製造業におけるリスクアセスメントの事例と実施手順を解説

製造業におけるリスクアセスメントは、安全管理の要です。リスクアセスメントを適切に行うことで、事故を未然に防ぎ、従業員の安全を確保することができます。

 

本記事では、製造業におけるリスクアセスメントの重要性や事例、実施手順について解説します。

1. リスクアセスメントとは

リスクアセスメントとは、特定の業務やプロセスにおけるリスクを体系的に特定・評価し、そのリスクを低減するための措置を講じるプロセスです。

製造業では、機械設備の故障や化学物質の取り扱い、労働災害、環境への影響など、多様なリスクが存在します。これらのリスクを軽減し、従業員の安全を確保するためには、リスクアセスメントを行い、具体的な対策を講じることが重要です。

具体的には、製造ラインでの機械故障を防ぐために、定期的な点検やメンテナンスを計画的に実施することが挙げられます。また、化学物質を取り扱う現場では、適切な保護具を使用し、取り扱い手順を明確にすることが重要です

リスクアセスメントは単なる形式的な作業ではなく、組織全体で取り組むべき重要な活動と言えるでしょう。

 

 

■ リスクマネジメントとの違い

リスクマネジメントとリスクアセスメントはどちらもリスクに対処するための重要な手法ですが、目的やプロセスに違いがあります。リスクアセスメントは、特定のリスクを識別し、その影響や発生確率を評価するプロセスです。具体的には、製造業での機械の故障や労働災害、化学物質の取り扱いなどのリスクを洗い出し、そのリスクがどの程度の影響を及ぼすかを見積もります。

一方、リスクマネジメントは、リスクアセスメントで特定されたリスクに対して、どのように管理し、最小化するかを決定する包括的なプロセスです。具体的には、リスクの回避、移転、軽減、受容などの戦略を立て、実行に移します。例えば、機械の故障リスクに対しては定期的なメンテナンスや予備部品の準備を行うことで、リスクを軽減するわけです。

このように、リスクアセスメントはリスクを特定し評価する段階であり、リスクマネジメントではリスクアセスメントの結果をもとに具体的な対策を実施します。

つまり、リスクアセスメントは、リスクマネジメントにおけるプロセスの一部だということです。

 

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■ リスクアセスメントの努力義務

2016年の労働安全衛生法の改正により、企業が化学物質の使用に伴うリスクを評価し、適切な対策を講じることが努力義務として規定されました。一定の危険有害性のある化学物質を製造あるいは取り扱うすべての企業は、化学物質の危険性を評価し、それに基づいてリスクを低減するための措置を講じることが義務付けられています。

この義務は努力義務であり、リスクアセスメントを実施しなくても罰則はありません。ただし、適切な措置を取らなかったことで労働災害が発生した場合、労働基準監督署から指導を受ける可能性があります。

 

第 28 条の2 事業者は、厚生労働省令で定めるところにより、建設物、設備、原材料、

ガス、蒸気、粉じん等による、又は作業行動その他業務に起因する危険性又は有害性

等を調査し、その結果に基づいて、この法律又はこれに基づく命令の規定による措置

を講ずるほか、労働者の危険又は健康障害を防止するため必要な措置を講ずるように

努めなければならない。ただし、当該調査のうち、化学物質、化学物質を含有する製

剤その他の物で労働者の危険又は健康障害を生ずるおそれのあるものに係るもの以外

のものについては、製造業その他厚生労働省令で定める業種に属する事業者に限る。

 

引用:労働安全衛生法第28条の2

 

労働安全衛生法の目的は、職場での危険を未然に防ぐための枠組みを提供し、労働災害の発生を抑制することです。

 

例えば、機械の操作に伴う危険や化学物質の取り扱いによる健康被害のリスクを評価し、それに対する防止策を実施することが求められます。

 

 

■ リスクアセスメントの対象物質

リスクアセスメントの対象物質とされているのは、2025年4月1日時点で約1,600種類です。

2022年12月時点で674物質でしたが、2024年4月には234物質が追加され、約1,600種類の化学物質が対象物質として指定されています。

リスクアセスメントの対象物質の一覧は、厚生労働省の職場のあんぜんサイトでダウンローできます。

 

【参考資料】

化学物質のリスクアセスメント実施支援 – 職場のあんぜんサイト

 

 

2. 製造業におけるリスクアセスメントの重要性

リスクアセスメントの効果は、製造現場で発生し得る危険を事前に特定・評価することで、事故の発生を未然に防ぎ、従業員の安全を確保できることです。また、製品の品質向上や生産効率の改善にもつながります。

