偽装請負という言葉を耳にすることが増えたものの、具体的に何を指すのか、どのような問題があるのかが分からないのではないでしょうか。
外部企業へ業務を委託する際には、偽装請負の基本的な概念や違法性について詳しく知ることが重要です。本記事では、偽装請負の概要から違法性の判断基準、罰則まで詳しく解説します。
1. 偽装請負とは
偽装請負とは、業務委託契約や労働者派遣契約を装いながら、実際には法律で定められた契約形態を逸脱し、労働者を不正に働かせている状態です。具体的には、企業が業務委託契約を結んでいるにもかかわらず、実際には労働者に対して指揮命令を行い、労働時間や業務内容を細かく指定するケースが挙げられます。
偽装請負は労働者派遣法や労働基準法に違反する可能性があり、企業や労働者双方にとってリスクが伴う問題です。偽装請負は労働者が正当な権利や報酬を得られない状況を生み出し、企業にとっても法的な罰則や社会的信用の失墜につながるため、偽装請負になっていないか確認する必要があります。
偽装請負が問題となる理由は、労働者の権利を守るための法律が無視されることにあります。例えば、労働者が業務委託契約の名の下で実際には指揮命令を受けながら働いている場合、その労働者は本来の雇用契約に基づく保護を受けられません。また、企業が労働者派遣の形態をとっているにもかかわらず、偽装請負を行うことで、社会保険や労働条件の整備を怠るリスクがあります。
■業務委託契約とは
業務委託契約とは、特定の業務を第三者に委託する契約のことです。委託者は業務の成果を受け取ることができますが、業務の遂行方法や進行状況に関して具体的な指示を出すことはありません。つまり、業務の進め方や手段は受託者に委ねられ、受託者が成果物を納品することで契約が完了するわけです。
業務委託契約の主な特徴として、受託者が独立して業務を遂行することが挙げられます。例えば、Webサイトのデザインやシステム開発など、専門的なスキルが求められる業務では、この契約形態が適しています。受託者は自身の裁量で業務を進めることができ、委託者からの指示は基本的に受けません。
ただし、業務委託契約と労働契約の違いを理解していないと、偽装請負の問題が発生することがあります。偽装請負を防ぐためには、契約内容を明確にし、受託者が独立して業務を行える環境を整えることが重要です。
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■労働者派遣とは
労働者派遣とは、企業が自社の社員を他の企業に派遣し、その企業の指揮命令の下で働かせる形態のことを指します。労働者派遣では派遣先企業が直接雇用するのではなく、派遣元企業が労働者を雇用し、派遣先企業に労働力を提供する仕組みです。
労働者派遣は、派遣元企業と派遣労働者の間で雇用契約が結ばれますが、実際に働く場所や業務内容については派遣先企業が指示を出します。派遣労働者は派遣先企業での業務に従事することになりますが、雇用関係は派遣元企業との間にあるため、給与の支払いや社会保険の手続きなどは、派遣元企業が行います。
労働者派遣は、企業が必要なスキルを持つ人材を柔軟に確保できるメリットがありますが、派遣先企業と派遣元企業の間で労働条件や指揮命令系統が明確であることが重要です。
■業務委託契約と労働者派遣の違い
業務委託契約と労働者派遣の違いは、契約形態や業務指示の有無にあります。業務委託契約では、請負業者が独立した立場で業務を遂行し、成果物を提供します。つまり、業務の進め方や手順については、請負業者自身が決定し、自由に行動できるわけです。一方、労働者派遣では、派遣先企業の指揮命令のもとで業務を行います。
2. 偽装請負が発生する背景
偽装請負が発生する背景には、企業の経費削減や人手不足の問題が大きく関与しています。正社員を雇用するのではなく外部の業者に業務を委託することで、社会保険料や福利厚生費を削減しようとするわけです。
また、企業が偽装請負を意図せず行ってしまう背景には、法令の理解不足や契約内容の不備が挙げられます。特に中小企業では法的なアドバイスを受ける機会が限られているため、契約の管理が不十分になりがちです。また、業務の効率化を図るために指揮命令系統を明確にせずに業務を進めてしまうことも、偽装請負を引き起こす要因となります。
