委託先の監督とは?監督する責任の有無や法的リスクを解説

委託先の行動に関する責任が自社にあるのか、法的リスクについて気になる方もいるのではないでしょうか。業務を委託する際には、委託先の選定や監督責任の範囲をしっかりと理解し、適切な管理体制を構築することが大切です。

 

本記事では、業務委託を行う際の委託先に対する監督責任や法的リスク、管理体制の構築方法について解説します。

1. 委託先の監督とは

委託先の監督とは、企業が外部業者に業務を委託する際に、その業務が適切に遂行されるように管理・監視する責任を指します。単なる道義的な責任ではなく、個人情報保護法や番号法などで定められた、法的な根拠のある監督責任です。

 

個人情報取扱事業者は、個人データの取扱いの全部又は一部を委託する場合は、その取扱いを委託された個人データの安全管理が図られるよう、委託を受けた者に対する必要かつ適切な監督を行わなければならない。

 

引用:個人情報保護法25条

 

個人番号利用事務等の全部又は一部の委託をする者は、当該委託に係る個人番号利用事務等において取り扱う特定個人情報の安全管理が図られるよう、当該委託を受けた者に対する必要かつ適切な監督を行わなければならない。

 

引用:番号法11条

 

委託先の不適切な行動によるリスクを最小限に抑え、企業のブランドや信用を守るためには、監督責任を果たす必要があります。法的なトラブルを未然に防ぐためにも、委託先の選定や契約内容の見直し、業務遂行状況のチェックが欠かせません。

 

委託先の監督責任では、委託先が業務を適切に遂行できるようにするための管理体制を構築し、定期的な報告や監査を行うことが求められます。具体的には、委託先との契約書において監督責任に関する条項を明記し、業務の進捗状況を定期的に確認することや、問題が発生した際の対応策を事前に定めておくことが重要です。また、委託先の選定段階で信頼性や実績を確認し、適切な業者を選ぶことも監督責任の一環と言えるでしょう。

 

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■委託先の行為によって損害賠償が発生するリスク

委託元は、委託先に業務を任せることで、自社の業務負担を軽減することが可能です。しかし、委託先が業務を遂行する過程で問題が発生した場合、委託元にも責任が及ぶことがあります。これは、契約上の義務を果たすために委託先を選定し、業務を委託した責任が委託元にあるからです。

 

例えば、委託先が個人情報を適切に管理せず、情報漏えいが発生した場合、プライバシー侵害として損害賠償を求められることがあります。情報漏えいが発生した要因が自社でない場合でも、委託元が監督責任を果たしていないと見なされると、法的責任を問われる可能性があるわけです。

 

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■再委託先に対する監督責任

委託元が直接契約を結んでいない再委託先に対しても、委託元には間接的な監督責任があります。これは、委託先がさらに業務を第三者に再委託した場合に、委託先が適切に再委託先を監督しているかを監督する義務があるからです。自社が契約しているのは委託先だけだから、直接契約していない再委託先とは関係ないと思うかもしれませんが、実際にはそうではありません。

 

再委託先が不適切な行動を取った場合、その責任が委託元にまで及ぶ可能性があります。例えば、個人情報の漏えいや品質不良などが再委託先で発生した場合、委託元はその監督責任を問われることがあります。

 

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2. 個人情報の取扱いを伴う委託先を監督する際に求められる義務

個人情報の取扱いを伴う委託先を監督する際に求められる義務は以下の3つです。

  • 適切な委託先の選定
  • 委託契約の締結
  • 委託先における個人データ取り扱い状況の把握

それぞれの義務について詳しく解説します。

 

■適切な委託先の選定

個人情報の取扱いを伴う委託先を選定する際には、その企業の信頼性や実績を確認することが重要です。過去の取引実績や評判を調査し、信頼できるパートナーかどうか見極めましょう。例えば、過去に契約違反やトラブルが多い企業は避けるべきです。

次に、委託先の専門性や技術力も選定のポイントとなります。業務内容に応じた専門知識や技術を持つ企業を選ぶことで、業務の質が向上し、トラブルの発生を未然に防ぐことができます。事前に具体的な業務内容についての説明を行い、委託先の理解度を確認することが重要です。

さらに、委託先の財務状況を把握することも欠かせません。財務状況が不安定な企業は、途中で業務が滞るリスクがあります。信用調査を行うことで、企業の財務健全性を確認し、長期的なパートナーシップを築けるかどうかを判断しましょう。

 

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■委託契約の締結

個人情報の取扱いを伴う業務を委託する際には、委託先がどのように個人データを管理するのか、個人データの取り扱い状況を委託元が把握することが求められます。

 

また、契約書には監督責任に関する条項を盛り込むことも欠かせません。具体的には、委託先が業務を適切に遂行するための基準や、業務の進捗状況を報告する義務を設定します。個人情報や機密情報を取り扱う場合は、情報漏えい防止に関する条項を厳格に設定することが重要です。

 

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■委託先における個人データ取り扱い状況の把握

個人データの漏えいは企業にとって大きなリスクであり、信頼を失う原因ともなり得ます。このため、委託先がどのように個人データを取り扱っているかを正確に把握することが重要です。

データの保存方法やアクセス権限の管理、データ転送時の暗号化措置など、委託先のデータ管理方針やセキュリティ対策について詳細に確認しましょう。さらに、定期的な監査を実施し、委託先のデータ管理状況を継続的に評価することが重要です。監査により問題点が見つかった場合は、迅速に改善を求める姿勢が求められます。

 

 

