介護施設におけるリスクマネジメント実践ステップと事例を解説

「介護の現場で事故が起きたらどうしよう」「リスクをどう管理すればいいのか不安」と感じている方もいるのではないでしょうか。

介護の現場で事故やヒヤリハットを未然に防ぎ、利用者の安全を確保するためには、リスクマネジメントの実施が欠かせません。

介護者スタッフの負担も軽減され、安心して業務に取り組むことができるでしょう。

本記事では、介護現場でリスクマネジメントが必要な理由や介護施設の事故やヒヤリハットの事例、リスクマネジメント実践ステップについて詳しく解説します。

1. 介護におけるリスクマネジメントとは

介護におけるリスクマネジメントとは、介護施設での事故やインシデント、ヒヤリハットを未然に防ぎ、利用者の安全とスタッフの働きやすさを確保するための仕組みです。介護施設では高齢者や身体が不自由な方が多く、日常的にさまざまなリスクが存在します。このため、リスクマネジメントが非常に重要な役割を果たすわけです。

介護施設にリスクマネジメントを導入することで、事故の発生を減少させるだけでなく、万一の際でも迅速に対応することができます。また、スタッフが安心して働ける環境を整えることにもつながるため、介護の質が向上し、利用者の満足度も高まるでしょう。

介護におけるリスクマネジメントでは、介護施設での転倒事故や誤薬といった具体的な事例を分析し、リスクを事前に把握することが求められます。また、ヒヤリハット事例を積極的に共有し、全スタッフで対策を講じることも重要です。

 

■リスクマネジメントとは

リスクマネジメントとは、発生し得る問題を未然に防ぐために実施する計画や対策です。

リスクの特定からリスクの評価、対策の実施、効果の評価までのプロセスを実施することで、トラブルを未然に防ぐことができます。また、リスクマネジメントは一度実施したら終わりではありません。継続的に見直し、改善を図ることで、リスクを管理する必要があります。

 

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■インシデントとは

介護現場におけるインシデントとは、重大な事故には至らなかったものの、事故に繋がる可能性があった出来事です。たとえば、介護スタッフが利用者を移動させる際に、手を滑らせそうになったが、幸いにも転倒や怪我には至らなかった場合などが該当します。インシデントを報告・記録し、分析することで、重大な事故を未然に防ぐことが可能です。

インシデントの報告は、介護現場の安全性を高めるために欠かせません。インシデントの記録は同じような状況での事故を防ぐための貴重なデータとなるため、介護スタッフ全員が積極的にインシデントを報告し、共有することが重要です。また、インシデントを適切に管理することで、介護現場全体のリスクマネジメントが強化され、利用者の安全が確保されます。

 

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■ヒヤリハットとは

ヒヤリハットとは、事故には至らなかったものの、事故が起きてもおかしくない状況や出来事です。例えば、利用者が歩行中にふらついて転倒しそうになったり、食事中に誤嚥しそうになったりする場面がヒヤリハットに該当します。介護現場では日常的にさまざまなヒヤリハットが発生しているため、事故を未然に防ぐためにはヒヤリハットをしっかりと記録し分析することが重要です。

ヒヤリハットが発生した際には、具体的な状況や利用者の状態、職員の対応などを詳細に記録します。介護職員が日々の業務の中で気づいたことを簡単にメモするだけでも効果的です。

 

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2. 介護現場でリスクマネジメントが必要な理由

介護現場でリスクマネジメントが必要な理由は以下の3つです。

  • 事故やヒヤリハットを未然に防ぐため
  • 従業員の労働環境を整えるため
  • 事故による訴訟を回避するため

それぞれの理由について詳しく解説します。

 

■事故やヒヤリハットを未然に防ぐため

介護現場でリスクマネジメントが必要な1つ目の理由は、事故やヒヤリハットを未然に防ぐためです。

介護施設では、利用者が転倒したり誤嚥したりするなど、さまざまな事故やヒヤリハットが発生しています。事故やヒヤリハットを未然に防ぐためには、日常の業務の中で事故やヒヤリハットを予測し、事前に対策を講じることが重要です。

例えば、滑りやすい床や段差のある場所を改善することで、利用者が安全に移動できるようになります。また、介護スタッフは施設の状態を観察し、異常があればすぐに対応できるように準備しておくことが大切です。

さらに、スタッフ間で過去の事例を共有し、同じような事故が起きないように注意喚起を行うことで、リスクを減少させることができます。

 

■従業員の労働環境を整えるため

介護現場でリスクマネジメントが必要な2つ目の理由は、従業員の労働環境を整えるためです。

従業員が介護事故に巻き込まれると、利用者だけでなく従業員の健康やモチベーションに悪影響を及ぼす可能性があります。リスクマネジメントを通じて、従業員が安全かつ安心して働ける環境を整えることが重要です。

 

