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業務委託に関するリスクを軽減する方法は多岐にわたりますが、それらの中でも契約書は、業種や委託業務の内容を問わず用いられる普遍的な対策方法のひとつです。そこで本稿では、業務委託先(サプライヤーを含む)に関するリスクを軽減するための有力な対策としての、契約書の使い方に関するヒントをお伝えしたいと思います。
読者の皆様の中には、契約書を単に取引開始のための手続きのひとつとして認識されている方もおられるかも知れませんが、そのような方々にも契約書の重要性や有効性を再考していただければと思います。
なお、本稿で言及する内容の中には、契約書ではなく発注書や仕様書といった形で文書化される可能性があるものも含まれますが、本稿では便宜上、これらを全て「契約書」に記載するものとして説明させていただきます。
基本的なことですが、当事者間(委託元と委託先との間)で取り決めた内容は、文書化の有無にかかわらず全て「契約」ですので、たとえメールや口頭で決めたことであっても、当事者間で合意した内容は遵守しなければなりません。したがって本稿でこれから説明する内容について、必ずしも全て「契約書」に書くべきだということではありません。
取り決めた内容を忘れてしまったり、「言った」「言わなかった」などと後から揉めたりすると困るので、何らかの形で文書にしておく必要があり、その中でも「契約書」という形にするのが最も確実だということです。既にある程度の信頼関係ができていたり、委託業務の内容や結果に関して揉める可能性が低いものに関しては、細かいところまで契約書に書き込む必要は無いかもしれませんし、そうでない場合(つまりリスクの高い取引の場合)は取り決めの内容を具体的に契約書に記載すべきということです。
そのような前提に基づいて、本稿で以下に説明させていただく内容を実際にどのような文書に記載するかは、取引形態などの個別事情に応じてご検討いただければと思います。
また筆者は法律に関する専門家ではありませんので、本稿は一般的な留意点の紹介を目的としており、法的助言を提供するものではありません。契約書の作成・見直しにあたっては、社内の法務部門や弁護士などの専門家に相談してください。
取引条件の明確化
本題に入る前に前提を確認しておきましょう。委託先に対してリスクに関する調査を行う目的は、委託先に潜む様々なリスクを発見し、それらがどの程度深刻なのかを把握することです。調査を行った後は必要に応じて何らかの対策を講じることになりますが、対策すべき委託先が多数ある場合は、よりリスクの高い委託先から順に対策を実施するという判断が求められます。そのために必要なのが、委託先に対するリスクアセスメントです。
まず、契約書の基本事項として、委託する業務の内容や範囲、成果物の仕様、納期、検収方法、対価や支払い時期などといった基本的な取引条件が明確化されている必要があります。これらはリスク管理以前の問題であり、これらが事前に明らかになっていないと取適法の観点からも問題になり得ます。
秘密保持
恐らくほとんどの契約書では秘密保持に関する条項が含まれていると思います。一般的に秘密保持に関しては、秘密情報の定義(秘密情報として取り扱う情報の範囲)、目的外使用の禁止、返却・破棄義務、契約終了後に守秘義務が存続する期間などが取り決められますが、これらをどこまで具体的に記述するかは、業務内容やその業務で扱われる情報の内容、要求される秘密性の高さなどによります。特に秘密保持に関する要求が高い場合は、秘密保持に関する部分だけを単独の秘密保持契約書にすることも珍しくありません。
個人情報・データ保護
委託業務において個人情報や個人データが扱われる場合は、個人情報・データの保護に関する取り決めも重要になります。情報の漏洩を防止するという観点では前述の秘密保持と同様ではあるものの、それに加えて個人情報保護法で求められている、委託先に対する監督に関する取り決めが含まれている必要があります。
法令遵守・コンプライアンス
委託先で法令違反など何らかのコンプライアンス違反が発生した場合、委託元に対しても深刻な悪影響が及ぶ場合があります。全般的に法令遵守を求めるのはもちろんのこと、業務内容や委託業務の内容に応じて、特に遵守を求める項目を具体的に記述することも検討してください。
業務内容などを問わず共通して懸念されるものとしては、委託先における労働法や取適法などに対する違反、ハラスメントや差別行為などがあります。また業種や業界によっては、各種業法や監督官庁による規制やガイドライン、業界団体などが定めたルールやガイドラインなどの遵守を求めることも必要でしょう。
委託業務の内容によるものを本稿で網羅するのは難しいですが、代表的なもののひとつは知的財産権の侵害を禁止することです。何らかの創作(例えばイラストや映像、文章など)を伴う業務を委託する場合、業務において他者の知的財産権を侵害しないよう求めるべきです。これ以外にも、委託業務に関連してどのような法令違反やコンプライアンス違反が発生しうるかを検討し、委託先に対して明示的に遵守を求めることを検討していただければと思います。
