「業務委託契約書はどのような目的で作成する書類なのか」「業務委託契約書には何を記載するのか」「収入印紙は必要なのか」など、業務委託契約書に関して疑問を抱えているのではないでしょうか?
本記事では、業務委託契約書の概要から記載する項目、作成する際の注意点、収入印紙が必要なケースまで詳しく解説します。
1. 業務委託契約書とは
業務委託契約書とは、委託(受託)する業務内容や支払い条件、報酬、契約期間などが記載された書類です。
業務委託契約(請負契約・委任契約・準委任契約)を締結する際に、委託側と受託側が業務委託契約書を取り交わします。業務委託契約書に記載された内容を委託側と受託側の双方が確認し、双方が合意したうえで書類に署名・捺印することで、手続きは完了です。
業務委託契約書には法的な定めがないので、民法などの法律の規定に縛られずに自由に内容を決めることができます。ただし、契約内容に「使用従属性」が認められる場合、業務委託契約と認められず、雇用契約だと判断される恐れがあります。
■業務委託契約書を作成する目的
業務委託契約書を作成する目的は、契約上のトラブルを回避することです。
業務委託契約書を作成しなくても、委託側と受託側の合意があれば口頭やメールなどのやり取りだけで業務委託契約自体は成立します。
しかし、口頭のやり取りだけで業務委託契約を締結した場合、言った・言わないのトラブルになる恐れがあります。メールなどで業務委託契約を締結した場合でも、契約内容の詳細な部分について双方の認識が異なっていたり、忘れてしまったりすることもあるでしょう。
契約内容を業務委託契約書として明文化することで契約を締結した後で双方がすぐに契約内容を確認することができ、契約上のトラブルを未然に防ぐことができます。
■業務委託契約書は誰が作るのか
業務委託契約書は、委託側と受託側のどちらが作成しても問題ありません。
業務委託契約を締結する際は、委託する側が業務委託契約書を作成するケースが一般的です。作成した業務委託契約書の内容を確認し、委託側と受託側の双方が合意できなければ、作り直すこともあります。
ただし、収入印紙が必要な業務委託契約書の場合、印紙税法で契約書の作成者に印紙税を納める義務が定められて(印紙税法第3条1項)いるため、一般的に委託側が業務委託契約書を作成します。
業務委託契約書に収入印紙が必要なケースについては後述します。
2. 業務委託契約書に記載する主な項目
業務委託契約書に記載する主な項目は以下の通りです。
記載する項目 |
内容 |
業務内容 |
委託する業務の内容を具体的に記載します。 業務内容が毎月変わる場合には、別途発注書として作成するケースもあります。 |
契約期間 |
業務委託契約の契約期間を記載します。 契約期間を1か月にしておき、双方に異論がない場合には自動的に継続するように定めることも可能です。 |
契約の解除 |
どのような場合に契約を一方的に解除できるのかを記載します。 |
報酬 |
業務委託に対する報酬を定めます。 委任契約の場合は無償が前提となるため、報酬を支払う場合(受け取る場合)には報酬を定める必要があります。 |
報酬の支払方法 |
報酬をどのような方法で支払うのか、どのようなサイクルで支払うのかを記載します。 |
再委託 |
再委託を認めるのか、どのような場合に再委託を許可するのかを記載します。 |
秘密保持 |
業務委託契約書とは別に、秘密保持契約(NDA)を締結するケースもあります。 |
禁止事項 |
業務を実施する上での禁止事項を記載します。 |
反社会的勢力の排除 |
委託者もしくは受託者が反社会的勢力だった場合、反社会的勢力と関係を持っていた場合の契約の解除について記載します。 |
損害賠償 |
業務委託契約において損害が発生した場合の損害賠償請求について記載します。 |
所轄裁判所 |
業務委託契約においてトラブルが発生した場合、どこの裁判所で裁判を行うかを記載します。 |
どのような項目を記載するかは契約内容や業務内容によって変わりますが、トラブルを避けるために最低でも上記項目を記載しておくことをおすすめします。
3. 業務委託契約書を作成する際の注意点
業務委託契約書を作成する際の注意点は以下の3つです。
- 業務内容・契約期間を明確に記載する
- 収入印紙が必要な契約なのかを確認する
- 「偽装請負」にならない内容にする
それぞれの注意点について詳しく解説します。
■業務内容・契約期間を明確に記載する
業務委託契約書を作成する際の1つ目の注意点は、業務内容・契約期間を明確に記載することです。