■事故による訴訟を回避するため

介護現場でリスクマネジメントが必要な3つ目の理由は、事故による訴訟を回避するためです。

高齢者や要介護者が生活する介護施設では転倒や誤嚥、誤薬など、日常のケア中に起こりうる事故が発生しやすいため、訴訟の原因となることがあります。訴訟は介護施設の信用を損なうだけでなく経済的な負担も大きいため、リスクマネジメントによって未然に防ぐことが重要です。

 

 

3. 介護施設の事故やヒヤリハットの事例

介護施設で発生する頻度が高い事故やヒヤリハットの事例は以下の通りです。

  • 浴室での転倒
  • ベッドや車椅子からの転落
  • 食事中の誤嚥や窒息
  • 誤薬

それぞれの事例について詳しく解説します。

 

■浴室での転倒

高齢者は筋力やバランス感覚が低下しているため、滑りやすい浴室では特に注意が必要です。浴室での転倒事故を未然に防ぐためには、浴室の床には滑り止めマットを敷くことが推奨されます。また、浴室内に手すりを設置し、利用者が体を支えやすくすることも有効です。

次に、利用者が立ち上がる際や移動する際に介護スタッフがサポートすることで、転倒のリスクを大幅に減らせます。さらに、浴室内の照明を明るく保ち、視界を確保することも忘れてはいけません。視界が良好であれば、利用者自身が周囲の状況を把握しやすくなります。

 

■ベッドや車椅子からの転落

高齢者や身体が不自由な方にとって、ベッドや車椅子からの転落は大きな怪我や骨折を引き起こす可能性があります。

ベッドや車椅子からの転落事故を防ぐためには、利用者の身体状態を定期的にチェックし、必要に応じてベッド柵や車椅子用の安全ベルトを使用することが重要です。また、介護スタッフは利用者の動きに注意を払い、転落のリスクが高い場面では特に目を離さないようにしましょう。さらに、利用者の体調や環境の変化に即応できるよう、スタッフ間で情報を共有し、連携を強化することも欠かせません。

 

■食事中の誤嚥や窒息

高齢者や飲み込み機能が低下している方は、食べ物や飲み物が誤って気道に入ることで窒息する危険性があります。誤嚥が続いて肺炎を引き起こすと、命に関わる事態に発展するかもしれません。

食事中の誤嚥や窒息を軽減するためには、食事の際の姿勢に注意することが重要です。椅子に深く腰掛け、背筋を伸ばした状態で食事してもらうことで、誤嚥のリスクを減らすことができます。また、食事中は急がず、一口ずつゆっくり食べるように指導することも大切です。さらに、固形物を細かく刻んだりゼリー状にしたりすることで、飲み込みやすくなります。

 

■誤薬

複数の利用者に対して薬を管理する介護施設では、似たような名前の薬や見た目が似ている薬が混在することが原因で誤薬が発生することがあります。誤薬は介護の現場では命に関わるため、細心の注意が必要です。

薬を投与する際には、複数のスタッフで確認する体制を整えるようにしましょう。薬の管理システムを導入し、各利用者ごとに薬のリストをしっかりと管理するのも効果的です。

また、予防策だけでなく、万が一誤薬が発生した場合の対応手順を明確にしておくことも大切です。迅速な対応が可能となるように、スタッフ全員が誤薬の際の対応マニュアルを共有し、定期的に訓練を行うことが求められます。

 

 

4. 介護施設におけるリスクマネジメント実践ステップ

介護施設におけるリスクマネジメントの手順は以下の通りです。

  1. 発生する可能性がある事故を想定する
  2. 過去に発生した事故を確認する
  3. 事故を未然に防ぐための対策を考える
  4. 事故が発生した際の対応手順を決める
  5. 対策をスタッフで共有する

それぞれの手順について詳しく解説します。

 

■発生する可能性がある事故を想定する

介護現場でのリスクマネジメントを効果的に行うためには、発生する可能性がある事故を想定することが重要です。

事前に想定しておくことで、事故を防ぐための具体的な対策を講じることができます。例えば、浴室では滑り止めマットを使用したり、食事中には誤嚥防止のための嚥下訓練を取り入れたりするなど、事故を想定した対策を実施するわけです。

 

■過去に発生した事故を確認する

過去に発生した事故を確認することで、同じような事故が再発するのを防ぐことができます。

具体的には、浴室での転倒やベッドからの転落、食事中の誤嚥など、過去の事故やヒヤリハットの記録を活用して、どのような状況で事故が起きやすいかを分析します。これらの事例をもとに、どのような場面でどのような事故が起こり得るのかを具体的に想定するわけです。

例えば、過去に浴室での転倒事故が発生していた場合、その原因が床の滑りやすさにあったのか、介助方法に問題があったのかを特定します。原因を特定することで、滑り止めマットの導入や介助方法の見直しといった具体的な対策を講じることができるわけです。また、事故が発生した時間帯や介助者の状況なども確認し、リスクの高い時間帯や状況も特定しておきましょう。

 