反社会的勢力の排除
前述のコンプライアンスとも関連しますが、反社会的勢力の排除に関する条項も、今日ではほとんどの契約書に含まれていると思います。一般的には、自らが反社会的勢力に該当しないことや、会社および役職員が反社会的勢力と関係を持っていないこと、今後も関係を持たないことを保証させ、これに違反した場合には直ちに契約を解除できることを定めます。これも業務内容などにかかわらず、全ての契約に含まれるべき条項です。
AI の利用に関する条項
委託先においても AI の活用は広がりつつあると考えられますので、AI の利用によるリスクを考慮した取り決めも検討する必要があるかも知れません。一般的には、AI の利用に起因するリスクとしては次のようなものが考えられます。
- a) AI に読み込ませた情報がプロバイダーを通して漏洩する
- b) AI に作成させた成果物に他者の知的財産が含まれてしまう
- c) AI のハルシネーションなどにより不正確な情報が混入する
これらはいずれも他の条項で既にカバーされているものです。上の a は「秘密保持」や「個人情報・データ保護」、b は「法令遵守・コンプライアンス」の範疇ですし、c に関しても成果物の内容に問題があった場合は「取引条件の明確化」で定める成果物の仕様や検収などでカバーされると考えられます。しかしながら AI の活用が急速に進む中で、前述のようなリスクに対する認識が甘いまま委託業務に活用されてしまうことも十分考えられますので、注意喚起の意味も含めて、AI に関して独立した条項を設けることにも一定の意義があるのではないでしょうか。
委託業務の内容によっては、委託先における AI の利用を制限するか、AI による悪影響を防ぐために何らかの管理策を求めることなどが考えられます。
再委託の制限
ここまで述べてきたことを、再委託先や、さらにその先(再々委託先など)に対しても求めていく必要があります。可能であれば再委託を禁止するのが最も簡単なのですが、業務の内容や取引構造などから再委託が避けられない場合は、再委託に対して何らかの制限や管理が必要になるでしょう。
一般的によく行われるのは、委託元と委託先との間の契約で定められているルールを、再委託先に対しても同様に適用するよう求め、再委託先にこれらを遵守させることを委託先の責任とすることです。また、再委託をすることに対して事前に委託元の承諾を求めることや、委託元から開示する秘密情報や個人情報を、再委託先に開示することを禁止するなどといった方法もよく用いられます。
委託先に対する監査
定期的に、もしくは必要に応じて、委託先に対して監査を行う権限を認めさせることも有効です。実際に監査を行うためには、それなりにマンパワーやコストがかかりますので、委託先に対して「必ず定期的に監査する」と定めてしまうと、委託元の負担が増えすぎる懸念があります。したがって「監査することがある」という程度にしておき、特に重要な業務の委託先や、秘密性の高い情報を開示している委託先などを中心に、必要に応じて監査を行えるようにしておくのが現実的でしょう。
事故が発生した際の報告義務
委託先において情報漏洩やサイバーアタック、事業中断など何らかの事故が発生した場合、委託元としても直ちに状況を把握できないと、対応が後手に回ってしまいます。したがって委託元が迅速に対応できるようにするために、委託先で何らかの事故が発生した場合に、委託元に対して直ちに報告することを義務付けることが必要になります。具体的な連絡方法や連絡先などは別途定めるとして、事故が発生した場合に遅滞無く報告する義務があることを契約書で明示しておくべきでしょう。
まとめ
本稿では委託業務の内容や取引関係などを問わず共通の内容を中心に述べてきましたが、個別事情に応じて、損害賠償や損害保険加入の義務化、契約解除の条件など、様々な条項を含めることにも検討の余地があります。
本稿で説明した条項を契約書に明記することが、委託先に対する注意喚起にも繋がりますので、委託業務の内容や委託先のリスクの大きさなどに応じて、これらをどこまで求めるのか、どこまで具体的に明文化するか、などをご検討いただければと思います。既に契約締結済みの委託先に関しても、契約更改のタイミングなどで、必要に応じて契約内容を見直してみてはいかがでしょうか。

- 執筆者
- 田代 邦幸 合同会社OfficeSRC代表/リスクマネジメントコンサルタント
- プロフィール
- 自動車メーカー、半導体製造装置メーカー勤務を経て、2005 年より複数のコンサルティングファームにて、事業継続マネジメント(BCM)や災害対策などに関するコンサルティングに従事した後、独立して 2020 年に合同会社 Office SRC を設立。
- SNS
- X(Twitter):@ktashiro_src
LinkedIn:https://www.linkedin.com/in/ktashiroSRC
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