例えば、企業が外部の業者に業務を委託した際に、その業者の従業員に直接指示を出すような状況が発生すると、偽装請負と判断される可能性があります。このようなケースでは、業務委託の本来の目的を逸脱しており、法的な問題に発展することがあります。
■意図せず偽装請負になっているケース
偽装請負には、意図せず偽装請負になってしまうケースがあります。これは、企業が業務委託契約を結んでいるつもりでも、実際には労働者派遣の形式になってしまうことがあるためです。例えば、請負契約のはずが、実際には指揮命令を受けて業務を行っている場合、それは労働者派遣とみなされることがあります。
このような状況が生じる理由の一つは、契約内容の理解不足です。企業や請負業者が契約書の内容や法律の違いを十分に理解していない場合、意図せずに契約形態が変わってしまうことがあります。また、業務の現場での運用が契約書の内容と異なっている場合も、偽装請負とみなされるリスクが高まります。
さらに、業務の効率化やコスト削減を優先するあまり、契約形態の確認が疎かになることも背景にあります。意図せず偽装請負にならないためには、契約内容を正確に理解し、業務の運用が契約書と一致しているかを定期的に確認することが重要です。
■偽装請負を認識しているケース
偽装請負では、企業が意図的に法律を無視しているケースもあります。例えば、企業がコスト削減や人手不足の解消を目的に、労働者を派遣社員としてではなく、請負契約の形を装って業務を行わせている場合です。この場合、企業は本来の派遣契約に必要な手続きを避けることができ、派遣法で定められた制約を回避しようとします。
このような状況では、労働者に対する指揮命令が企業から直接行われることが多く、業務の遂行方法や勤務時間についても企業が細かく指示を出すケースがあります。
また、企業が業務の管理や備品の提供を行っている場合も、偽装請負の判断材料となります。これらは本来、請負業者が自らの責任で行うべきものであり、企業が関与することで請負契約の本質が損なわれます。
3. 偽装請負の種類
偽装請負の種類は以下の4つです。
- 代表型
- 形式だけ責任者型
- 使用者不明型
- 一人請負型
それぞれの具体的な内容について詳しく解説します。
■代表型
代表型の偽装請負とは、業務を外部の請負業者に委託しているように見せかけながら、実際にはその業務を自社の指揮命令下で行わせる形態を指します。見た目は請負契約であるものの、実質的には労働者派遣に近い形態となっています。
■形式だけ責任者型
形式だけ責任者型とは、請負業者が形式上の責任者を置いているものの、その責任者が実質的な指揮命令を行わず、実際の業務指示は発注者側が直接行っている状態です。労働者は発注者の指示を受けて働くことになり、実質的には派遣労働と同じ状況が生まれます。
■使用者不明型
使用者不明型の偽装請負は、労働者が実際に誰の指揮命令の下で働いているのかが曖昧な状態を指します。つまり、労働者が業務を行う際に、どの企業が実際の使用者であるかがはっきりしないケースです。複数の企業が関与するプロジェクトで発生しやすく、労働者の混乱を招くことがあります。
■一人請負型
一人請負型とは、労働者を斡旋する企業と労働者が請負契約を締結したうえで、労働者を斡旋された企業と労働者が請負契約を締結し、企業の指揮命令のもとで働いているケースです。
4. 偽装請負の問題点
偽装請負の問題点は以下の3つです。
- 労働者の権利が保護されない
- 責任の所在が曖昧になる
- 正当な報酬が受け取れない
それぞれの問題点について詳しく解説します。
■労働者の権利が保護されない
偽装請負の1つ目の問題点は、労働者の権利が保護されないことです。
実際には労働者派遣と同じような状態になっているものの、形式上は業務委託契約を結んでいるため、労働者は労働基準法に基づく権利を享受できません。また過剰な労働が発生しやすく、労働環境が悪化することも少なくありません。
さらに、労働者が社会保険や労災保険の適用を受けられず、怪我や病気の際に十分な保障を受けられないというリスクが生じます。
■責任の所在が曖昧になる
偽装請負の2つ目の問題点は、責任の所在が曖昧になることです。
偽装請負では、労働者が直接指揮命令を受ける企業と契約を結んでいないため、労働者が不当な扱いを受けた場合や事故が発生した場合に、誰が責任を取るべきかが不明確になります。例えば、労働者が業務中に怪我をした場合、通常であれば雇用主が労災保険を適用して対応するべきですが、偽装請負の状況では労働者が補償を受けられません。
