは企業のサプライチェーンにおける一部として、外部委託は業務の実行を依頼するパートナーとして、それぞれのリスクを適切に管理することが求められます。
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2.サードパーティリスク管理 (TPRM) とは?
サードパーティリスク管理とは、企業が外部のビジネスパートナーやサービスプロバイダーと関わる際に生じるリスクを特定、評価、軽減するためのプロセスです。Third Party Risk Managementの頭文字を取って、TPRMと呼ばれることもあります。ビジネスが複雑化し、外部委託が増える中で、サードパーティリスクを管理することは非常に重要です。適切なサードパーティリスク管理を導入することで、企業はサプライチェーンの寸断やデータ漏えいといった問題を未然に防ぐことができます。
サードパーティリスク管理が必要とされるのは、サードパーティが企業の業務に与える影響が大きいからです。例えば、サードパーティが提供するサービスが停止すれば、企業の業務が滞る可能性があります。また、サードパーティがセキュリティ対策を怠れば、企業のデータが漏えいするリスクも高まります。そのため、サードパーティリスク管理は企業の安定した運営に欠かせない要素となっているわけです。具体的には、サードパーティの選定時にリスク評価を行い、契約後も継続的に監視することが求められます。
■企業経営におけるサードパーティリスク管理の課題
企業経営におけるリスク管理の課題は、多岐にわたるリスクを効率的に把握し、適切に対応することが求められる点にあります。企業経営におけるリスクは企業の信用や業績に直接影響を及ぼすため、事前の対策が不可欠です。
企業は通常、内部のリスク管理に重点を置きがちですが、外部委託先や取引先といったサードパーティからもリスクが発生する可能性があります。これらのリスクはサードパーティの管理体制や業務内容に依存するため、企業自体の管理範囲を超えてしまうことがあるわけです。そのため、企業はサードパーティの選定や契約時に、リスク管理の観点を取り入れる必要があります。
企業は包括的なリスク管理フレームワークを構築し、サードパーティリスクを含む全体的なリスクを一元的に管理することが求められます。これにより、リスクの早期発見と迅速な対応が可能となり、企業の持続的な成長を支える基盤となるのです。
■サードパーティリスク管理の必要性
サードパーティリスク管理は、企業の信頼性や競争力を維持するための重要な手段であり、適切な管理が企業の持続的な成功を支える鍵となります。
現代のビジネス環境では、多くの企業が業務の一部を外部の専門業者に委託しています。効率化やコスト削減が期待できる一方で、外部業者に依存することで発生するリスクも増大します。例えば、データ漏えいやサプライチェーンの混乱は、企業の評判や財務状況に大きな影響を与える可能性があります。
こうしたリスクを未然に防ぐためには、サードパーティリスク管理が不可欠です。具体的には、業者選定時に厳格な基準を設け、契約時にはリスクの明確化と適切な管理体制を構築する必要があります。また、定期的な監査や評価を通じて、リスクの変化に対応することも重要です。
情報セキュリティの観点では、外部業者が取り扱うデータの管理が不十分だと、企業全体のセキュリティが脅かされることになります。これを防ぐためには、業者との間で明確なセキュリティポリシーを策定し、遵守を徹底させることが重要です。
3.効果的なサードパーティリスク管理の方法
■リスク管理フレームワークの導入
リスク管理フレームワークの導入は、企業がサードパーティリスクを効果的に管理するための基盤を築く重要なステップです。リスク管理フレームワークは、企業がリスクを体系的かつ一貫して評価し、管理するための指針を提供します。リスク管理フレームワークを導入することで、サードパーティとの関係における潜在的なリスクを予測し、適切な対策を講じることが可能です。
フレームワークの導入が重要である理由は、企業が直面するリスクが多様化しているためです。特にサードパーティとの関係においては、情報漏えいや業務の中断など、さまざまなリスクが存在します。これらのリスクを無視すると、企業の信用や財務に深刻な影響を及ぼす恐れがあります。フレームワークを導入することで、リスクの特定から評価、優先順位付け、対応策の実施までのプロセスを明確にすることが可能です。具体的には、国際的な標準であるISO 31000やCOSO-ERMなどのフレームワークを参考にし、自社のニーズに合わせたリスク管理体制を構築することが推奨されます。