3. 委託先に対する監督責任を果たすために必要な対策

委託先に対する監督責任を果たすために必要な対策は以下の4つです。

  • 社内規程を整備する
  • 管理体制を構築する
  • 部門間で情報を共有する
  • 監査に関する条項を盛り込む

それぞれの対策について詳しく解説します。

 

■社内規程を整備する

社内規程で委託先の選定基準や契約内容の確認手順、業務の進捗管理方法などを明文化することで、従業員が適切な判断を下すための助けとなり、業務委託における不備やトラブルを未然に防ぐことが可能です。

また、社内規程は法令遵守の観点からも欠かせません。個人情報保護法や労働基準法など、関連する法律に基づいた規程を整備することで、法的リスクを最小限に抑えることができます。規程の整備は一度きりではなく、法改正や業務内容の変化に応じて定期的に見直すことが重要です。

さらに、社内規程が整備されていることで、委託先とのトラブルが発生した際にも迅速に対応できます。例えば、契約違反や業務不履行があった場合、規程に基づいて適切な措置を講じることが可能です。

 

■管理体制を構築する

管理体制を整えることで、委託先の業務進捗や品質を適切に把握し、問題が発生した際に迅速に対応できます。委託先との定期的なミーティングや報告会を設け、進捗状況や問題点を共有するようにしましょう。委託先の業務が適正に行われているかを定期的に監査し、必要に応じて改善指導を行うことも管理体制の一環です。

 

■部門間で情報を共有する

部門間での情報共有が不十分だと、委託先の動向やリスクを把握しきれず、結果として監督責任を果たせない可能性があります。情報共有を円滑にするためには、リアルタイムで情報を更新・共有できるクラウドベースのシステムを活用するなど、各部門が持つ情報を一元化する仕組みを整えることが重要です。

また、定期的なミーティングを設定し、各部門の担当者が直接情報を交換する場を設けることで、部門間での情報の行き違いを防ぐことができます。さらに、情報共有の重要性を社内で啓発し、全員がその意義を理解することも重要です。

 

■監査に関する条項を盛り込む

業務委託契約書に監査条項を設けることで、委託先が契約内容を適切に履行しているかを定期的に確認でき、リスクの早期発見や是正ができます。

監査条項には、監査の頻度や方法、監査結果に基づく改善措置の義務などを具体的に明記します。監査を実施する際には、委託先に対する事前通知の有無や、監査にかかる費用負担についても事前に取り決めておくと良いでしょう。

また、監査の結果に基づいて委託先の業務改善を促すことで、委託先との関係をより強固にし、信頼関係を築くことができます。

 

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4. 業種別委託先監督のポイント

■個人情報取扱業務を委託する場合

個人情報取扱業務を委託する場合には、法的リスクを最小限に抑えるために、まず委託先の選定が重要です。個人情報保護法に基づき、委託先が適切な管理体制を整えているかを確認しなければなりません。委託先がプライバシーマークを取得しているか、情報セキュリティ体制の認証を受けているかなどをチェックすることが推奨されます。

次に、委託契約書には、個人情報の取り扱いに関する具体的な条項を盛り込むことが不可欠です。これには、情報の利用目的や第三者提供の制限、情報漏えい時の対応策などが含まれます。

また、定期的な監査を実施し、委託先の業務が適切に行われているかを確認することも重要です。監査結果をもとに、必要に応じて契約内容の見直しや改善を図ることが求められます。

 

■システム開発を委託する場合

システム開発を委託する場合、委託先が適切に業務を遂行できるよう監視し、品質や納期の管理を徹底する必要があります。監督責任を怠ると、システムの不具合や納期遅延などの問題が発生し、最終的な成果物の品質に影響を及ぼし、顧客満足度の低下や信頼の失墜につながるリスクがあります。委託先のセキュリティ対策状況やISMS認証の取得状況、BCP対策の有効性についても確認しておきましょう。

また、契約書に監督権限や品質基準を盛り込むことで、委託先が基準を満たすように指導することが可能です。

 

■製造を委託する場合

製造業では、製品の品質が事業の成否に大きく影響を与えるため、品質マネジメントシステムの運用状況や安全管理に関する法令の遵守状況を詳細に確認し、信頼性の高い企業を選ぶことが求められます。契約書には製品の品質基準や納期、責任範囲を明確に記載し、製造プロセスの定期的な現場訪問や進捗報告を義務付けることが重要です。

 

 

5. 委託先の監督責任を問われた場合の対応

■関連機関への報告と本人への通知

個人情報が漏えいした場合は、個人情報保護委員会などの関連機関に報告する必要があります。報告する際には、発生した事態の詳細や影響範囲を正確に伝えることが重要です。

また、影響を受けた本人への通知も欠かせません。通知の際には、どのような情報が漏えいしたのか、どのような影響が考えられるのか、そして今後の対応策について具体的に説明することが求められます。

 

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■再発防止のための体制見直しポイント

問題が発生した際には、状況を詳細に分析し、原因を明確にすることが重要です。

また、社内での監督体制を強化するために、担当者の教育や研修を行い、監督の重要性や具体的な方法を徹底させることも重要です。適切な教育を通じて、担当者の意識を高めることができます。

 

 

6. まとめ

今回は、業務委託を行う際の委託先に対する監督責任や法的リスク、管理体制の構築方法について解説しました。

委託先に対する適切な監督体制を構築することにより、法的リスクを最小限に抑え、企業の信用を守ることができます。

本記事で解説した委託先に対する監督責任を果たすために必要な対策を参考に、業務委託における監督体制を見直し、より安心できる環境を整えましょう

 

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