■正当な報酬が受け取れない
偽装請負の3つ目の問題点は、正当な報酬が受け取れないことです。
業務委託契約であれば、労働者は自身のスキルや成果に応じた報酬を受け取ることができます。しかし、偽装請負では、労働者が実際にどのような業務をこなしているかに関わらず、低い報酬で働かされることがあります。さらに、偽装請負では、労働者は労働基準法で定められた最低賃金や残業代の支払いを受けられない場合があります。
5. 偽装請負の判断基準
偽装請負の判断基準は以下の4つです。
- 指揮命令関係にあるか
- 業務管理を誰が行っているか
- 業務に必要な備品などの提供を受けているか
- 単なる肉体的な労働力の提供になっていないか
それぞれの判断基準について詳しく解説します。
■指揮命令関係にあるか
偽装請負の1つ目の判断基準は、指揮命令関係にあるかです。
請負契約であるにも関わらず実際には発注者が直接指示を出している場合、実質的には労働者派遣と同じ状態になるため、偽装請負とみなされる恐れがあります。
労働者派遣とは、派遣元の企業が労働者を派遣先に送り、派遣先の指示のもとで業務を行う形態です。指揮命令関係があるかどうかは、労働者派遣と請負契約を区別する重要な要素となります。
偽装請負を避けるためには、請負業者が自らの責任で業務を遂行し、発注者が直接業務の指示を出さないようにすることが求められます。
■業務管理を誰が行っているか
偽装請負の2つ目の判断基準は、業務管理を誰が行っているかです。
業務管理とは、日々の業務における指示や進捗管理、成果物のチェックなどのことを指します。業務委託契約の形を取っているにもかかわらず、業務管理を発注者側が行っている場合、偽装請負と見なされる可能性があります。
労働者が派遣元から派遣先に派遣され、派遣先の指揮命令のもとで働く労働者派遣では派遣先が業務管理を行うのが通常ですが、業務委託では委託先が自主的に業務を遂行します。
業務管理を誰が行っているかが問題となるのは、発注者が労働者を直接管理している状態が、実質的に労働者派遣と変わらないからです。
業務委託契約を結ぶ際には、業務管理を委託先が主体的に行い、発注者が過度に介入しないようにしましょう。
■業務に必要な備品などの提供を受けているか
偽装請負の3つ目の判断基準は、業務に必要な備品などの提供を受けているかです。
請負契約では、業務を遂行するための備品や道具は請負業者自身が用意します。これに対し、労働者派遣の場合は、派遣先が必要な備品を提供することが一般的です。この違いが、偽装請負の判断において重要なポイントとなります。
例えば、請負業者が自社でパソコンやソフトウェアを準備し、業務を行っているのであれば、請負契約として適切である可能性が高いです。しかし、実際には発注者がこれらの備品を提供し、指示に従って業務を行っている場合、実質的には労働者派遣と同様の状況になっている可能性があります。
このようなケースを避けるためには、契約内容を明確にし、業務に必要な備品の提供についても双方で合意を確認することが重要です。契約書に備品提供の詳細を記載し、どちらがどのような備品を用意するのかをはっきりさせることで、偽装請負のリスクを減らすことができます。
■単なる肉体的な労働力の提供になっていないか
偽装請負の4つ目の判断基準は、単なる肉体的な労働力の提供になっていないかです。
請負契約であれば、受託者が業務の遂行方法を自ら決定し、責任を持って完了させることが可能です。しかし、単なる肉体的な労働力の提供になっている場合、受託者が自律的に業務を行うことができないため、偽装請負と判断される可能性が高まります。
6. 偽装請負の法的な罰則
■労働者派遣法違反の罰則
偽装請負は、見た目は業務委託の形を取っているものの、実際には労働者派遣と同様の指揮命令関係が存在する状態を指します。このような状態は、労働者派遣法違反と見なされる可能性が高いです。
労働者派遣法は、労働者の権利を守るために制定された法律であり、違反すると罰金や懲役刑に処される可能性があります。例えば、違法な派遣を行った場合、「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」が科されることがあります。