■アウトソースの活用
アウトソースの活用は、サードパーティリスク管理において非常に重要です。アウトソースとは企業が自社の業務を外部の専門業者に委託することを指します。アウトソースの活用により企業は自社のリソースをコアビジネスに集中させることができるだけでなく、専門的な技術や知識を持つ外部のプロフェッショナルを利用できるため、効率的な業務運営が可能です。また、アウトソースはコスト削減の面でも大きな利点があります。自社で全ての業務を行う場合、設備投資や人件費がかさむことがありますが、外部に委託することでこれらのコストを抑えることができます。
ただし、アウトソースの活用にはリスクも伴います。例えば、外部業者の経営状況が悪化した場合、サービスの質が低下する可能性があります。そのため、業者選定時には信頼性や実績を十分に確認することが重要です。契約内容も詳細に検討し、リスク管理を徹底することで、アウトソースの利点を最大限に活用することができます。
■ガバナンスとリスク管理の強化
ガバナンスとリスク管理の強化は、サードパーティリスク管理において非常に重要です。結論として、ガバナンスとリスク管理を強化することで、企業はサードパーティとの関係における不確実性を減少させ、ビジネスの安定性を確保できます。まず、ガバナンスとは、企業がその活動を適切に管理し、目標を達成するための枠組みを提供する仕組みです。これには、組織の方針や手続き、監視体制が含まれます。リスク管理は、潜在的なリスクを特定し、それらに対する対策を講じるプロセスです。
サードパーティとの関係では、取引先の信頼性や法令遵守の状況を把握することが重要です。「取引先が本当に信頼できるのか不安…」と感じる方も多いでしょう。そこで、取引先の審査や監視を行うことで、リスクを未然に防ぐことができます。具体的には、企業のガバナンス体制を見直し、リスク管理のプロセスを強化することが求められます。
また、リスク管理の一環として、定期的な監査や評価を実施し、問題が発生した際には迅速に対応する仕組みを整えることが重要です。これにより、企業はサードパーティとの取引におけるリスクを最小限に抑えられます。要するに、ガバナンスとリスク管理を強化することで、企業はサードパーティリスクを効果的に管理し、ビジネスの安定性を確保することが可能です。
■外部委託管理
企業がサードパーティとの関係を最適化し、リスクを最小限に抑えるためには、明確な契約条件の設定やコミュニケーションの円滑化、定期的なパフォーマンス評価といった外部委託管理が欠かせません。
明確な契約条件の設定は、後々のトラブルを防ぐための基本です。契約書には、業務範囲や納期、品質基準、責任分担などを具体的に記載する必要があります。
外部委託管理においては、コミュニケーションの円滑化も重要です。定期的な会議や報告書の共有を通じて進捗状況を確認し合うことで、問題の早期発見と解決が可能です。予期せぬ問題が発生した際にも、迅速に対応できる体制を整えられます。
さらに、外部委託先のパフォーマンス評価を定期的に行うことで、契約条件が守られているか、期待通りの成果が得られているかを確認します。評価結果に基づき、必要に応じて契約内容の見直しや改善策の提案を行うことで、より良い関係を築くことができます。
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■統合リスク管理の活用
統合リスク管理とは、企業全体のリスクを統合的に管理し、戦略的な意思決定を支援する枠組みを指します。統合リスク管理を導入することで、サードパーティとの取引や契約におけるリスクを事前に評価し、潜在的な問題を未然に防ぐことができます。
さらに、統合リスク管理は企業のガバナンスを強化し、リスクに対する透明性を高めることも可能です。リスクに対する理解を深め、迅速かつ効果的な意思決定を行うことができるようになるでしょう。
4.まとめ
今回は、サードパーティリスクの概要やリスク管理の必要性、リスク管理するための具体的な手法について解説しました。
サードパーティリスクとは、企業が外部の業者やパートナーと取引する際に生じる潜在的なリスクのことです。外部業者の選定や契約内容の確認、定期的な監査など、サードパーティリスクを適切に管理することは、企業の安定した運営に欠かせません。
本記事で解説したサードパーティリスクの管理方法を参考に、サードパーティリスクの管理を始めてみましょう。
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