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下請法が 2025 年に改正され、その名称も「中小受託取引適正化法」(通称:取適法)に改められて 2026 年 1 月から施行されました。本稿では取適法改正のポイントを解説したうえで、今回の法改正をどのようにとらえるべきかをまとめました。
これまで下請法について具体的にご存知なかった、あるいは関心をお持ちでなかった方々も、これを機会に理解を深めていただき、委託先との取引状況について、あらためて見直してみていただければと思います。
1. 法改正のポイント
■法律名称および用語の変更
下請法はその正式名称を「下請代金支払遅延等防止法」といい、元請となるような大企業と、下請を担う中小企業との間で、取引上の力関係による不公正な取引を規制するために、1956 年に制定されたものです。
今回の改正では、法律の名称が「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」に改められました。政府の説明によると、「下請」という言葉に、委託側と受託側の上下関係を連想させる側面があることから、「下請」という言葉を使わない名称に改められたようです。
同様の考え方から、法律の中で用いられている用語も一部変更されています。下請法では、取引関係において優越的な地位にある大企業が「親事業者」、その事業者から業務を受託する側の企業が「下請事業者」と呼ばれていましたが、取適法ではこれらがそれぞれ「委託事業者」、「中小受託事業者」に変更されました。
■対象となる取引内容の追加
取適法では次の 5 種類の取引が対象になることが定められていますが、これらのうち e は今回の改正で追加されたものです。
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- a) 製造委託(メーカーが製品の製造や加工などを他の事業者に委託すること)
- b) 修理委託(物品の修理を請け負っている事業者が、その修理を他の事業者に委託することなど)
- c) 情報成果物作成委託(ソフトウェアの開発や映像コンテンツ、各種デザインなどの制作を行う事業者が、それらの作成作業を他の事業者に委託すること)
- d) 役務提供委託(自社が提供する各種サービスの全部または一部を他の事業者に委託すること(ただし建設工事を除く))
- e) 特定運送委託(物品の納品などに伴う運送行為を他の事業者に委託すること)
なお、e の「特定運送委託」が追加された背景としては、運送事業者が無償で荷待ちや荷物の積み下ろしなどを強いられている問題などが挙げられています。
■適用基準の変更
下請法では、法律を適用するかどうかが委託元/委託先それぞれの資本金に基づいて判断されることになっていましたが、取適法では常時使用する従業員数が基準として追加されました。
例えば製造委託や修理委託の場合、下請法では資本金が次のいずれかに該当する場合が適用対象となっていました(受託側には個人も含まれます)。
- 委託側 3 億円超/受託側 3 億円以下
- 委託側 1 千万円超 3 億円以下/受託側 1 千万円以下
取適法では、上の条件が該当しない場合であっても、従業員数が委託側で 300 人超、かつ受託側で 300 人以下であれば適用対象となります。
なお、具体的な適用基準は取引内容によって異なりますので、公正取引委員会などから公開されている各種資料をご確認ください。
(参考) 公正取引委員会による取適法リーフレット https://www.jftc.go.jp/file/toriteki_leaflet.pdf
■禁止行為の追加
取適法では委託事業者に対して、次のように 11 の禁止事項が定められています(なお a、c、d、j については、中小受託事業者に責任がない場合)。
これらのうち k は今回の改正で追加されたものです。また、手形による支払いが b の「支払遅延」に、代金振込の際の手数料を委託先に負担させる行為が c の「減額」にそれぞれ該当するものとして、今回の改正によって禁止されるようになりました。
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- a) 受領拒否
- b) 支払遅延
- c) 減額
- d) 返品
- e) 買いたたき
- f) 購入・利用強制
- g) 報復措置
- h) 有償支給原材料等の対価の早期決済
- i) 不当な経済上の利益の提供要請
- j) 不当な給付内容の変更、やり直し
- k) 協議に応じない一方的な代金決定
2. 法改正をどのようにとらえるべきか
■法改正にともなう注意点
取適法は、委託先との取引に関するリスクのうち、自社側で発生しうるコンプライアンス違反に関連する法律です。本稿の読者の多くは、何らかの形で委託先管理に関わっておられる方々だと思いますので、どちらかというと委託先に起因する様々なトラブルの方に、より高い関心をお持ちかもしれませんが、そういった方々にもぜひ、これを機会に自社側に起因するリスクについて、あらためて考えてみていただきたいと思います。
業務を委託する側の企業の立場で、実務面でまず注意すべきことは、法の対象範囲が拡大されたことです。従業員数による適用基準が追加されたことと、特定運送委託が対象に追加されたことから、従来は下請法が適用されなかった取引に対して取適法が適用される可能性があります。資本金の観点から下請法が自社に無関係だと思っておられた方々には、特にご注意いただきたいと思います。
また、従来から下請法の適用対象となっていた企業も含めて、「協議に応じない一方的な代金決定」という禁止事項が追加されたことにも注意が必要でしょう。業務を委託する側としては、本項に対する違反を疑われた場合に備えて、取引における協議の記録を残しておくべきだと考えられます。具体的には価格交渉に関するメールや、委託先との打合せの議事録、委託先に対する説明資料などが含まれます。
■取適法を活用して取引関係の再確認を
ところで、取適法が適用されない企業にとって、今回の法改正はどのような意味があるのでしょうか?
取適法で委託業者に対して定められている 4 つの義務と 11 の禁止行為は、本来は取適法で適用対象となるかどうかにかかわらず、全ての取引に対して遵守されるべきものであると言えます。つまり、本来このような法律がなくても行われるべき手続きが、特に大手企業と中小企業との間などで疎かにされやすいため、法律で規制しようとするものだと考えられます。
しかも、従来は下請法に対する違反行為については、公正取引委員会や中小企業庁が指導・助言を行ってきましたが、法改正にともない、事業所管省庁の主務大臣にも取適法違反に関する指導・助言の権限が付与されました。このように、違反行為に対する執行体制が強化されたということは、不公正な取引行為に対する政府の問題意識が高まってきたということでしょう。
そこで読者の皆様には、取適法を「公正な取引のために最低限必要な規範」として、委託先との間の契約内容や取引の状況を確認されることを提案したいと思います。取適法の適用対象になるかどうかを問わず、全ての委託先との取引を確認されることで、もしかしたら御社側でコンプライアンス違反になりそうなリスクを見つけられるかも知れません。
なお取適法とは別に、「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(フリーランス・事業者間取引適正化等法)通称「フリーランス法」が 2024 年 11 月から施行されています(もし取適法とフリーランス法の両方に違反する行為があった場合には、フリーランス法が優先的に適用されます)。委託先に個人事業主などが含まれる場合は、フリーランス法に定められている要件もあわせて確認されることをお勧めします。
取適法の第一条には、この法律の目的が「委託事業者の中小受託事業者に対する取引を公正にするとともに、中小受託事業者の利益を保護し、もつて国民経済の健全な発達に寄与すること」であると謳われています。この法律を遵守することを、コンプライアンス上の要件としてだけでなく、経済を健全に発達させるための社会的責任としてとらえ、公正な取引の実践に取り組んでいただければと思います。

- 執筆者
- 田代 邦幸 合同会社OfficeSRC代表/リスクマネジメントコンサルタント
- プロフィール
- 自動車メーカー、半導体製造装置メーカー勤務を経て、2005 年より複数のコンサルティングファームにて、事業継続マネジメント(BCM)や災害対策などに関するコンサルティングに従事した後、独立して 2020 年に合同会社 Office SRC を設立。
- SNS
- X(Twitter):@ktashiro_src
LinkedIn:https://www.linkedin.com/in/ktashiroSRC
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