次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金に処する。 一 第四条第一項又は第十五条の規定に違反した者 二 第五条第一項の許可を受けないで労働者派遣事業を行つた者 三 偽りその他不正の行為により第五条第一項の許可又は第十条第二項の規定による許可の有効期間の更新を受けた者 四 第十四条第二項の規定による処分に違反した者
引用:労働者派遣法59条 |
■労働基準法違反の罰則
労働時間や休憩、賃金の支払いなどが規定されている労働基準法では、いわゆる中間搾取が禁止されています。
何人も、法律に基いて許される場合の外、業として他人の就業に介入して利益を得てはならない。
引用:労働基準法6条 |
偽装請負によって実際には派遣労働のような形態で働いているにもかかわらず労働基準法に基づく労働条件が適用されていない場合、中間搾取とみなされ、「1年以下の懲役又は50万円以下の罰金」が課されることがあります。
第六条、第五十六条、第六十三条又は第六十四条の二の規定に違反した者は、一年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。
引用:労働基準法118条 |
■職業安定法違反の罰則
職業安定法は、労働者の職業安定を図るために、職業紹介事業や労働者派遣事業の適正な運営を確保することを目的としています。職業紹介事業を行う場合は、必ず厚生労働省の許可を得ることが必要です。また、労働者派遣を行う際にも、派遣元と派遣先の間で適切な契約を結ぶことが求められます。
無許可で職業紹介事業を行ったり適正な手続きなしに労働者を派遣したりすると、違法な労働者供給事業であるとみなされ、「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」が科せられる恐れがあります。
何人も、次条に規定する場合を除くほか、労働者供給事業を行い、又はその労働者供給事業を行う者から供給される労働者を自らの指揮命令の下に労働させてはならない。
引用:職業安定法第44条 |
次の各号のいずれかに該当するときは、その違反行為をした者は、一年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金に処する。
引用:職業安定法64条10号 |
7. 偽装請負を避けるための対策
■請負業者側の予防策
請負業者側が偽装請負を避けるためには、契約内容を明確にし、業務の範囲や責任を文書化しておくことが重要です。契約書には業務の具体的な内容や遂行方法、納期、報酬の支払い条件などを詳細に記載し、双方の理解を一致させておきましょう。
次に、請負業者は独立した立場で業務を遂行し、注文主からの直接的な指示を受けないようにすることが求められます。ただし、業務の進捗状況を定期的に報告し、透明性を確保することが重要です。さらに、業務の遂行に必要な備品や設備は、原則として請負業者が自ら用意するようにしましょう。
■注文主側の予防策
注文主側が偽装請負を避けるためには、業務委託契約の内容を明確にし、業務の範囲や責任を具体的に定めることが重要です。契約書には、業務の詳細や納期、報酬、責任の範囲を明確に記載し、労働者派遣と誤解されないようにしましょう。
次に、業務の管理を行う際には、請負業者の自主性を尊重することが求められます。直接的な指揮命令を行うと偽装請負とみなされる可能性があるため、業務の進行状況や成果物の確認に留め、具体的な指示は避けるべきです。
また、業務に必要な備品や設備の提供についても注意が必要です。注文主が備品を提供する場合は、業務委託の範囲内であることを確認し、提供内容が過度にならないように配慮しましょう。
8. まとめ
今回は、偽装請負の概要や違法性の判断基準、罰則について解説しました。
偽装請負とは、業務委託契約を締結しているにもかかわらず、委託元が委託先に対して指揮命令を行っている状態を指します。偽装請負は法律に反する行為であり、労働者の権利を侵害する可能性があります。
本記事で解説した偽装請負の概要や違法性の判断基準、罰則を参考に偽装請負についての理解を深め、適切な対応を心がけるようにしましょう。
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