製造業では機械の故障や化学物質の取り扱い、労働災害などのリスクが多いため、これらに対する具体的な対策が必要です。リスクアセスメントを実施することで潜在的な危険を事前に特定し、適切な対策を講じることができます。

製造業では労働安全衛生法に基づき事業者がリスクアセスメントを実施する努力義務があるため、法令順守の観点からも重要です。

 

 

3. 製造業におけるリスクアセスメントの事例

■ 機械の故障への対応

製造業においては、故障が発生すると生産ラインが停止し、納期遅延やコスト増加の原因となります。これを防ぐためには、定期的なメンテナンスと予防保全が不可欠です。例えば、機械の使用頻度や負荷に応じたメンテナンススケジュールを作成し、部品の交換や修理を計画的に行うことが挙げられます。また、機械故障の予兆を早期に発見するための振動分析や温度監視など、予知保全技術の導入も効果的です。

 

 

■ 化学物質の適切な取り扱い

化学物質は、適切に管理しないと作業者の健康や安全に重大な影響を及ぼす恐れがあります。リスクアセスメントを行うことで、化学物質の危険性を評価し、適切な対策を講じることが可能です。

具体的には、化学物質の特性や使用量、使用場所を詳細に把握することから始めます。次に、化学物質が作業者にどのような影響を及ぼす可能性があるのかを評価します。

そして、評価の結果に基づき、適切な保護具の提供や換気設備の設置、作業手順の見直し、などの安全対策を策定します。化学物質の取り扱いに関する教育や訓練も重要です。作業者がリスクを理解し、安全に取り扱えるようにすることで、事故の発生を防ぐことができます。さらに、化学物質の管理状況を定期的に見直し、必要に応じて対策を更新することも重要です。

 

 

■ 労働災害の防止

労働災害の防止策として、製造業では作業環境の安全性を確保することが重要です。具体的には、作業場の整理整頓を徹底し、機械や設備が適切に配置されているかを確認します。これにより、作業者が不意に転倒する、機械に巻き込まれる等のリスクを減らすことができます。安全教育や訓練を定期的に実施し、作業者が安全に対する意識を高めることも重要です。

さらに、個人防護具の適切な使用も欠かせません。作業内容に応じたヘルメットや安全靴、手袋などを着用することで、事故の発生を未然に防ぐことができます。

最後に、労働災害が発生した際の迅速な対応体制を整備しておくことも重要です。応急処置の方法や緊急連絡先を明確にし、万が一の事態に備えることで、被害を最小限に抑えることができます。

 

 

■ 環境リスクへの取り組み

環境リスクとは、製造プロセスや製品が環境に与える可能性のある悪影響を指します。具体的には、廃棄物の不適切な処理や有害物質の流出が挙げられます。これらは、環境汚染を引き起こし、企業の評判や法的な問題を招く可能性があります。

製造業では、環境リスクを特定し評価することが重要です。例えば、製造過程で使用する化学物質の特性を把握し、その使用量や廃棄方法を見直すことが求められます。次に、リスクを軽減するための具体的な対策を講じることが重要です。例えば、廃棄物のリサイクルや再利用の促進、クリーンエネルギーの導入などが挙げられます。

 

 

4. 製造業におけるリスクアセスメントの実施手順

製造業におけるリスクアセスメントの実施手順は以下の通りです。

  1. リスクの特定から評価
  2. 対策の策定と実施
  3. 体制の整備

それぞれの手順について詳しく解説します。

 

 

■ リスクの特定から評価

製造業におけるリスクアセスメントの最初のステップは、リスクの特定から評価です。

リスクを特定するためには、製造工程や使用する機械、取り扱う材料を詳細に調査し、どのような危険が潜んでいるかを洗い出す必要があります。例えば、機械の動作による挟まれや巻き込まれ、化学物質の漏えいによる健康被害などが製造業で想定されるリスクです。

次に、特定したリスクを評価します。リスクの評価では、リスクが発生する可能性の高さと、その結果としてどの程度の被害が生じるかを数値化し、リスクの優先順位を決定します。

リスクの特定と評価の段階で重要なのは、関係者全員の意見を取り入れることです。現場の作業員や管理者、技術者が協力してリスクを洗い出すことで、より正確な評価が可能となります。これにより、見落としがちなリスクを発見し、効果的な対策を講じることができるでしょう。

 

 

■ 対策の策定と実施

次に、対策の策定と実施を行います。

 

特定されたリスクに対して、具体的な対策を検討します。例えば、機械の故障リスクに対しては、定期的なメンテナンスの計画を立てることが効果的です。また、化学物質の取り扱いについては、適切な保護具の使用や作業手順の見直しが必要となります。策定した対策を実際に実施する段階では、作業マニュアルの更新や研修の実施など、現場の従業員が理解しやすい形で説明することが重要です。