業務委託契約では、業務委託契約書に記載された業務内容以外を委託することはできません。記載されていない業務を委託する場合には、別途業務委託契約を締結する必要があります。業務委託契約書に記載した業務内容を変更する場合には、受託側の合意の元に契約を破棄し、業務委託契約書を作り直さなければいけません。
また、業務委託契約では契約期間満了後に業務をさせることはできないため、契約期間や自動更新の有無を定めておくことが重要です。
■収入印紙が必要な契約なのかを確認する
業務委託契約書を作成する際の2つ目の注意点は、収入印紙が必要な契約なのかを確認することです。契約期間や契約内容によっては、業務委託契約書に収入印紙を貼付する必要があります。
業務委託契約書の作成者には印紙税を納める義務が定められているため、委託側と受託側のどちらが作成するのかを確認しておきましょう。
■「偽装請負」にならない内容にする
業務委託契約書を作成する際の3つ目の注意点は、「偽装請負」にならない内容にすることです。
委託側と受託側の双方が合意すれば業務委託契約を締結することができますが、委託側が業務に細かい指示を出したり出退勤・勤務時間の管理を行ったりすると「偽装請負」とみなされる恐れがあります。
労働者派遣法や労働基準法などの規制から逃れるために、形式的に業務委託契約書を作成して契約を締結するのは違法です。
参考資料:あなたの使用者はだれですか?偽装請負ってナニ?「厚生労働省」
4. 業務委託契約書に収入印紙が必要なケース
業務委託契約書に収入印紙が必要なケースは以下の2つです。
- 印紙税額一覧表の第2号文書に該当する場合
- 印紙税額一覧表の第7号文書に該当する場合
それぞれのケースと収入印紙の金額について詳しく記載します。
■印紙税額一覧表の第2号文書に該当する場合
業務委託契約書が印紙税額一覧表の第2号文書に該当する場合、業務委託契約書に収入印紙が必要です。業務委託契約書が印紙税額一覧表の第2号文書に該当するのは、請負契約に該当する場合です。
添付する収入印紙の金額は、契約金額に応じて変動します。
記載された契約金額 |
税額 |
1万円未満のもの |
非課税 |
1万円以上100万円以下のもの |
200円 |
100万円を超え200万円以下のもの |
400円 |
200万円を超え300万円以下のもの |
1,000円 |
300万円を超え500万円以下のもの |
2,000円 |
500万円を超え1,000万円以下のもの |
1万円 |
1,000万円を超え5,000万円以下のもの |
2万円 |
5,000万円を超え1億円以下のもの |
6万円 |
1億円を超え5億円以下のもの |
10万円 |
5億円を超え10億円以下のもの |
20万円 |
10億円を超え50億円以下のもの |
40万円 |
50億円を超えるもの |
60万円 |
契約金額の記載のないもの |
200円 |
一方、委任契約及び準委任契約に該当する場合、業務委託契約書は非課税文書となるため収入印紙は不要です。
■印紙税額一覧表の第7号文書に該当する場合
業務委託契約書が印紙税額一覧表の第7号文書に該当する場合、業務委託契約書に4,000円分の収入印紙が必要です。印紙税額一覧表の第7号文書に該当するのは、以下のような契約書です。
(1) 売買取引基本契約書や貨物運送基本契約書、下請基本契約書などのように、営業者間において、売買、売買の委託、運送、運送取扱いまたは請負に関する複数取引を継続的に行うため、その取引に共通する基本的な取引条件のうち、目的物の種類、取扱数量、単価、対価の支払方法、債務不履行の場合の損害賠償の方法または再販売価格のうち1以上の事項を定める契約書(電気又はガスの供給に関するものを除きます。) (2) 代理店契約書などのように、両当事者(営業者には限りません。)間において、売買に関する業務、金融機関の業務、保険契約の締結の代理もしくは媒介の業務または株式の発行もしくは名義書換の事務を継続して委託するため、その委託する業務または事務の範囲または対価の支払方法を定める契約書 (3) その他、金融、証券・商品取引、保険に関する基本契約書のうち、一定のもの (例) 銀行取引約定書、信用取引口座約定約諾書、保険特約書など |
ただし、上記に該当する契約書のうち、契約期間が3か月以内で更新の定めがない契約書は収入印紙を添付する必要ありません。
5. まとめ
今回は、業務委託契約書について解説しました。
業務委託契約で無用なトラブルを避けるためには、業務委託契約書を作成し、業務内容や支払い条件、報酬、契約期間などを明確に記載することが重要です。
本記事で解説した記載する項目、作成する際の注意点、収入印紙が必要なケースを参考に、業務委託契約書を作成しましょう。
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