■事故を未然に防ぐための対策を考える

事故を未然に防ぐためには、施設内の環境を見直し、危険箇所を特定することが重要です。例えば、浴室の床が滑りやすいかもしれないと感じた場合は、滑り止めマットの設置や定期的な清掃を徹底することで、転倒事故のリスクを減らせます。

次に、スタッフの教育も欠かせません。介護技術やリスクマネジメントに関する研修を定期的に実施し、スタッフ全員が最新の知識を共有できるようにします。また、緊急時の対応方法をシミュレーションすることも有効です。実際の場面で落ち着いて行動できるよう、日頃から訓練を積んでおくことが大切です。

 

■事故が発生した際の対応手順を決める

事故が発生した際に迅速かつ適切な対応ができるようにするためには、事前に具体的な手順を明確にしておく必要があります。事故が発生した場合、最初に行うべきは利用者の安全を確保することです。例えば、転倒した場合には、無理に動かさずに怪我の有無を確認し、必要に応じて医療機関への連絡を行います。

次に、現場の状況を把握し、他のスタッフに速やかに報告します。そして、事故の詳細を記録し、原因を特定することが重要です。さらに、家族や関係機関への報告も忘れずに行います。

これらの手順をスタッフ全員で共有し、定期的に見直すことで、介護現場でのリスクを最小限に抑えることができます。

 

■対策をスタッフで共有する

介護現場での事故を未然に防ぐためには、全員で情報を共有し、同じ意識で行動することが重要です。介護現場はチームで動いているため、情報の共有が不十分だと、どれだけ優れた対策を立てても現場での効果は薄れてしまうでしょう。

具体的な共有方法としては、定期的なスタッフミーティングの開催があります。また、実際に発生した事故やヒヤリハットの情報を文書化し、いつでも確認できるようにすることも大切です。文書化することで、スタッフが後からでも確認でき、スムーズに対応することができます。

 

 

5. 介護現場で事故やヒヤリハットが発生した際の対応方法

実際に介護現場で事故やヒヤリハットが発生した際の対応手順は以下の通りです。

  1. 状況に応じて適切に対応
  2. 家族への報告
  3. 関係機関への報告
  4. 原因調査と記録

それぞれの手順について詳しく解説します。

 

■状況に応じて適切に対応

介護現場で事故やヒヤリハットが発生した際には、冷静に状況を把握し、状況に応じて適切に対応することが重要です。迅速に現場の安全を確保し、負傷者がいる場合は応急処置を行います。必要に応じて、医療機関に連絡を取ることも重要です。さらに、事故の影響が広がらないように、他の利用者やスタッフに対しても情報を共有します。

 

■家族への報告

家族は大切な介護者の状態を常に気にかけているため、事故が起きた際には迅速かつ誠実な報告が求められます。

報告の際は、事実を正確に伝えることが最優先です。事故の発生時刻や場所、状況、どのような対応を行ったのかを具体的に説明しましょう。感情的にならず、冷静に事実を伝えることが信頼につながります。また、家族が質問をした場合には、誠実に答える姿勢が大切です。わからないことは無理に答えず、確認後に返答することを約束しましょう。報告後も定期的に家族とコミュニケーションを取り、状況の変化や新たな情報があれば随時報告することが望ましいです。

 

■関係機関への報告

命にかかわる重大な事故が発生した場合、医療機関への迅速な連絡が必要です。適切な医療処置を受けることで、利用者の健康を守ることができます。また、食中毒が発生した場合には、保健所への報告も必要です。万が一事故で死亡した場合には、警察へ報告しなければいけません。

 

■原因調査と記録

事故の原因を明らかにすることで、同じような事故を防ぐための具体的な対策が立てられます。例えば、転倒事故があった場合、その原因が床の滑りやすさにあるのか、利用者の体調にあったのかを調べるわけです。

原因調査を行う際には、関係者への聞き取りや現場の状況確認が欠かせません。目撃者がいる場合は、当時の状況を詳しく聞き取ることで、より正確な情報を得ることができます。また、事故が起きた現場の状況を写真に撮るなど、視覚的な記録を残すことも有効です。

次に、事故の詳細な記録を残すようにしましょう。記録には、事故の日時や場所、状況、関係者の証言、考えられる原因を記入します。後日同様の事故が発生した際に迅速に対応できるだけでなく、施設全体としての安全対策を見直す際の貴重な資料となります。

 

 

6. まとめ

今回は、介護現場でリスクマネジメントが必要な理由や介護施設の事故やヒヤリハットの事例、リスクマネジメント実践ステップについて解説しました。

介護施設におけるリスクマネジメントは、利用者の安全を確保するための重要な手段です。

リスクマネジメントをしっかりと実践することで事故を未然に防ぐことができ、スタッフが安心して働ける環境を作ることも可能です。

本記事で解説したリスクマネジメント実践ステップを参考に、介護施設のリスクマネジメントを見直し、より安全な介護を提供するための一歩を踏み出してみましょう。

 

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