さらに、対策の効果を確認するためのモニタリングも欠かせません。定期的に対策の効果を評価し、必要に応じて修正を加えることで、リスクの低減を図ります。

 

 

■ 体制の整備

最後に、体制の整備を実施します。

体制の整備では、リスクアセスメントの担当者を決定し、必要なスキルや知識を持つ人材を配置することが重要です。関係者の役割分担を明確にすることで、責任の所在を明確にすることができます。また、定期的なミーティングや情報共有の場を設け、組織全体での協力体制を築くことも効果的です。適切な機器やツールの準備、必要なデータの収集、外部専門家の協力など、リスクアセスメントの実施に必要なリソースの確保も忘れてはいけません。

 

 

5. 製造業におけるリスクアセスメントシートの活用法

リスクアセスメントシートとは、リスクアセスメントを体系的に行うためのツールです。具体的には、作業現場で発生しうる危険性を特定し、そのリスクの大きさを評価し、適切な対策を講じるための情報を記録します。

製造業では、機械の故障や化学物質の取り扱いなど、多様なリスクが存在します。これらを網羅的に洗い出し、リスクアセスメントシートに記録することで、リスクの全体像を把握することが可能です。また、リスクアセスメントシートは計画の進捗管理や結果の評価にも役立ちます。

以下で、製造業におけるリスクアセスメントシートの書き方や記入例、記録と報告の重要性、実施後の見直し手順について詳しく解説していきます。

 

 

■ シートの書き方と記入例

製造業におけるリスクアセスメントシートは、以下のステップで作成します。

  1. リスクの特定
  2. リスクの評価
  3. 対策の策定

 

リスクの特定では、機械の故障や化学物質の漏えい、作業中の転倒など、作業現場で考えられるすべてのリスクを列挙します。

リスクの評価では、特定したリスクが発生した場合の影響度と発生頻度を記入します。

対策の策定では、評価結果に基づいて、機械の定期点検を強化する、化学物質の取り扱い手順を見直すなど、リスクを低減するための具体的な対策を記入します。

 

具体的な記入例としては、シートに「リスクの内容」「影響度」「発生頻度」「対策内容」などの項目を設け、それぞれに具体的な情報を記入します。例えば、「機械Aの故障による生産停止」をリスクとして挙げ、影響度を「高」、発生頻度を「中」と評価し、対策として「月1回の定期点検を実施」と記載するわけです。

 

 

■ 記録と報告の重要性

リスクアセスメントを実施した後、どのようなリスクが特定され、どのような対策が講じられたかをリスクアセスメントシートに記録することは、組織全体の安全性を向上させるための基本的なステップです。記録は単なるデータの蓄積ではなく、次回のリスクアセスメントや改善策の策定に役立つ情報源となり、過去の教訓を活かした継続的な改善が可能となります。

また、リスクアセスメントシートに記録した情報は、報告として関係者に共有されるべきです。報告を通じて現場の従業員や管理職がリスクへの理解を深め、適切な対応を取ることができるようになります。報告の際には、専門用語を避け、誰でも理解できるように説明するようにしましょう。

 

 

■ 実施後の見直し

リスクアセスメントシートは、リスク評価の結果や対策の効果を確認し、必要に応じて改善を行う際にも活用できます。実施後の見直しを通じて、予期せぬリスクが発生した場合や既存の対策が十分でないと感じた場合に、迅速に対応できる体制を整えることが可能です。

具体的な手順としては、まず実施したリスクアセスメントの結果を再評価します。ここで重要なのは、実際の作業現場でのフィードバックを収集することです。

次に、収集した情報をもとに、リスク評価の結果を再検討します。この際、リスクの優先順位や対策の適切性を再評価し、必要に応じて新たな対策を策定します。例えば、機械の故障リスクが高まっている場合、定期的なメンテナンスの頻度を見直すといった具体的な改善策を考えることができるわけです。

また、見直しの結果を文書化し、関係者全員に共有することも忘れてはいけません。これにより、組織全体での理解と協力が得られ、次回のリスクアセスメントに活かすことができます。

 

 

6. まとめ

今回は、製造業におけるリスクアセスメントの重要性や事例、実施手順について解説しました。製造業においては、リスクアセスメントの導入により作業環境の安全性が向上し、事故のリスクを低減できます。本記事で解説した事例と実施手順を参考に、リスクアセスメントを取り入れてみてはいかがでしょうか。

 

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